世界のニートはなぜ生まれるのか 各国データが映す若者排除の構造

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裕福な家庭でギャップイヤーを楽しむ若者と、重いうつ病で部屋から出られなくなった若者。仕事を探しあぐねる失業者と、親の介護に追われて求職そのものをあきらめた女性。境遇はまるで異なるのに、労働統計の上ではどれも同じ「1」として数えられる。就学も就労も職業訓練もしていない若年層を指す「NEET(Not in Education, Employment, or Training)」という分類は、いまや若者の社会的排除や脆弱性を映す重要な指標となった。だが、その単純さがかえって実態を覆い隠してもいる。本稿では、概念の成り立ちから各国の固有事情までをたどり、世界のニート問題が個人の怠惰ではなく社会構造の矛盾の表れであることを、データに即して描き出す。

1 概念の系譜と統計の枠組みを解きほぐす

若年層の非労働力化・非就学化を示すNEETという概念は、単なる労働統計上の分類を超え、現代社会において若者の置かれた状況を測るリトマス試験紙となっている。ただし、これが世界各国で政策指標として導入される過程で、その定義や測定の方法には無視できない多様性と限界が生じた。マクロデータを表面的に比べるだけでは、誤った結論にたどり着きかねない。

1.1 「NEET」という言葉の誕生と国際機関による定義の分岐

NEETという言葉が生まれたのは1990年代の英国である。当初は16〜18歳の学校中退者や非就労者を対象とする労働政策の分析枠組みとして使われた。1999年、英国政府の社会的排除ユニット(Social Exclusion Unit)の年次報告書で公式に採用されると、若者が労働市場の周縁へ押しやられる状況を示す指標として、世界へ急速に広まっていった。

現在、国際労働機関(ILO)と経済協力開発機構(OECD)が用いる国際標準の定義では、NEETとは就業しておらず、かつ公式な教育や訓練も受けていない若年層を指す。ILOが示す標準的な算出式は、求職活動を行う失業者と、求職活動すら行わない非労働力人口を合算し、そこから教育・訓練を受けている者を差し引くという構造をとる。

指標 算出式(構成要素)
分子 (失業中の若者 + 労働力人口外の若者)-(教育・訓練を受けている失業中の若者 + 教育・訓練を受けている労働力人口外の若者)
分母 総若年人口

この国際基準の眼目は、職を探している失業者と、探してすらいない非労働力人口を一つにまとめ、そのうえで教育・訓練の参加者を除いている点にある。欧州統計局(Eurostat)はこの枠組みを踏襲しながらも、分母となる総人口から、正規の教育・訓練に関する質問に答えなかった者を統計的な雑音として除く、より厳密な処理を施している。

対象となる若年層の年齢にも、国際的な統一はない。ILOや世界銀行の標準指標は15歳から24歳を対象とするが、Eurostatは15歳から29歳までと幅を広げ、日本の厚生労働省は15歳から34歳までを含める。国際比較を行う際には、こうした測定基準のずれを補正してからでなければ、数字は容易に人を欺く。

1.2 マクロ統計が覆い隠す「異質性」のジレンマ

NEET率は、従来の若年失業率よりも若者の雇用課題の規模を正確にとらえる指標として評価されてきた。失業率には厄介な癖がある。進学率が上がって労働力人口、すなわち分母が縮むと、失業者の実数が増えていなくても失業率は上昇してしまう。NEET率はこの分母効果の歪みを受けにくい。

ただし、単一の数字としてのNEET率は「森を隠す木」と批判される。その内側に、まったく性質の異なる集団を抱え込んでいるからだ。モロッコの労働力調査を分析した研究は、NEETという統計上のカテゴリが少なくとも5つの下位集団に分かれ、それぞれに別個の政策対応を要すると指摘している。

第一は求職者で、短期あるいは長期の失業状態にありながら、積極的に仕事を探している層である。第二は制約者と呼ばれ、家族の介護や育児、家事労働といった避けがたい責任のために求職活動ができない。第三は失望失業者で、過去の就職活動でくり返し挫折し、意欲そのものを失って受け身になっている。第四は選択的NEETであり、裕福な家庭や厚い人脈を背景に、自らの意思でギャップイヤーや休息を選び取っている。第五は健康問題を抱える層で、身体や精神の障害、慢性疾患のために就労が難しい。

これら異質な集団を一つのNEET率へ束ねることは、政策立案者を誤った方向へ導きかねない。労働市場に関心を持たない富裕層の子弟と、重いうつ病で引きこもる若者が、マクロ統計の上ではまったく同じ「1」として数えられてしまう。とりわけ労働力調査(LFS)にもとづく統計は、調査票の設計やサンプル規模、回答者の自己申告の正確さに大きく左右され、測定誤差や実態とのずれが生じやすい。数字の粗さを承知のうえで読む姿勢が要る。

2 マクロ経済へのインパクトと労働市場の構造的欠陥

NEETの増加は、個人のキャリアが遅れるというミクロな話にとどまらない。国家全体の経済成長を鈍らせ、社会保障の土台を揺るがすマクロな脅威である。


2.1 莫大な経済的コストと「賃金の傷跡」

高水準のNEETがもたらす経済的コストは、3つの経路をたどって現実のものとなる。一つは放棄された生産性、すなわち本来生み出されたはずの付加価値が失われること。次いで人的資本の喪失で、訓練も経験も積まれないまま能力が朽ちていくこと。最後が、失業給付や生活保護といった財政負担の増大である。複数の経済推計は、このコストがEU加盟国の総GDPの約1%、OECD諸国の総GDPの0.9%から1.5%に達すると見積もっている。

事態がとりわけ深刻なのが英国だ。約100万人のNEETがもたらす累積的な年間損失は1250億ポンドにのぼると試算され、これは教育機関への国家予算全体を上回る規模である。英国政府の推計では、企業の生産性低下で年間850億ポンド、国家の財政負担で年間2120億ポンドが失われており、合わせてGDPの約7%に相当する。

無業の代償は、その時点の損失では終わらない。ミクロ経済学の実証研究は、若いころの無業期間が将来の所得に消えない傷を残す「賃金の傷跡」を明らかにしている。英国の縦断データを用いた分析では、22歳時点での1年間の若年失業が、42歳時点の賃金を13%から21%も押し下げる。米国の研究でも、22歳でのわずか6か月の失業が、30歳時点の所得を約4%下げると確認された。いま英国でNEET状態にある24歳の若者の45%は就労経験をまったく持たず、仮に労働市場へ戻れたとしても、生涯賃金で最大30万ポンドを失うと推計されている。

2.2 マクロ経済指標との相関

マクロ経済環境とNEET率のあいだには、はっきりとした構造的な関係がある。国連経済社会局(DESA)の分析によれば、一人当たり実質GDP、つまり経済発展の度合いとNEET率のあいだには強い負の相関があり、豊かな国ほど若者の労働参加が進む。所得の不平等を測るジニ係数とのあいだには正の相関が認められ、格差の大きい社会ほど若者を包み込むことに失敗している。

世界銀行の「ビジネス環境の現状」とNEET率を突き合わせると、新規創業への規制が緩く、企業の成長を妨げない環境を持つ国ほど、NEET率が低く抑えられる傾向が見える。アフリカ諸国などの例外はあるものの、おおむねこの関係は成り立つ。とはいえ、ビジネス環境ランキングで最上位にある米国でさえ13%のNEET率を抱える。企業活動の自由化だけでは若者の労働市場への統合は完結しない。より広い社会的セーフティネットや、教育制度の作り替えが要るという事実を、この数字は静かに告げている。

2.3 「学校から職業への移行」をめぐる制度比較

若者が労働市場で成人と比べてどれほど不利を被るかは、各国が築いてきた「学校から職業への移行(School-to-Work)」の仕組み次第で大きく変わる。ドイツでは若年層と成人の失業率にほとんど差がない。ところが南欧や東欧では、若年失業率が成人の3倍から4倍に跳ね上がる。

この隔たりを生む最大の要因が、労働市場と教育システムの結びつきの強さである。ドイツをはじめ中央ヨーロッパで機能してきた「デュアルシステム」は、学校での座学と、企業での実地訓練であるアプレンティスシップを同時並行で進める制度だ。失業率の低下、NEET率の抑制、長期的な雇用の安定のいずれにも効果があると実証されている。若者は企業に固有のスキルを実践のなかで身につけながら、段階を踏んで正規の労働市場へ入っていける。

デュアルシステムの伝統を持たない国でも、制度を移植した成果が現れはじめた。カナダとオーストラリアは、フルタイムのアプレンティスシップに進む前段階として「プレ・アプレンティスシップ」を導入し、若者と労働市場の接点を増やしている。カナダの制度は座学の重複を避けるために明確な単位認定を行い、オーストラリアの制度は雇用主が不適格な候補者を早めに見極める役割も担う。フランスは、企業からの賦課金免除と公的補助金を組み合わせる制度改革によって、アプレンティスシップの開始件数を年間50万人規模まで一気に押し上げた。

対照的なのが、労働市場の保護規制が強く「二重労働市場」が生まれた南欧や、後述する日本のように移行の仕組みが極端に硬直した国々である。安定した高賃金のインサイダーと、不安定で低賃金の非正規にとどまるアウトサイダーとの分断が固定化し、アウトサイダーがNEETへと転がり落ちる危険が、構造として高まっていく。

3 家族・規範・アイデンティティ 文化人類学と社会学からの接近

NEET現象は、経済的な要因だけでは説明しきれない。それぞれの社会が抱く家族の定義、若者の独立をめぐる文化的な期待、そして労働倫理といった基盤が、この現象の発生の仕方と形を決めている。

3.1 家族主義と、福祉国家の機能的な肩代わり

人類学では、近代的な核家族を普遍の制度とみなす見方が、ブロニスワフ・マリノフスキらの機能主義への批判を通じて問い直されてきた。愛情や養育という機能が、核家族という特定の空間や特定の血縁だけに割り当てられるわけではない、というのが人類学的な知見である。家族の定義も機能も文化によって大きく異なり、その違いが若者の自立支援のかたちを左右する。

比較福祉国家論の視点に立つと、地理も歴史もまるで異なる南ヨーロッパ(イタリアやスペイン)と東アジア(日本や韓国)のあいだに、驚くほどの制度的な似通いが見つかる。どちらの地域も「家族主義的福祉国家」を形づくってきた。この体制のもとでは、失業給付や若者向けの住宅手当といった公的なセーフティネットが構造的に弱く、その穴を、親世代による経済的支援と住む場所の提供が暗黙のうちに埋めている。ケアや生活保障の責任を家族から切り離す「脱家族化」は、いちじるしく遅れたままだ。

結果として、これらの地域では若者の失業や無業がただちにホームレス化や絶対的貧困へ直結しにくい。その代わり、実家での生活に長くとどまることが可能となり、NEET状態の長期化と潜在化を促す巨大な温床が用意される。守られていることが、抜け出せなさへ反転していくのである。

3.2 無業の若者を名づける言葉と社会規範

家族主義のパラダイムのなかで、親に依存しつづける若者を言い表す独自の言葉が各国で生まれ、その社会の価値観を映してきた。

イタリアでは「バンボッチョーニ」と呼ぶ。2007年、当時の経済財務相が、30代になっても親元を離れない大勢の若者を「大きな赤ん坊」を意味するこの言葉で評し、論争を巻き起こした。ドイツの「ネストホッカー」は、巣立ちの遅い晩成性の鳥になぞらえた表現で、いつまでも「ホテル・ママ」に居つづける若者を指す。日本の「パラサイト・シングル」は、1997年に社会学者の山田昌弘が提唱した概念で、学校を出たあとも親と同居し、基礎的な生活費を親に頼りながら、自分の収入は娯楽や消費に回す若者を意味する。英語圏では、いったん独立しながら経済的な事情で実家へ戻る若者を「ブーメラン世代」、青年期と成人期のあいだで立ち往生する世代を「ツイクスター」と呼ぶ。

注目すべきは、同じ現象に対する社会規範が地域で大きく異なる点である。プロテスタンティズムの倫理が根を張る北欧やアングロサクソン圏では、労働を通じた自立が道徳的な義務とされ、実家への依存には強い烙印がつきまとう。東アジアや南欧では事情が違う。20世紀に経験した「圧縮された近代化」、その急成長が終わり長い停滞へ移るなかで、若者が実家にとどまることがむしろ経済合理的な選択となった。伝統的な世間体とのあいだで揺れる感情を抱えながらも、それは社会的に許容されている。

ジェンダーとNEETの関係にも、強い文化的な偏りが刻まれている。中東や北アフリカ、南アジアの多くの国では、女性のNEET率が男性をはるかに上回る。モロッコのデータでは、15〜24歳のNEET人口のうち73.4%を女性が占め、その大半が育児や家事を強いられる制約者だ。家父長制的な規範が女性を公的な労働市場から締め出し、家庭のなかへ囲い込んでいる現実が、そのままマクロ統計に表れている。

4 国・地域別ケーススタディの深層

本稿ではここから、統計の表層だけでは読み取れない各地域固有の構造と、近年の推移へ分け入っていく。

4.1 英国 メンタルヘルス危機と「構造的な非労働力化」

NEETという概念の発祥地である英国は、いまきわめて深刻な構造的危機のただなかにある。アラン・ミルバーンが主導した政府委託レビューの中間報告は、現状を「道徳的危機」と呼び、英国が「失われた世代」を生み出す瀬戸際にあると警鐘を鳴らした。2026年第1四半期の英国国家統計局(ONS)のデータでは、16〜24歳の若者のおよそ8人に1人、100万人近くがNEET状態にある。

より深刻なのは、その中身の質的な変化である。かつてのNEETは景気の波に応じて生まれる求職中の失業者が中心だった。いまはNEETの約60%、61万3000人が「経済的非活動」、つまり仕事を探してすらいない状態に分類される。現在のNEETの10人に6人が一度も就労経験を持たない。2005年には10人に4人だったことを思えば、悪化は著しい。

この構造的な非労働力化を最も強く後押ししているのが、若年層のメンタルヘルス危機である。過去3年間の経済的非活動の増加分のうち、約52%が健康問題、その多くが不安障害やうつ病といった精神疾患に起因する。いったん健康を理由に労働市場から外れた若者が再び戻ることはきわめて難しく、いまの福祉制度や就労支援が根本から機能不全に陥っていると指摘されている。

問題は地理的・経済的な不平等とも分かちがたく結びつく。富裕なロンドン北部のバーネット地区では16〜17歳のNEET率がわずか1%にとどまる一方、脱工業化による衰退が著しいウェスト・ミッドランズのダドリー地区では21.5%に達する。若者が労働市場から退いていくのは、本人の資質の問題ではない。地域社会の崩れと、福祉や教育へのアクセスの格差が生んだ、避けがたい帰結である。

4.2 韓国 「休んでいる」青年の急増と高学歴化の罠

韓国では、若者のNEET問題が「쉬었음(休んでいる)」という独自の統計区分とともに深刻化している。この区分が指すのは、求職活動も通学もしておらず、重い病気もないのに、ただ労働市場から退いて休んでいる若者である。

韓国統計庁のデータによれば、2026年7月時点で、この休んでいる15〜29歳の青年は過去最悪の44万3000人に達し、前年同月から4万2000人増えた。若年人口全体の約5.4%にあたり、2010年代前半の2%台から倍増している。

見逃せないのは、この層の75.6%、33万5000人が、就業の意思を問われて「働きたいとは思わない」と答えている事実だ。働く意思のある者でも、その42.9%が「賃金や労働条件を満たす質の高い雇用がない」ことを理由に挙げる。

韓国銀行が2026年に行った詳細な分析は、世間の通念を覆した。休んでいる青年たちは、必ずしも大企業病と揶揄されるような高すぎる期待を抱えているわけではない。平均の希望年収は約3100万ウォンで、希望する就職先の半数近くが中小企業であるなど、目線はほかの未就業の若者と大差なく、むしろ低いほどだ。

それでも彼らが休息を選ぶ背景には、韓国に固有の極端な高学歴社会と、労働市場のミスマッチがある。熾烈な受験戦争と、語学スコアや資格を過剰に積み上げるスペック競争を勝ち抜き、高い人的資本を蓄えた若者にとって、韓国の労働市場が差し出す雇用の大半、すなわち非正規職や条件の悪い中小企業は、投じた資本に見合わない。恋愛も結婚も出産も、あらゆるライフイベントを断念する「N放世代」という韓国独特の絶望感と、この状況は深く結びついている。

しかも休んでいる層は、専門大学卒以下の学歴で4年制大卒以上より6.3ポイント高く現れる。いったん労働市場を離れると、戻るための動機が働きにくい構造がそこにある。

無業期間 労働市場への自発的な復帰(脱出)確率
1年目 80.6%
2年目 52.5%
3年目 22.8%
4年以上 7.1%

表が示すとおり、韓国のデータは無業状態からの脱出に明確な「ゴールデンタイム」があることを物語る。卒業から1年以上が過ぎてから政策が介入しても、若者はすでに自発的に労働市場へ戻れない状態に陥っている公算が高い。早期に手を差し伸べる仕組みづくりが急がれる。

4.3 日本 「新卒一括採用」の影と「ひきこもり」

日本の若年労働市場は、少子化による構造的な人手不足を背景に、表向きはきわめて好調に見える。2024年の15〜24歳の完全失業率は4.0%、2025年卒の大学等卒業者の就職率は98.0%と高い水準を保つ。

ところがその裏側で、15〜34歳の非労働力人口のうち家事も通学もしていない若年無業者の比率は、2012年のピークからいったん下がったあと、近年ふたたび上昇に転じ、2025年には2.5%と近年で最も高い水準を記録した。

日本の若年雇用を規定し、同時にNEETを生み出す最大の構造要因が、「新卒一括採用」という独自の慣行である。大学では3年次から学生が一斉に就職活動を始め、卒業の1年前に内定、半年前には正式な内定を得る流れが標準になっている。この仕組みは若者を学校から職場へ滑らかに送り出す一方で、ただ一度の機会を逃した者にはきわめて過酷な結果を突きつける。

新卒のときに正規雇用の切符を取りそこねた若者は、既卒者として労働市場へ放り出され、その多くが不安定な非正規雇用、いわゆるフリーターや無業へと転落していく。後戻りのきかないこの移行の道筋が、若者に過度の同調圧力と心理的な重圧を課している。

日本に固有の現象として国際的な関心を集めてきたのが「ひきこもり」である。内閣府の調査にもとづく推計では100万人以上が存在するとされるが、これは単なる怠惰や精神医学の診断基準へ還元できるものではない。文化人類学や社会学の視点からは、ひきこもりは現代の日本社会が課す過酷な競争、ブラック企業に象徴される労働文化、そして世間からの「恥」に対する、自己防衛的な撤退として理解される。文化に固有の苦悩の表現と言ってもよい。


所属や承認のかたちが、学校や特定の企業という集団への帰属に極端に偏っている社会では、いったんそのレールを外れた若者は居場所を丸ごと失う。NEETとひきこもりのリスク要因を心理的なスペクトラムとして測る研究によれば、あえて定職に就かないフリーター志向、強い自己有能感の欠如、そして将来への不明確な野心という3つの脆弱性が、両者に共通して見いだされる。日本のNEET問題は、雇用のミスマッチであるよりも、社会の承認の仕組みと価値観そのものが抱える病理の反映なのである。

4.4 欧州とその他の地域 債務危機の爪痕と頭脳流出

OECD全体では、18〜24歳のNEET率の平均は約14%である。だがコロンビア、トルコ、南アフリカなど一部の国では25%を超え、若者の包摂という点で壊滅的な状況にある。南アフリカの2024年のNEET率は34.6%に達した。

一方、2010年代の欧州債務危機で若年失業率が天文学的な水準まで跳ね上がった南欧と東欧では、直近10年でNEET率が目に見えて改善している。

欧州諸国 2015年 NEET率(%) 2025年 NEET率(%) 増減(pp)
イタリア 25.7 13.3 -12.4
ギリシャ 24.1 13.6 -10.5
クロアチア 19.8 10.8 -9.0
スペイン 10.5(2025推計)
ルーマニア 19.2(EU内最悪)

イタリアの12.4ポイント、ギリシャの10.5ポイントという大幅な低下は、表向きは労働市場の回復を示すように映る。しかし、この数字の下落を手放しで喜ぶのは危うい。南欧諸国のNEET率低下の裏には、国内での純粋な雇用創出だけでなく、慢性的な機会の不足に絶望した高学歴の若者が、より良い条件を求めて国外へ去っていく「頭脳流出」が大きく作用しているからだ。経済危機のあいだに、ギリシャからは約20万人の若者、その大半が高等教育の修了者が国外へ流出したと推計されている。

若い労働力の流出は、長い目で見れば国のイノベーションの基盤を空洞化させ、年金など社会保障を支える人口の均衡を崩していく。統計上のNEET率が下がったとしても、南欧に根を張る家族主義の呪縛や、二重労働市場の硬直が根本から解けたわけではない。

5 結論 社会構造の再設計に向けて

世界各地から集めたエビデンスを束ねると、一つの結論がはっきりと浮かび上がる。現代のNEET問題は、若者個人の怠惰や労働意欲の欠如といった道徳的・個人的な次元へ帰すべきものではない。それは、経済の構造的な停滞、硬直した労働市場、精神的なストレスを極限まで増幅する過当競争、そして旧態依然とした家族主義的福祉体制が複雑に絡み合った、現代資本主義と社会システムの矛盾の表れである。ここから導かれる政策的な含意を、4つの方向に整理しておきたい。


第一に、統計と政策の解像度を上げることである。NEETという単一の指標にもとづく「ワンサイズ・フィッツ・オール」の雇用政策は、もはや機能していない。政策立案者は、マクロ統計の背後に隠れた異質性、すなわち求職者、制約者、失望者、健康問題を抱える層を正確に切り分け、的を絞った支援を講じなければならない。求職中の若者にはスキル訓練とマッチングを、家族のケアに縛られた若者、とりわけ女性には育児や介護の社会化を、メンタルヘルスに課題を抱える若者には医療と福祉の介入を、それぞれ別個に届ける必要がある。

第二に、脱家族化の推進と、個人を単位とした自立支援である。日本、韓国、イタリア、スペインに共通する家族主義的福祉国家では、若者の生存保障と自立支援を親の経済力や住む場所に頼る仕組みから抜け出すことが急務だ。世帯ではなく個人の単位でアクセスできる公的な住宅手当、基礎的な所得保障、無償の職業訓練を整えなければ、親世代の資産が尽きた瞬間に、大量の中高年無業者が社会保障の土台を物理的に押しつぶすことになる。

第三に、学校から職業への移行の経路を多様にし、柔らかくすることである。日本の新卒一括採用や、韓国の極端なスペック競争に見られる、正規ルートが一本しかない硬直した移行モデルは、若者に過剰な重圧をかけ、一度つまずいた者を後戻りのきかない絶望へ追い込む。ドイツ型デュアルシステムの成功や、カナダとフランスにおけるアプレンティスシップの柔軟な運用に学び、教育と労働市場のあいだを何度でも往復できるリカレント教育を広げ、非正規からインサイダーへの移行を可能にする法制度を整えることで、労働市場の二重構造を解体していくべきである。

第四に、メンタルヘルスの保護を組み込んだ初期段階での介入である。英国の悲惨なデータが示すように、現代のNEETの多くは経済的な問題である以前に、健康とりわけメンタルヘルスの問題である。韓国のデータが示すように、無業が1年を超えた段階で、社会復帰の可能性は幾何級数的に失われていく。教育機関から労働市場へ移る初期、いわばゴールデンタイムのうちに、精神保健福祉機関、学校、労働行政が切れ目なく連動する統合的なセーフティネットを働かせ、社会からの脱落を未然に防ぐことが欠かせない。

NEET現象は、それぞれの社会が人間の価値をどう測り、若者にどんな居場所を差し出せているかを映す、残酷な鏡である。マクロの労働力不足を埋めるために若者を無理やり労働市場へ引き戻すのではない。労働市場そのものが提供する雇用の質を高め、多様な生き方や、ときには一時的な休息が烙印なしに許される社会心理的な安全網を編み直すこと。それこそが、長期的な経済的損失を防ぎ、次世代の持続可能性を守る、ただ一つの道筋である。

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