黒字リストラで最初に切られるのは中間管理職である。Amazonは削減した職の78%超が管理職層だった。
業績が悪いから人を減らす、という話ではない。2025年に上場企業が募集した早期・希望退職17,875人のうち、85%は黒字企業が出したものだ。同じ時期、海外では解雇の内訳が公開され始めている。そこに共通して現れるのは、特定の職種ではなく特定の階層が消えているという事実だった。
黒字リストラとは何か、日本はいまどこにいるのか

東京商工リサーチの集計によると、2025年に上場企業が実施した早期・希望退職の募集は43社、17,875人にのぼった。リーマン・ショック以降で3番目に高い水準で、東日本大震災の翌年である2012年の17,705人をわずかに上回る。
注目すべきは社数と人数の動きが逆を向いていることだ。募集した会社の数は前年の57社から43社へと24.5%減った。にもかかわらず募集人数は78.5%増えている。つまり、リストラに踏み切る企業は減ったが、踏み切った企業は一社あたりで大量に切っている。
そして募集人数15,205人、全体の85.0%は黒字企業が出したものだった。実施した43社のうち29社、構成比67.4%が黒字である。赤字企業14社の募集は2,670人にとどまる。これが「黒字リストラ」と呼ばれる現象で、業績不振の穴埋めではなく、利益が出ているうちに人員構成を組み替える動きを指す。
業種には偏りがある。電気機器が18社で構成比41.8%と全体の4割を占め、以下は食料品、金属製品、機械、情報通信がそれぞれ3社ずつ。市場区分では東証プライムが33社、76.7%を占め、募集人数では17,245人、96.4%に達した。大企業の、それも製造業を中心とした動きである。
| 項目 | 2025年の実績 |
|---|---|
| 募集した企業 | 43社(前年57社から24.5%減) |
| 募集人数 | 17,875人(前年比78.5%増) |
| うち黒字企業 | 29社・15,205人(人数ベースで85.0%) |
| うち赤字企業 | 14社・2,670人 |
| 最多業種 | 電気機器 18社(41.8%) |
| 東証プライム | 33社(76.7%)・17,245人(96.4%) |
個社の例を見ると輪郭がはっきりする。KADOKAWAは2026年5月14日に早期退職の特別募集を公表し、6月1日から26日まで応募を受け付けた。対象は7月31日時点で在籍する45歳以上かつ勤続5年以上の社員のうち、一定の職級に属する者。154名が応募し、割増退職金として54億円の特別損失を計上している。
ここで効いているのは年齢だけではない。「一定の職級」という条件だ。日本経済新聞は2025年8月の記事で、早期退職の広がりについて管理職年代の削減が目立つと報じている。年齢で線を引いているように見えて、実際に削られているのは職級である。
なぜ黒字でも人を切るのか
黒字リストラの説明として最もよく語られるのは、人員構成の是正だ。バブル期に大量採用した世代が管理職適齢期に入り、ポストの数に対して人が多すぎる。だから利益に余裕があるうちに割増退職金を払って整理する、という筋書きである。
これは間違ってはいない。ただし、この説明だけでは2025年の数字が説明しきれない。人員構成の是正が理由なら、社数はもっと広く薄く分布するはずだ。実際には社数が減って一社あたりの規模が膨らんでいる。少数の企業が、まとまった規模で、意図を持って階層を削っている。
海外の事例を見ると、その意図が言葉になって出てくる。決済企業Blockは2026年、1万人を超えていた従業員を6,000人規模まで減らした。削減幅は約4,000人、4割に相当する。創業者のジャック・ドーシーはこの決定について「我々が困っているからこの決断をしたのではない」と述べている。業績は堅調だという前提での再設計だった。
Blockが実際に何をしたかというと、恒久的な中間管理層そのものを組織から取り除いた。残したのは3つの役割である。実務を担うIC、顧客に対する成果を引き受けるDRI、そして部下の上に立って監督するのではなく並んで働きながら育てるプレイヤーコーチ。指揮命令のためだけに存在する層を消し、その調整機能をAIに寄せる構想を、同社は「インテリジェンスレイヤー」と呼んだ。同様の発想はCoinbaseのブライアン・アームストロングも公言しており、人間を周縁に配した知能として会社を組み直すという表現を使っている。
つまり黒字リストラの動機は、余った人を減らすことではない。組織の形そのものを変えることにある。そして形を変えるとき、真っ先に不要と判定されるのが中間の層だ。
切られているのは職種ではなく「層」である

数字を並べると、これは印象論ではないことがわかる。
Amazonは2025年10月以降、企業部門で30,000人を削減した。31年の社史で最大の規模である。そして小売部門で消えた職のうち、78%超がL5からL7に区分される中間管理職だった。8割近くが管理職という内訳は、削減が無差別ではなかったことを意味する。
Googleでも同じ方向の動きがある。少人数のチームを見ている管理職は、前年と比べて35%減った。評価の運用、希望退職、組織再編を組み合わせて、小さなチームを束ねる役職そのものを薄くしている。
Salesforceは顧客対応の約50%をAIエージェントに移し、4,000人を削減した。一方でIBMは7,800の職を消しながら、全体の人員はむしろ増やしている。Amazonも小売部門で管理職を切る裏で、AWSでは4,000人を超えるAIインフラのエンジニアを採用した。人を減らしているのではなく、人の構成を入れ替えている。
| 企業 | 削減の内訳 |
|---|---|
| Amazon | 企業部門30,000人。小売部門では消えた職の78%超がL5〜L7の中間管理職 |
| 少人数チームを見る管理職が前年比35%減 | |
| Block | 10,000人超から6,000人規模へ。中間管理層を廃止しIC・DRI・プレイヤーコーチの3役に再編 |
| Salesforce | 顧客対応の約50%をAIエージェントへ移行、4,000人削減 |
| IBM | 7,800職を削除したが全体では人員拡大 |
調査会社Gartnerは、2026年までに組織の20%がAIによって階層をフラット化し、既存の中間管理職の半数超が消えると予測した。Live Data Technologiesの調査では、2022年5月から2025年5月までの3年間で管理職の実数が6.1%減っている。予測と実測の両方が同じ方向を指している。
理屈は単純だ。中間管理職の仕事の中核は、上からの方針を下に翻訳し、下の状況を上に集約し、部門をまたぐ調整をつけることにある。報告、集約、調整。これらはいずれも情報を右から左へ運ぶ作業であり、AIが最も安く速くこなせる領域と重なる。一人が10人分の処理を回せるようになった組織では、運ぶためだけに置かれた層が管理コストとして見えてくる。
解雇リストはこうして作られる

では、その層の中で誰が選ばれるのか。ここまでは各社の広報や集計から見える話だったが、選定の手続きそのものが公開された例がある。Metaが法廷に提出した宣誓供述書だ。
元従業員26人が起こした訴訟で、連邦裁判所はビザ保有者4人がなぜ削減対象に選ばれたのかを説明するよう命じた。これを受けてMetaの人事ビジネスパートナー実行責任者リン・ドアンが提出したのが、13ページの宣誓供述書である。そこには解雇リストの作り方が3段階で記されていた。
第1段階で、組織のどの部門を削減するかを決める。第2段階で、職務レベルと役職に基づいて対象者をコホート、つまりグループに束ねる。第3段階で、事業ニーズに関連する客観的な選定基準を確立する。
重要なのはその次だ。基準が確定した後、現場の管理職はそこから逸脱することを許されない。誰を残すかを決めるのは、部下を日々見ている上司ではなく、あらかじめ設定された基準のほうである。あるチームでは、この手続きによって約40%が削減対象になった。
時系列も記録に残っている。従業員の活動を監視するツールが動き始めたのが2024年4月22日。解雇通知が出たのが同年5月20日。その間、28日である。
AIの関与について、Meta側はAIが解雇対象者の決定に使われたことはないと主張している。ただし宣誓供述書は、従業員がAIツールを使ったかどうかが人事評価に影響したのかについては触れていない。原告側は別の点を突いている。AIを用いた人事ダッシュボードが休職期間を計算に入れず、休暇中だった職員の記録を欠落させたという主張だ。
ここに、この記事で最も注意を払うべき論点がある。多くの人が想像する「AIが人間を評価して切り捨てる」という構図と、実際に起きていることは違う。Metaの手続きにAIが判断者として登場した証拠はない。しかし基準が先に決まり、管理職がそこから外れることを禁じられている以上、選定は事実上自動化されている。人間の裁量を排除した仕組みは、AIが判断していなくてもAI的に機能する。
日本の読者にとって、この28日という数字は他人事ではない。社内の何かが静かに動き始めてから通知が届くまで、Metaのケースでは1か月に満たなかった。予兆があったとしても、気づいてから動ける時間は長くない。
その先に何が起きるか
ここまでは削る側の論理だ。だが削った後に何が起きるかについては、すでに反証が積み上がり始めている。
Klarnaは顧客サービス職700人をAIで置き換えた。その後、顧客満足度の低下を受けて人員を戻している。置き換えは技術的には可能でも、結果として引き合わないことがあるという実例だ。
管理職を削った組織で何が起きているかについては、複数の調査が近い結論を出している。Korn Ferryの調査では、従業員の41%が管理層の削減を実感し、43%がリーダーシップの分断を指摘した。DDIが2025年に行ったグローバルリーダーシップ調査では、部門長に対する信頼が29%まで落ち込んでいる。2022年と比べて37%の低下だ。
より長い時間軸の問題も指摘されている。Cornerstone OnDemandの最高人事責任者カリーナ・コルテスは、エントリーレベルの職が構造化された学習環境として機能してきた点を挙げ、AIが反復業務を吸収すると管理職を育てる経路そのものが失われると述べている。Korn Ferryのマリア・アマトはこう表現した。「最も効果的なリーダー開発は現場で、管理職層が作る関係性の中で起こる」。
そして育てる経路が細る一方で、なりたがる人も減っている。Deloitteが2025年に行った調査では、Z世代とミレニアル世代のうちリーダーシップ職を志望する割合は6%だった。同じくKorn Ferryのレスリー・ウーレンは、今日のリーンな組織が明日のリーダーシップ危機を生む可能性を指摘している。BCGのデボラ・ロビッチは、マネージャーが担う感情面の支えやコーチングはAIが複製できない仕事だと主張する。
日本でも構造は似ている。組織のフラット化でポストを減らした結果、課長がプレイングマネージャー化し、負担に対して処遇が見合わないために管理職を避ける若手が増えている、という指摘は以前からある。パーソル総合研究所の調査では管理職と非管理職の賃金格差が縮小しており、係長では1.2倍という水準にとどまる。ポストを削れば人件費は下がる。ただし、その組織が5年後に誰を経営層に据えるのかという問いは残る。
この記事の要点
黒字リストラは業績不振の帳尻合わせではなく、組織の形を変える作業である。そして形を変えるとき、最初に削られるのは特定の職種ではなく中間管理職という層だ。Amazonの78%、Googleの35%、Blockの管理層廃止は、いずれも同じ方向を指している。
選定の手続きは、Metaの宣誓供述書が示したとおり、現場の裁量を排して基準を先に固める形で進む。AIが判断者として前面に出ていなくても、結果は自動化された選抜に近い。
一方で、削った後の副作用はすでに数字に現れ始めている。信頼の低下、育成経路の消失、そして管理職になりたがらない次世代。この記事が扱ったのは、その両方である。
なお、自身の雇用や退職条件に関わる具体的な判断については、社内規程や労働契約の内容によって結論が変わる。実際に募集の対象となった場合は、労働問題を扱う弁護士や労働組合など専門家に相談してほしい。
よくある質問
黒字リストラはなぜ起きるのか
主な理由は人員構成の是正だが、それだけでは説明がつかない。2025年は募集した企業の数が24.5%減った一方で募集人数は78.5%増えており、少数の企業がまとまった規模で階層を削っている。Blockのように中間管理層そのものを組織から取り除き、その調整機能をAIに寄せる再設計を公言する企業も現れた。利益が出ているうちに組織の形を変える、というのが実態に近い。
黒字リストラに予兆はあるのか
Metaのケースでは、従業員の活動を監視するツールが動き始めた2024年4月22日から、解雇通知が出た同年5月20日まで28日だった。宣誓供述書によれば、この間に対象者は職務レベルと役職でコホート化され、客観的な選定基準が確定している。基準が固まった後は現場の管理職も逸脱を許されないため、通知の前に個別交渉で覆せる余地は小さい。予兆があるとすれば、評価制度や勤務データの取得方法が変わるタイミングである。
なぜ中間管理職が狙われるのか
中間管理職の中核業務は、方針の翻訳、状況の集約、部門間の調整であり、いずれも情報を運ぶ作業にあたる。この領域はAIが安く速くこなせる範囲と重なるため、一人が処理できる量が増えた組織では管理コストとして可視化されやすい。実際にAmazonでは小売部門で消えた職の78%超がL5からL7の中間管理職で、Googleでは少人数チームを見る管理職が前年比35%減った。Gartnerは2026年までに組織の20%がフラット化し、既存の中間管理職の半数超が消えると予測している。
黒字リストラの退職金はどうなるのか
早期・希望退職の募集では通常の退職金に割増分が上乗せされることが多い。KADOKAWAは2026年に45歳以上かつ勤続5年以上の一定職級を対象に募集し、154名の応募に対して割増退職金として54億円の特別損失を計上した。単純計算で1人あたり3,500万円規模になるが、割増の水準は企業ごと、また勤続年数や職級によって大きく異なるため、実際の条件は募集要項で確認する必要がある。
管理職を減らした企業はその後どうなるのか
複数の調査が副作用を報告している。Korn Ferryの調査では従業員の41%が管理層の削減を実感し、43%がリーダーシップの分断を指摘した。DDIの2025年グローバルリーダーシップ調査では部門長への信頼が29%まで低下し、2022年比で37%落ちている。Klarnaは顧客サービス職700人をAIに置き換えた後、満足度の低下を受けて人員を戻した。Deloitteの2025年調査ではZ世代とミレニアル世代でリーダーシップ職を志望する割合が6%にとどまっており、育成経路と志望者の両方が細っている。


