最大60%のチーム削減を検討したMetaのAI人員削減計画は、第1波実施の直前に第2波が中止された。原因はAIの実力不足と社員の反乱だ。
ロイターが2026年8月26日に公開した調査報道が、その内幕を描いている。タイトルは「ザッカーバーグには社員をAIで置き換える大胆な計画があった。それはこうして崩壊した」。世界で最もAIに金を注ぐ会社が、AIで人を置き換えようとして、置き換えられなかった。8,000人規模の解雇として日本でも報じられたMetaのリストラには、実行されなかった後半戦があったのだ。
「AIで人員削減」という言葉を、あなたの会社の経営陣も口にし始めているかもしれない。だからこそ、最も本気でそれを試した会社で何が起きたかは、他人事ではない。しかもこの話には続きがある。解雇者の選定にAIを使ったとして、社員26人がMetaを訴えているのだ。
何が計画されていたのか──Project OTと「最大60%」
計画の名はProject OT。Organization Transformation(組織転換)の略である。2026年1月、ハワイにあるザッカーバーグの邸宅で開かれた年次のリーダーシップ会議で立案された。関与したのはCEOのマーク・ザッカーバーグのほか、最高データ責任者アレックス・シュルツ、製品責任者ナオミ・グレイト、CTOアンドリュー・ボスワース、CFOスーザン・リーといった経営中枢だ。
構想はこうだ。会社を「AIネイティブ」に転換する。数千人の従業員が行っている仕事のかなりの部分をAIエージェントに担わせ、少人数の人間のチームが仮想労働者を監督する。ロイターの調査報道によれば、一部のチームを最大60%削減するシナリオまで検討された。Metaは「特定部門の話であり全社ではない。すべてのシナリオを実行する前提ではなかった」と説明しているが、方向は明快である。人を減らし、AIを増やす。
リストラは2波構成だった。第1波が2026年5月。第2波が11月。レイオフに加えて、空きポストの凍結と低評価者の退出で人員を絞り込む設計だった。減らす一方で、残す側の選別も動いていた。Metaは「Irreplaceable Talent(代替不能人材)」を特定する新しい人事ツールを立ち上げている。社内文書が引き合いに出したのは、1人でチーム全体の仕事をこなす仮想の「10X Performer」。関係者2人によれば、レイオフで浮いた原資の一部は、そうしたスターAI人材を惹きつける巨額報酬に回す意図だった。
背景には金の事情もある。ロイターによれば、Metaは2026年にAIインフラへ少なくとも1,300億ドルを投じる計画で、営業キャッシュフローを圧迫するとされる。AIを買う金を作るためにも、人件費は軽くしたい。
実行の夜に起きたこと
ロイターは3月の時点で、従業員の20%超に影響しうるレイオフ計画を報じていた。4月には「5月に約10%を削減し、年内に追加削減」という計画も詳報された。ここまでは、筋書きどおりに進んでいた。
異変は2026年5月19日の夜に起きる。第1波実施のわずか数時間前、ザッカーバーグは11月の第2波の計画立案を中止させた。
翌20日、第1波だけが実施された。従業員の約10%。日本では日経や現代ビジネスが「8,000人規模」と報じた解雇である。前日18日の従業員向けメモで、最高人事責任者のジャネール・ゲイルは7,000人をAI業務フローに関連した新部署へ異動させ、管理職を削減する方針も示していた。レイオフと異動を合わせると、対象は従業員の約20%。北米の従業員は当日、在宅勤務を指示された。

異動先の中身が興味深い。新部署には、現在は人間が担当している業務を自動化するAIエージェントを開発する部署や、その開発の生産性を評価・分析する部署が含まれていた。数千人が、AIモデルの学習データを作るApplied AI Engineering部門へ再配置されている。つまり、解雇を免れた側の少なくない人数が「自分たちの仕事を自動化するAI」を作る仕事に回ったことになる。
誤算①──AIは期待したほど働かなかった
第2波が消えた理由の1つ目は、単純である。AIが計画に追いつかなかった。
ロイターが入手した社内データが生々しい。AIツールの導入で、社内のコード生成量は前年比220%増になった。ところが、ユーザーに実際に届いた機能の増加は36%にとどまる。書く量は3.2倍、届く価値は1.36倍。その差額はどこへ行ったのか。技術・セキュリティインシデントが40%増え、障害対応、いわゆる火消しに費やす時間が70%増えた。生産の加速のはずが、後始末の加速になっていた。
事故は社外にも漏れた。2026年6月初旬、MetaのAI搭載カスタマーサポートbotがハッカーに悪用され、休眠中のオバマ・ホワイトハウス時代のページを含む著名Instagramアカウントへのアクセスを許している。
エンジニアリング系の一部部門は5月末までに最大30%縮小していた。人が減り、コードが増え、事故も増える。7月の社内タウンホールで、ザッカーバーグは従業員にこう認めている。AIエージェントの開発は、この数か月「期待したようには加速しなかった」。改善が見え始めるのは3〜6か月先だという見通しも添えた。

誤算②──社員は黙って「訓練係」にならなかった
2つ目の誤算は人間の側から来た。発火点は、AIエージェントに人間のPC操作を学習させるための、キーストロークとマウス操作の記録ソフトである。ロイターの調査報道によれば、従業員はこれを「自分の代わりになるAIを、自分で訓練させられている」と受け止めた。

抗議は静かで、雄弁だった。社内SNSのWorkplaceに、象の画像が投稿されていく。英語の慣用句「部屋の中の象」、つまり誰もが知っているのに誰も口にしない問題、の比喩である。半期ごとの社内調査では、会社への好意的な回答が74%から55%へ落ちた。19ポイントの急落である。
置き換えられる恐怖と、置き換えのための訓練をさせられる屈辱。この2つが重なったとき、計画は社内の協力を失った。ザッカーバーグがエッセイで「会社の規模は縮むかもしれない。しかしそれは仕事全体が減るという意味ではない」と書いても、目の前で自分の操作ログがAIに吸われていく社員には届かない。
AIに置き換えられた仕事、置き換えられなかった仕事
では、Metaで実際に起きた変化は何だったのか。ロイターの報道から見えるのは、「AIが人を消した」というより「人がAIの周りに配置し直された」という実態だ。数千人が学習データ作りと監督業務へ回った。組織の作り替え自体は1年がかりで進んでいる。前年の2025年7月、製品管理担当VPのイメ・アーチボンが、エンジニア2〜3人とデザイナー1人の小規模「pod」にAIツールを持たせ、6か月の固定サイクルを捨てて4週間スプリントで試作するパイロットを開始。同10月には彼のチームが手引き「AI-Native Playbook」を社内公開し、職種名を「Builder」に統一して中間管理職の層を無くす形を示した。Project OT始動後の2026年6月までに、この小規模pod方式はエンジニアリングや研究部門を含む少なくとも11のユニットに広がっている。
アーチボンは「AIツールは、より低いコストと高い忠実度で、より多くのアイデアを探索させてくれる」と語る。それは事実だろう。コードは実際に3.2倍書かれた。だが、探索したアイデアを事故なくユーザーに届ける最後の区間は、依然として人間の仕事として残った。Metaの広報が言うとおり「人事評価と昇進の判断は人間が行っており、AIではない」。置き換えの最前線を走った会社で、最後まで残ったのは、品質への責任と人への判断だったことになる。
そしてAIは、法廷に呼ばれた
この話は社内で終わらなかった。2026年7月14日、匿名のMeta従業員26人がカリフォルニア州オークランドの連邦裁判所に提訴した。5月のレイオフの対象者選定にAIが使われ、医療・家族休暇の取得者や、障害への配慮を受けていた従業員が狙い撃ちされたという主張である。原告は全員、保護された休暇を取ったか障害への合理的配慮を受けていた人たちで、解雇を通知されながら提訴時点ではまだ在籍していた。
訴状が挙げる選定の道具立ては、この記事で見てきた光景と重なる。社内AIシステム、キーストロークと活動の監視データ、AIトークン使用量のダッシュボード、アルゴリズムに支援された業績ランキング。休暇中の人間は、キーストロークを打てない。訴状の主張はまだ立証されていないが、ロイターによれば、米国の大手企業を相手にレイオフでのAI使用を争う訴訟はこれが初のケースとみられる。アルゴリズムが特定の層を落とし続ける構図は、既報「AI書類選考は年齢で落としていた」で見た採用の話と、鏡写しである。
Metaの反論は明快だ。「これらの主張には根拠がなく、事実に基づいていない。人員管理と組織の決定は、過去も現在も人間が行っており、AIではない」。人を減らす計画の名前がProject OTであり、その中身をロイターが内部文書で描いた後だけに、この「AIではない」という言葉が法廷でどう扱われるかは、AIで人員削減を考えるすべての会社にとって先例になる。
日本企業でも同じことは起きるか
同じ形では起きにくい。日本の判例法理では、整理解雇の有効性は人員削減の必要性、解雇回避の努力、人選の合理性、手続きの相当性という4要素で判断される。業績が好調な局面で「AIに置き換えるから10%解雇」という形は、この壁に正面からぶつかる。AIを理由とする人員削減に特化した課徴金や報告義務の制度も日本にはなく、2025年成立のAI推進法は罰則のない枠組み法にとどまる。
ただし、力学そのものは既に日本の周辺で動いている。米Amazonの組織改革では削減対象職の78%が管理職だった。Metaのゲイルのメモにあった「フラットな組織」も、管理職の削減とセットである。矛先が現場より先に課長に向かう構図は、既報「『黒字リストラ』の標的は課長だった」で書いたとおりだ。そして隣の韓国では2026年8月、AIによる人員削減に課徴金を課す法案が国会に提出された(未成立)。国が制度で応じ始めた経緯は「AIリストラに国が値札をつけ始めた」に詳しい。
よくある質問
Metaは何人を解雇したのか
ロイターは2026年5月20日の解雇を「従業員の約10%」と報じ、日本の報道では「8,000人規模」と伝えられた。これとは別に7,000人がAI関連の新部署へ異動しており、レイオフと異動を合わせると従業員の約20%が対象になった。
なぜMetaのAI人員削減は失敗したのか
理由は2つ報じられている。第1に、AIの実力不足。コード生成量は前年比220%増えたが、ユーザーに届いた機能は36%増にとどまり、インシデントは40%、障害対応の時間は70%増えた。第2に、社員の反発。PC操作を記録してAIに学習させる仕組みが「自分の代替を自分で訓練させられている」と受け止められ、社内調査の好意的回答は74%から55%に落ちた。11月に予定されていた第2波のリストラは、第1波実施の数時間前に中止された。
日本でもAIによる人員削減は起きるのか
Metaのような一斉レイオフは、整理解雇の4要件がある日本では起きにくい。実際に進みやすいのは、採用の抑制、配置転換、管理職の削減といった形である。AI起因の人員削減を規制する専用の制度は日本になく、韓国で提出された課徴金法案のような動きが今後の論点になる。
Metaの解雇はAIが決めたのか
争いになっている。従業員26人は2026年7月、解雇対象の選定に社内AIシステムや監視データが使われ、医療・家族休暇の取得者が狙われたとして提訴した。Metaは「人員管理と組織の決定は、過去も現在も人間が行っており、AIではない」と全面的に否定している。米大手企業のレイオフでのAI使用を争う初の訴訟とみられ、結論はまだ出ていない。
まとめ──「AIで人を減らす」の現在地
世界で最もAIに投資する会社が、最高の人材と1,300億ドルの計画を持って社員のAI置き換えを試み、半分でやめた。止めたのは規制でも世論でもない。自社の社内データに出た、インシデント40%増と火消し70%増という数字と、象の画像を投稿し続けた社員たちだった。
レイオフ実施後、ザッカーバーグは社内SNSに「今年、これ以上の全社レイオフは想定していない」と書き込み、従業員に「安定」を与えたいと表明した。マウス操作の追跡は一時停止され、新AI部門から元のチームへ戻ることも一部で認められた。ただし彼は今も「全社の」「今年は」という限定の言葉を外していない。チーム単位の削減や、来年への先送りを疑う従業員がいるのは、そのためだ。
「AIで人員削減」を宣言する経営者は、これからも現れ続けるだろう。そのとき思い出すべき問いは1つである。そのAIは、もう火消しを増やさずに仕事を終えられるのか。Metaの答えは、少なくとも2026年の時点では、ノーだった。


