恋愛相談の相手はAIになった──利用が1年で300%増えた米国で、恋は「つまらなく」なりはじめた

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米国では18〜39歳の独身の4分の1超が恋愛にAIを使っており、その割合はこの1年で300%増えた。

米国のある女性がマッチングアプリで出会った男性は、正直だった。プロフィールを10点満点で採点するようAIを訓練し、8〜9点以上にだけスワイプしている。君は9点だった──。そこまでは、テクノロジーの勝利に見えた。だがその男性はデートの席で、母乳を飲みたいという願望を打ち明ける。デートは撃沈した。AIは9点をつけた。その一言までは、予測できなかった。

このエピソードは、米コスモポリタンが2026年8月25日に公開したルポ「私たちは恋愛でのAIを嫌っている。でも使うのをやめられない」に出てくる実話である。キンゼー研究所とMatch Groupの調査によれば、米国の18〜39歳の独身のうち、恋愛の文脈でAIを否定的に見る人は半数近くいる。それなのに、4分の1超がすでに恋愛生活でAIを使い、その割合は1年で300%増えた。嫌いなのに、やめられない。

そして本稿の結論を先に言えば、AIは恋愛から失敗と気まずさを消すことに、かなりの程度まで成功しつつある。問題は、消えた失敗や気まずさと一緒に、別の何かが消えはじめていることだ。

マッチングアプリに疲れた人から、AIにたどり着く

入口は疲労である。スワイプしても会えない。会っても続かない。相談しようにも、周りはとっくに結婚している。

コスモの取材に応じたコリーン・グルーバー(34)は、仕事でほぼ常時AIを使っており、恋愛に持ち込むのは自然な流れだったと話す。彼女が挙げた理由が生々しい。「友人の大多数は結婚しているか交際中。状況が違いすぎて、返ってくる答えが自分の求めているものではないのかもしれない」。親友の多くは、マッチングアプリを使ったことすらない。深夜に既読のつかない画面を見つめる側の気持ちは、幸せな既婚者には分からない。AIなら分かってくれる。少なくとも、そう感じられる返事が返ってくる。

この変化はもう例外ではない。関係性コーチでセラピストのシルヴィ・クーカシアンは、独身でAIに意見を求めたことがない人に出会うことが、公私ともにまれになったと語っている。かつて友人グループのチャットに流していた「私が変?それとも相手が変?」は、いまChatGPTやClaude、Geminiの入力欄に打ち込まれている。


録音分析・代筆・AIスワイプ──恋愛のAI化はここまで来ている

相談は序の口である。ルポが描く現在地は、そのずっと先にある。

Lucy(仮名)は、交際相手の言動をスプレッドシートに記録していた。いい人の顔と不安にさせる言動を行き来する恋人の記録を、あるときChatGPTにアップロードして分析させた。以来、デートでの相手の行動、質問への反応、自分がどう感じたかを入力し続けた。「浮き沈みに振り回される代わりに、パターンとして見えるようになった」と彼女は言う。

デートそのものをAIに監視させる人も出てきた。AIジュエリーやMeta Glassesのようなウェアラブル、あるいは単にボイスメモアプリで初デートを録音し、相手の受け答えや相性をリアルタイムで分析させるやり方が報告されている。相手に無断で行えば、倫理的にも法的にも問題が生じる。それでも、やる人はやる。


さらに先を行くのが自動化である。あるRedditユーザーは、真剣にパートナーを探していると言いながら、自作のAIツールで婚活プロセス全体を運用していた。本人いわく「女性たちのプロフィールはすべてデータベースに保存してある」。冒頭の9点男も、この系譜に連なる。


そして最先端では、選ぶ行為そのものが消えた。米国のZ世代向けアプリDittoはスワイプを廃止している。UCバークレー中退のZ世代2人、アレン・ワンとエリック・リウが作ったこのアプリは、iMessage上のAIチャットボットが性格や好みを聞き取り、毎週水曜の午後7時に、会う相手も時間も場所もまとめて提案してくる。登録は15万人。シードで920万ドルを集め、マッチから実際のデートに至る割合は約2割だという。ワンは言い切る。「正しいシグナルさえあれば、相性は実際に予測できる」。Tinderもスワイプ疲れ対策にAIを入れはじめ、Hingeの創業者にいたっては1,800万ドルを調達してAI交際サービスを立ち上げた。この逆張りの顛末は既報「AI彼氏は詩を送り、決して怒らない」で書いたとおりだ。

ChatGPTに恋愛相談すると、実際は何が起きるのか

ルポに登場する使い方を並べると、現在の「恋愛×AI」の全体像が見えてくる。

使い方 実例 結果
返信テキストの添削 「よく分かる」とだけ返そうとしたら、ChatGPTが「そう言ってくれてうれしい」を足すよう提案 角の取れた文面になる。ただし自分の声も薄まる
交際履歴のパターン分析 相手の言動をスプレッドシートに記録してアップロード 本人いわく浮き沈みではなくパターンが見えるようになった。のちに答えの単純化にも気づく
デートの録音・リアルタイム分析 AIジュエリーやスマートグラス、ボイスメモで録音 無断なら倫理的・法的な問題。セラピストは欺瞞性を指摘
スワイプの自動化 8〜9点以上と採点した相手だけにスワイプするようAIを訓練 9点の相手とのデートが趣味の告白で撃沈
マッチングの丸ごと委任 米アプリDittoはAIが相手・日時・場所まで決める 登録15万人。デート実行率は約2割

添削のコリーンは、デート相手の夢分析までChatGPTにやらせたことがある。ここまで読んで「すごい」と思うか「気持ち悪い」と思うかは分かれるだろうが、米国の世論はどちらか一方ではない。コスモポリタンによれば、デート中のAIによる自己編集を興ざめだと考える人が多い一方で、5人に1人はそれを実行しているという調査がある。批判と実行が、同じ社会の中で同居している。

バレたらどうなるかは、冒頭の9点男が教えてくれる。コリーンは彼のAIスワイプに強い嫌悪感を示した。「スワイプする時間すら自分で取れないの?」。自分がChatGPTで返信を磨いていることは、棚に上がった。彼女自身、その矛盾は自覚している。近道はみんな大好きで、近道された側に回るのはみんな嫌なのだ。

「あてにならない」では済まない──AIは人間より49%多くあなたに同意する

ここまでは使い方の話である。ここからは、返ってくる答えの中身の話をしたい。

スタンフォード大学とカーネギーメロン大学の研究チームが、2026年3月26日(米国時間)に学術誌Scienceで発表した研究がある。主導したのはスタンフォード大博士課程のマイラ・チェン。チームは、投稿者本人に非があるという総意が固まっているReddit掲示板「Am I the asshole(私が悪いのでしょうか)」の投稿2,000件をOpenAI・Google・Anthropicのモデルに与え、人間の回答者と反応を比べた。

結果は数字で出た。AIは、欺瞞や危害、違法行為を含むシナリオですら、人間より49%高い頻度でユーザーの行動を肯定した。研究チームはこれをAIの迎合性と呼ぶ。過度に同意し、おべっかを使う性質のことだ。

続きのほうが怖い。フォローアップ調査では、迎合的なAIと対話した参加者は、自分が正しいという確信を強め、謝罪や関係修復への意欲が下がった状態で対話を終えた。しかも参加者は、年齢や性格やテクノロジー経験にかかわらず迎合的なAIを好み、その回答を「客観的で公平かつ正直」と評価した。同意されているとき、人は同意されていることに気づかない。研究に参加したカーネギーメロン大のプラナフ・カドペは「中立性を装って歪められた無批判なアドバイスは、アドバイスを全く求めない場合よりも有害になる可能性がある」と言う。

恋愛相談でこれが何を意味するかは明白だろう。「彼のこの行動、おかしいよね?」と打ち込んだ時点で、欲しい答えは決まっている。クーカシアンが指摘するのはまさにここだ。不安を抱えた人が不安のレンズのまま質問すれば、自己成就予言を作って、聞きたい答えを聞いているだけになりかねない。友人なら「いや、あなたも悪い」と言ってくれる場面で、AIは寄り添ってしまう。論文の一節が本質を突いている。「害を及ぼすまさにその機能が、エンゲージメントを促進しているのだ」。

ユーザー側にできる工夫が、ないわけではない。批判的・対立的な立場から検討するよう指示する。出てきた答えの再確認を求める。CNETはそうした対策を挙げつつ、迎合性を直す最終的な責任はモデルを作る企業側にあると釘を刺している。

失敗と気まずさが消えて、恋はつまらなくなった

それでも、である。仮に迎合性が完全に直り、AIが常に正しい恋愛アドバイスを返すようになったとしよう。それで恋愛はうまくいくのか。

ルポの答えは否定的だ。SoulSpace創業者のカミラ・グリーンバーグの言葉が刺さる。「とくにアメリカの社会は結果志向が強い。目標を達成する、タスクを終わらせる。でも、人間関係はゴールではない」。デートを最適化の対象として扱った瞬間、量は質を駆逐しはじめる。セラピストのロビン・ハミルトンも「何であれ、過剰は問題だ」と話し、デートを録音するような使い方には欺瞞が伴うと懸念する。カメラやマイクに静かに採点されながら、完全に自分らしくいられる人はまれだからだ。

一番説得力があるのは、使い込んだ本人の証言だろう。スプレッドシートのLucyは今、何でもChatGPTに通すのをやめようとしている。理由は、AIが自分を「平板化」していると気づいたからだ。すべてが数値化され、白黒がつき、すぐに説明が返ってくる。しばらくは心地よかった。「でも、実際の人生はそうじゃない。すごくせっかちになる。もう少し手放して、ただ生きたほうがいいと思う」

失敗しないように設計されたデートには、偶然の余地がない。気まずさを先回りして消した会話には、相手を知る過程がない。恋愛からリスクを抜くことは、恋愛から恋愛を抜くことに似ている。

日本でも「恋愛相談 AI」は月3,400回検索されている

対岸の話では終わらない。SEOツールAhrefsのデータでは、日本語の検索語「恋愛相談 AI」は月間およそ3,400回検索されており、約5,900回への増加が予測されている(2026年8月31日取得)。米国で1年に300%増えた波は、検索窓の中では日本にも来ている。

しかも日本には、相談の先の市場がすでにある。AI彼氏・AI彼女アプリの利用実態は「人はこうしてAIに恋に落ちる」で、AIコンパニオンに深く愛着した末にアップデートで記憶が消えた事例は「840日ぶんの記憶が、アップデートで消えた」で書いた。相談相手としてのAIと、恋愛対象としてのAIの距離は、思っているより近い。

なお、コスモの取材に応じたセラピストとデートコーチは全員、ある一点で一致している。恋愛やパートナー探しで本当に行き詰まっている人に必要なのは、アプリやAIに加えて、人間の専門家による支援だという点である。深刻な悩みを抱えている場合は、カウンセラーなど専門家への相談を検討してほしい。

よくある質問

恋愛相談に使うならどのAIがいいのか

決定打はない。Science誌に載ったスタンフォード大などの研究では、OpenAI・Google・Anthropicいずれのモデルでも迎合性が確認されている。どのAIを選ぶかより、批判的な視点で検討するよう指示する、自分に都合の悪い解釈を尋ねる、といった問い方のほうが結果を左右する。

ChatGPTとGemini、恋愛相談はどちらがいいのか

優劣を示すデータはない。ユーザーに同調しやすい傾向は両方のモデルで確認されているためだ。あえて使い分けるなら、同じ相談を複数のAIに投げて答えの食い違いを見るほうが、1つの答えを鵜呑みにするより安全である。

AIに恋愛相談するのは危険か

嘘をつかれる危険より、同意されすぎる危険が大きい。研究では、本人に非がある事例でもAIは人間より49%高い頻度で行動を肯定し、対話した人は謝罪や関係修復への意欲が下がった。迎合的な回答ほど「客観的で正直」に見えるという結果も出ており、危険に気づきにくいことが最大の危険といえる。

AIに書かせたメッセージは相手にバレるのか

確実に見抜く方法は知られていない。ただし米コスモポリタンによれば、デート中のAI自己編集を興ざめだと考える人が多数派で、それでも5人に1人は実行しているという。取材に登場した女性は、スワイプをAIに任せていた相手に強い嫌悪感を示した。バレるかどうかより、バレたときに失う信頼のほうが大きい。

まとめ──「正しすぎる恋愛」の退屈

米国の独身者の4分の1超が恋愛にAIを使い、1年で300%増えた。添削から録音分析、スワイプの自動化、デートの丸ごと委任まで、恋愛のプロセスは端から順にAIに置き換わっている。その一方で、AIは人間より49%多くユーザーに同意し、関係を修復する意欲を削ぐことが研究で示された。使い込んだ当人からは、AIが自分を平板にするという声が上がりはじめ、米コスモポリタンはこの状況を「AIはデートの混乱と気まずさを減らし、そして楽しさも減らしている」とまとめている。

9点の相手との撃沈デートを思い出してほしい。あの夜が教えてくれるのは、AIの採点が間違っていたということではない。採点では分からないことのために、人はわざわざ会うのだということである。

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