Googleがソフトウェアエンジニアの面接で、候補者にAIの使用を認める。採点されるのは、AIの使いこなし方になる。
1 禁止ではなく、解禁である
採用とAIの話は、だいたい同じ方向に進んできた。企業がAIで候補者を選別する。候補者がAIで応募書類を作る。企業がそれを見抜こうとする。追いかけっこである。
Googleが出してきたのは、その逆だった。
Business Insiderが内部文書を入手して報じたところによれば、同社はソフトウェアエンジニアの採用面接で、候補者がAIを使うことを認める実験を始める。禁止していたものを、使ってよいことにする。内部文書はこの変更を、現代のエンジニアリングの実情により良く合わせるための取り組みの一部だと説明している。
2026年10月には、Mashable Indiaをはじめ各国のメディアがこの件を取り上げた。
2 どのラウンドで、何を見られるのか
対象は「コード理解」と呼ばれるラウンドである。
候補者は既存のコードベースを渡され、それを分析する。バグを見つける。性能を改善する。そして、実際に動いているコードをどれだけ理解し、洗練できるかを示す。
使えるのは承認されたAIアシスタントで、Googleの広報はパイロットで使うのがGeminiだと確認している。自前のAIを持っている会社ならではの設計だ。
そして評価軸が、ここで変わる。見られるのはAIフルーエンシー、つまりAIの使いこなしである。内訳として挙げられているのは三つ。プロンプトエンジニアリング。出力の検証。そしてデバッグの技能だ。

注目すべきは真ん中の項目だろう。出力の検証が、採点対象として明示されている。AIに書かせて終わりではなく、出てきたものが正しいかを見抜けるかどうかが問われる。
3 「電卓なしで算数のテストを受けさせるようなもの」
この変更について、Cognitionのピープル・アンド・オペレーションズ責任者エミリー・コーエンは、こう評した。
「これはたぶん、電卓なしで子どもに算数のテストを受けさせるようなものだ」
彼女が言っているのは、これまでのやり方のほうである。日常業務ではAIを使っているのに、面接では使わせない。その状態が、電卓を取り上げた算数のテストに見える、という指摘だ。
Googleの採用担当バイスプレジデント、ブライアン・オンのコメントも同じ線上にある。
「私たちは最良の人材を採用するために、常に面接プロセスを進化させている。その一環として、AI時代に自分たちのチームがどう動いているかをより反映させるため、ソフトウェアエンジニアリング面接のパイロットを始める」
建前の文章ではあるが、論点は明快だ。仕事の実態と試験の形式がずれている。ずれているほうを直す。
4 パイロットの範囲は、まだ狭い
誤解のないように、範囲を確認しておく。
開始は2026年の下半期。対象は米国内の一部チームで、初級から中堅の職種に限られる。全職種でも、全地域でもない。うまくいけば他のチームや地域に広げる計画だという段階である。
日本での導入について、報じられていることは何もない。
5 対策の中身が、まるごと入れ替わる
それでも、この変化が示している方向は無視できない。
本稿では別稿で、AI面接の対策はもう笑顔ではないという話を扱った。HireVueは2020年に表情分析を廃止しており、非言語データが予測精度に寄与していたのは約0.25パーセントだった。採点されているのは顔ではない、という話である。
今回の変更は、その先にある。採点されるのは、知識でもなくなる。
従来の技術面接が測っていたのは、おおまかに言えば「AIなしで何ができるか」だった。暗記したアルゴリズム、手で書けるコード、知っているパターン。Googleが測ろうとしているのは「AIありで何ができるか」である。道具を取り上げた状態の能力ではなく、道具を持った状態の能力だ。
この二つは、同じではない。AIなしで優秀な人が、AIを持たせても優秀とは限らない。逆もある。
実務的に言えば、準備の仕方が変わる。暗記で詰める部分は軽くなり、代わりに次の三つが効いてくる。どう指示を出せば必要な答えが返ってくるか。返ってきたものが正しいかをどう確かめるか。間違っていたとき、どこを直すか。
このうち二つ目が、いちばん練習しにくい。AIの出力を疑うには、自分の側に判断の土台が要るからだ。結局のところ、基礎がなければAIも使いこなせない、という身も蓋もない結論に戻ってくる。
ただ、採用の側がそれを採点項目として明文化したことには意味がある。AI書類選考が年齢で候補者を落としていたような不透明な選別とは、性質が違う。何を見ているかが書いてある。
よくある質問
Googleの面接でAIを使っていいのは、どの部分か?
ソフトウェアエンジニア採用の「コード理解」のラウンドである。候補者は既存のコードベースを分析し、バグを特定し、性能を改善し、どれだけコードを理解して洗練できるかを示す。使えるのは承認されたAIアシスタントで、Googleの広報はパイロットではGeminiを使うと確認している。
何が採点されるのか?
AIフルーエンシー、つまりAIの使いこなしである。内訳として挙げられているのはプロンプトエンジニアリング、出力の検証、デバッグの技能の三つ。AIに書かせて終わりではなく、出てきた結果が正しいかを見抜けるかどうかが採点対象に入っている点が特徴になる。
すべての職種・地域が対象なのか?
対象は限られている。開始は2026年の下半期で、米国内の一部チームの初級から中堅の職種が対象のパイロットである。うまくいけば他のチームや地域に広げる計画とされている。日本での導入について報じられていることはない。
これは応募者にとって有利な変化なのか?
一概には言えない。暗記で詰める準備の比重は下がるが、代わりにAIの出力が正しいかを判断する力が直接採点される。出力を疑うには自分の側に判断の土台が必要で、基礎がないままAIだけ使っても評価されにくい構造になっている。ただし何を見ているかが明文化されている点は、不透明な自動選別より候補者にとって扱いやすい。


