求職者が履歴書から年齢の痕跡を消している。Use.AIが4,263人に聞いた調査で、その手口と効果が数字になった。
1 履歴書にボトックスを打つ
卒業年を消す。駆け出しのころの職歴を切り落とす。上級職の肩書きを言い換える。LinkedInの写真を、より若く見えるものに差し替える。
こうした手直しに、英語圏では名前がついた。レジュメ・ボトックスである。顔に打つあれと同じで、しわを消して若く見せる。
本稿では別稿で、英国の中高年女性が履歴書から年齢と経歴を削っていた話を扱った。BBCが40歳から65歳の女性60人超に取材した記事がもとで、16か月職が決まらなかった52歳の女性や、442社に応募して返信が数件だった49歳の女性が出てくる。あれは個別の証言だった。
今回は、数字が出た。
2 42パーセント
Black Enterpriseが2026年10月20日に報じた、記者セレーナ・ヒルの記事による。もとになっているのはUse.AIの調査で、過去1年に求職した4,263人が対象である。
回答者の42パーセントが、年齢を隠すか若く見せるために、履歴書またはLinkedInのプロフィールを変更していた。
4割を超えている。例外的な行動ではない。求職の標準装備になりつつある、と言ったほうが近い。

そして、この数字は属性で大きく割れる。45歳以上の女性では53パーセント。同じ年代の男性は35パーセントだった。
18ポイントの差である。年齢と性別が重なったところに、圧力が集中している。
3 7割超が、AIに若作りをさせている
この調査でいちばん新しいのは、次の数字だろう。
プロフィールを変更した人のうち、72パーセントがその変更にAIを使っていた。
自分で書き直すのではなく、AIに頼む。「この職務経歴書から年齢が分かる要素を取り除いて」と指示すれば、卒業年も、古い技術の名前も、年代を感じさせる言い回しも、まとめて処理される。人間が自分でやれば抜けが出る作業を、AIは漏れなくやる。
職務経歴書をAIで整えること自体は、いまや普通の行為になった。ただしその用途の中身に、年齢の痕跡を消すという項目が入っている。それが4,263人規模の調査で見えたのは、今回が初めてに近い。
4 効いた。ただし1割は逆効果だった
気になるのは効果である。
AIを使って変更した人のうち、43パーセントが「面接の機会が増えた」と答えた。一方で10パーセントは「減った」と答えている。
43対10。やった人の実感としては、効いたという声が大きく上回る。
ただし、この数字の読み方には注意がいる。これは本人の自己申告であり、対照群を置いた実験ではない。同じ人が変更しなかった場合にどうなったかは分からない。また母数は「プロフィールを変更し、かつAIを使った人」であって、求職者全体ではない。
それでも、1割が逆効果だったという部分は示唆的だ。経歴を削れば、その分だけ実績も消える。消しすぎれば、今度は中身の薄い候補者に見える。
5 なぜ、そこまでするのか
理由は単純で、年齢で落とされるのが怖いからである。
AARPの金融レジリエンス・プログラミング担当バイスプレジデント、カーリー・ロシュコウスキーの言葉が引かれている。
「年齢差別は、私たち全員がいずれ通ることになる唯一の差別だ」
人種も性別も、当事者になる人とならない人がいる。年齢だけは、生きていれば全員が通る。
恐れの対象は人間の採用担当者だけではない。AIエージェントも年齢差別の主体になりうると見られている。実際、本稿では別稿で、AIの書類選考が年齢で応募者を落としていた事例を扱った。米iTutorGroupは55歳超の女性を自動で不合格にし、36万5,000ドルで和解している。
記事はまた、2025年に学術誌Computers in Human Behaviorに載った研究にも触れている。HR専門家366人を対象に、LinkedInの選考と年齢バイアスを調べたものだ。
6 消したものは、雇う側が欲しかったものである
この話の皮肉は、最後にある。
削られるのは、卒業年だけではない。初期キャリアの職歴、上級職の肩書き、長く続けた仕事で積み上がった実績。Black Enterpriseの記事が指摘しているのは、経験のある候補者が、雇用主が必要としているはずのものを自分で小さく見せざるをえなくなっている、という構図である。
指導した経験。組織の中で何が起きるかを知っていること。失敗の記憶。どれも年数からしか生まれないのに、年数が分かると落とされる。だから隠す。隠した結果、その人の価値も見えなくなる。
参考として、別の調査にも触れておく。Monsterの2026 State of Résumés Reportでは、求職者の77パーセントが人間に読まれる前に応募が弾かれることを懸念しており、履歴書が丁寧に読まれていると考えるのは6パーセントだった。これはUse.AIの調査とは別のものだが、不信の中身は変わらない。
誰も読んでいないかもしれない書類のために、全員が年齢を消している。そういう状態が、いま起きている。
よくある質問
履歴書ボトックスとは何か?
年齢を隠すか若く見せるために、履歴書やLinkedInのプロフィールを手直しすることを指す英語圏の呼び方である。具体的には卒業年の削除、初期キャリアの職歴の切り詰め、上級職の肩書きの変更、より若く見える写真への差し替えなど。Use.AIの調査では、過去1年に求職した4,263人のうち42パーセントがこうした変更をしていた。
どのくらいの人がAIを使っているのか?
プロフィールを変更した人のうち72パーセントが、その変更にAIを使っていた。職務経歴書をAIで整えること自体は一般的になったが、その用途に年齢の痕跡を消す作業が含まれている点が今回の調査で可視化された。
年齢を隠すと、本当に面接は増えるのか?
AIを使って変更した人のうち43パーセントが面接の機会が増えたと答え、10パーセントは減ったと答えた。ただしこれは本人の自己申告であり対照群のある実験ではなく、母数も変更してAIを使った人に限られる。経歴を削りすぎると実績まで消え、中身の薄い候補者に見えるという副作用もある。
誰がいちばんこの行動をとっているのか?
45歳以上の女性で53パーセント、同年代の男性で35パーセントと、18ポイントの差がついた。年齢と性別が重なる層に圧力が集中している。AARPのカーリー・ロシュコウスキーは「年齢差別は、私たち全員がいずれ通ることになる唯一の差別だ」と述べている。


