中高年の転職が厳しい本当の理由──履歴書に「ボトックス」を打つ女性たち

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英国の52歳の女性は16か月で職が決まらず、履歴書から年齢と経歴を削った。本人はそれを「履歴書にボトックスを打った」と呼ぶ。


中高年の転職は厳しい。そう言われて久しいが、実際に応募してみると、厳しさの手ざわりは想像と違う。落とされるのではない。何も返ってこないのだ。数十年ぶんの実績を書いた書類を送り、届くのは自動の不採用通知か、無音である。

BBCが2026年8月に報じた英国の取材は、その無音の向こうで何が起きているのかを追っている。

履歴書にボトックスを打った52歳

ステイシー・デュギッドは52歳。ファッション業界で数十年にわたり上級管理職を務め、フリーランスとしても働いてきた。ロンドン北部に住む彼女は「最後にもう一つ仕事を」と決めて職探しを始めた。それまで、仕事探しに苦労した経験はない。

16か月かかっても決まらなかった。送った履歴書は本人いわく「とてつもない数」で、返ってきたのは数通の自動返信だけだった。「孤独で、恥ずかしかった」と彼女は振り返る。自分の問題なのかとも考えた。

そこで彼女はSNSに書いた。同世代の女性で、同じ経験をしている人はいないか、と。返ってきた反響は数千人分だった。


彼女は履歴書から年齢と経歴への言及を削った。これを本人は、履歴書に「ボトックスを打った」と表現する。しわを消すのと同じことを、経歴に対してやったわけだ。ただし顔と違って、削ったぶんは若返らない。消えるのは、その人が積み上げてきた時間のほうである。

「AIは社会に鏡をかざす。私たちのバイアスの反射なんです」と彼女は言う。そのうえで、こうも付け加える。「これが女性だけの問題だとは言っていない。男性からもメッセージが来ている。私が言いたいのはジェンダー化された年齢差別のことだ」

BBCはその後、40歳から65歳の女性60人以上に取材した。業界はさまざまで、多くが上級職で数十年の経験を持つ。そして全員が、自動の不採用通知か無返信しか受け取っていない。

442社に応募して、返ってきたのは数件だった

コエイリ・ジャルカは49歳。製造業、企業、ヘルスケアの各分野で上級職を歴任し、20年の経験と2つの学位を持つ。9か月前に人員削減で職を失った。

そこから彼女が応募した企業の数は、442社である。返信があったのは、ごく数件だった。

「こんな立場に置かれたことは一度もなかった。この10年から12年はヘッドハントされる側だった。それがいまは自分から仕事を探して、容赦なく落とされている」。彼女はそう話す。ときどき「経験がありすぎる」と言われることがあるが、本人はそれを「歳を取りすぎている」の隠語だと受け取っている。自信は打撃を受けた。予算の逼迫も、AIによる書類選考も、狭すぎる採用基準も、どれも効いていると彼女は考えている。

そして、履歴書を削れという助言は個人の思いつきではなかった。「私たちの多くは、働いていた期間が長すぎると見られないように、履歴書から最初の10年を削れとキャリアコーチに言われている」とジャルカは言う。経歴の若返り手術は、業界の標準的なアドバイスとして流通している。

アンナ・カウイーは52歳。広告業界で30年のキャリアを持ち、直近はバタシー発電所の再開発の立ち上げに関わった。いまは4年近く無職で、送った履歴書の数はもう数えていない。求職者手当を受給している。それまで一度も無職になったことがなかった人である。

彼女はいま、地域の祭りのボランティアに時間を使っている。生身の人間と会うほうが、はるかに手応えがあるからだ。「紙の上の行ではなく、人間として見てもらえる」


履歴書をAからDで格付けするツールがある

では、書類の側で何が起きているのか。AI分野の弁護士で、AI・法務コンサルティング会社Bonsaiを創業したローラ・ホールデンは、企業がツールの仕組みを理解しないまま使っている例が多く、それが「重大な害」を生みかねないと指摘する。判定が難しいのは、確かめる手立てがないからだ。「ツールの提供者に仕組みの開示を義務づける規制が、世界的に欠けている」

彼女が挙げた実例のひとつが、履歴書をAからDで格付けし、上位の候補者を優先するよう採用担当者に促すツールである。人ではなく、書類に成績がつく。

ホールデンによれば、提供者は自社のツールが安全でバイアスを減らすと「非常に素早く」主張する。その一方で、AIが出したスコアをもとに雇用主が大量の応募者を落とすように設計され、そう売られている。企業はこれを判断を支援するツールだと説明するが、実際には自動意思決定システムとして機能していることが多い、というのが彼女の見立てである。支援と決定のあいだで、言葉がすり替わっている。

ホールデンは、導入前の試験の義務化とより強い規制を求めている。いまある法律は、AIを想定して作られていないからだ。

7年の空白は「留意事項」としてフラグが立つ

もうひとつ、ホールデンが挙げた例がある。7年のキャリアの空白といった要素に「留意事項」としてフラグを立てるツールだ。不採用にするわけではない。ただ、印をつける。そして印のついた書類が、どう扱われるかは開示されない。

育児で仕事を離れた女性の履歴書には、空白期間がある。一部のAI選別システムは、それを否定的に解釈しうる。子どもを育てていた年月が、機械にとっては欠落として読まれるということだ。

AI書類選考が年齢で応募者を落としているという問題は、これまでも指摘されてきた。空白期間の解釈は、そこに性別という軸を一本足す。育児で職を離れるのは、いまも多くが女性だからである。

金融・専門サービス分野の女性に焦点を当てるCity of London Women Pivoting to Digital Taskforceは、この点に懸念を表明している。同タスクフォースの調査では、応募書類の選別に使われるAIが、経験豊富な女性の持つスキルの多くを認識できていないという強い懸念が示された。議長のキャロライン・ヘインズはこう語る。「初期選考の段階のAIが、非常に有効に働きうる膨大な数の女性のスキルを勘定に入れておらず、それが経済成長を促す可能性を潰している、という懸念が高い水準で存在する」

同タスクフォースは、英教育省の資料をもとに、AIと自動化によって2035年までに数十万人規模の女性の職が代替されうると試算する。大規模な再訓練投資がなければ、企業が負う割増退職金のコストは7億5000万ポンドを超えうるという。

では、その再訓練は進んでいるのか。女性1,000人以上への調査で、68%が「勤務先からデジタル職への再訓練や異動の機会を与えられていない」と答えている。置き換えられる側に回されたまま、乗り換えるための梯子はかけられていない。

「国が経済成長を渇望しているときに、私たちは持てる資源をすべて使う必要がある。キャリア半ば、経験半ばの女性という資源を。彼女たちが市場から抜け落ちれば、影響は甚大だ」とヘインズは言う。

「それらは求職者の味方ではない」

ケンブリッジ大学の上級研究員、エレノア・ドレイジ博士は、AIが採用で女性を不利にしているという懸念は「きわめて正当だ」と述べる。育休などの中断から復帰する人の価値や、持ち運びのきくスキルは、人間の採用担当者のほうがうまく見つけられる。機械はそこを見落とす。

「AI採用ツールにバイアスが内在すると証明するのは非常に難しい。だがツールが動く論理そのものが完全に破綻している」。ドレイジ博士はそう指摘する。人の内在的な価値や人柄を、人間の採用担当者のようには評価できないからだ。過去に採用した人と似た特徴の候補者を見つけられるという利点は認めたうえで、彼女はこう言い切る。「多くの場合、それらは求職者の味方ではない」

処方箋も示している。企業がAIを向けるべき相手は、職場に戻ろうとする高齢の女性やキャリアに中断のある人ではない。自社の採用慣行そのものだ、と。

実際、一部のロンドンの企業は、バイアスを恐れてAIツールの使用をやめている。人事ソフトウェア大手のWorkdayは、差別的な理由で応募者を排除しカリフォルニア州法に数千回違反したとする申し立てに直面しており、判断は年内に出る見込みだ。同社はBBCに対し、申し立ての内容は事実に反するとし、自社のツールは採用の判断を下すものではないと述べている。スキルと経験に基づいて職務記述書に合う候補者を見つける支援であり、人間の判断を置き換えるものではない、という説明である。同社によれば、そのAIは「厳格に試験されており、年齢や性別といった属性は考慮していない」。責任ある使い方をすれば、有資格の候補者が「山に埋もれる」のを防げるとも述べた。

AIが関与したかどうかは、誰にも分からない

ここまで読んで、結論を急ぎたくなる。だが、そこに一つ大きな留保がある。

多くの場合、ある不採用にAIが関与したかどうかを知ることは不可能なのだ。雇用主が採用プロセスの詳細をほとんど開示しないからである。BBC自身がそう明記している。デュギッドもジャルカもカウイーも、AIのせいだと考えてはいるが、証明はできない。この記事に出てくる懸念も、特定の提供者を名指ししたものではない。

つまり当事者たちは、何に落とされたのか分からないまま落とされ続けている。理由を聞くこともできない。開示を求める先すら分からない。中高年の転職が厳しいという言葉が指しているのは、競争の激しさではなく、この不透明さのほうかもしれない。

なお、日本の採用で同じことが起きているかどうかは、この取材からは分からない。英国の話である。ただ、履歴書から最初の10年を削るという助言に心当たりのある人は、日本にもいるはずだ。

デュギッドは、同じ立場の女性たちのためにコミュニティとプラットフォームを立ち上げた。彼女の言葉は、採用の話としてよりも、もう少し広い射程を持っている。「私たちが集団として、聞かれ、見られるようになってほしい。そしてジェンダー化された年齢差別が過去のものになってほしい。運がよければ、私たちはみんな歳をとるのだから」

よくある質問

中高年の転職はなぜ厳しいのか

経験の長さがそのまま「経験がありすぎる」という評価に転じ、初期選考で振り落とされやすいためである。英国の取材では、49歳の女性が442社に応募して返信はごく数件、52歳の女性が16か月で決まらないという事例が報告された。AIによる書類選考、予算の逼迫、狭すぎる採用基準がいずれも影響していると当事者は見ている。ただし個別の不採用にAIが関与したかどうかは、雇用主が開示しないため確認できない。

履歴書のブランクはAI選考で不利になるのか

不利に働きうる。AI分野の弁護士ローラ・ホールデンによれば、7年のキャリアの空白といった要素に「留意事項」としてフラグを立てるツールが実在する。育児で仕事を離れた女性の履歴書には空白期間があり、一部の選別システムはそれを否定的に解釈しうる。人間の採用担当者なら復帰後の意欲や持ち運びのきくスキルを汲み取れる場面でも、機械はそこを見落とすとケンブリッジ大学のエレノア・ドレイジ博士は指摘する。

AIに落とされたかどうかは応募者に分かるのか

分からない。雇用主が採用プロセスの詳細をほとんど開示しないため、機械的に振り落とされたのか人間が判断したのかを区別する手立てがないとBBCは明記している。ホールデンは、ツールの提供者に仕組みの開示を義務づける規制が世界的に欠けていることを問題として挙げ、導入前の試験の義務化とより強い規制を求めている。

50代の女性が再就職するために有効な方法はあるか

英国の事例では、書類の送付だけに頼らず対面のつながりを作る方法が挙がっている。広告業界で30年働いた52歳の女性は地域の祭りのボランティアに転じ、「紙の上の行ではなく、人間として見てもらえる」と語った。ドレイジ博士は、企業側がAIを応募者の評価ではなく自社の採用慣行の検証に使うべきだとも主張している。個人の工夫だけで解ける問題ではない。

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