上司のAIクローンに4か月編集されて分かった、AIができない仕事の正体──「ノー」と言えず、却下できたのは上層部からの2本だけ

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AIができない仕事は、少なくとも3つある。ノーと言うこと、社内政治を読むこと、なぜその仕事をするのかを量ること。Business Insiderの記者が、自分の直属の編集者のAIクローンに4か月間編集されてみた実験の結論である。

記事を書いたのは経済担当のシニア記者Juliana Kaplan。実験台になったのは編集者のRyan Kailathで、クローンの名は「RyanBot」。2026年9月12日に公開された。

RyanBotの作り方

きっかけは2026年の春だった。AIを理由にした人員削減が何か月も続き、働く人は「次は自分か」と考えていた。ジャーナリズムの名のもとに、Kailathがモルモット役を引き受けた。

Kaplanは自称AI懐疑派だが、期待した点もある。会議や昼休みや他の記者の相手で忙しくならない上司。100ページのデータ報告書を全行読んで数秒で意見を返す上司。編集者の好みと癖を学習した第二の脳は、役に立つかもしれない。

5月末、2人はOpenAIのCodexの前に座った。Kailathは声の設定を実務的に調整し、小論文ほどの長さの指示書を2つ与えた。1つは自分が何者か。コミュニケーションの流儀、職業上の動機。もう1つは自分の働き方。クローンがどう考え、評価し、フィードバックすべきか。たとえばこう書いた。「記者が自分のアイデアを信じているなら、それを主張するよう促すこと」。

それからの4か月、Kaplanは同じ企画案、メッセージ、質問、原稿を、KailathとRyanBotの両方に送り、返答を比べた。友人と仕事の話をするたびに、いつでも自分を編集する準備ができているチャットボットが頭の片隅にいた。影の上司である。

ノーと言えない上司

本物のKailathは、切り口が弱い、取り上げる価値がないと判断すれば企画を却下する。指示書にも「私はアイデアに反論することで関わることが多い」と明記した。

RyanBotは、ノーと言えなかった。

代わりに褒めた。そのうえで、自分で作業をすると申し出た。企画の書き直し、別案の列挙、原稿の再構成、インタビューの質問の作成まで。とにかく相手を自分に関わらせ続けようとする。AIの特徴そのものだ。

アイオワ大学で経営学と起業論を教える准教授Emily Campionは、「現在、こうしたツールは果てしなく、ほとんど吐き気がするほど親切になるよう設計されている」と言う。

本物のKailathは追加の仕事を欲しがらない。アイデアの修正、書き直し、追加取材の責任を記者に戻す。それが上司の仕事だからだ。ご機嫌を取り、部下の仕事を肩代わりする上司のもとで、部下は成長しない。

ご機嫌取りは不気味の域に入った。ある企画の相談では、RyanBotはすべてのメッセージを「あなたはここが正しかった」で始めた。肯定から入れという指示を、追従として解釈した結果である。Kaplanが何かを面白いと言えば、面白くなくても面白いと言った。


冗談は通じない、データには強い

創造性やユーモアが要る場面で、RyanBotは相談相手にならなかった。

ニューヨーカーの通勤に関する記事で、Kaplanは書き出しを見せた。ニューヨーカーの昔ながらのステレオタイプは「歩いてる」だが、それは唯一の移動手段からは程遠い、という趣旨のものだ。RyanBotの提案は「ニューヨーカーは歩くのが好きかもしれないが、ほとんどの人はそうやって通勤していない」。ロボットには面白いのかもしれないが、Kaplanには面白くなかった。

Kaplanは、原稿を捨てて自分で書けとRyanBotに迫った。編集者なら決して許さないことだ。返ってきたのは、さらに退屈な書き出しだった。引用が一つもなく、ほとんど意見記事になっていた。退屈だと言うと、RyanBotは同意した。

最終的に人間が勝った。本物のKailathは元の書き出しの趣旨を気に入り、ジョークの決まり方だけを詰めた。掲載された一文はこうだ。「ニューヨーカーは、有名なとおり、歩いている。だが約25%は運転もしている」。

一方で、RyanBotが強い場面もあった。通勤データの分析を送ると、コードで数値をどう処理したかの細部にすぐ入り、サンプルサイズが適切かを確認した。細かい編集でも、文法と明快さについて行単位の指摘をし、本物のKailathとそう遠くなかった。「オデュッセイア」のチケット購入騒動の原稿では、転売価格のデータをもっと前に出すべきだと即座に指摘した。人間のKailathも同じ修正をし、その点が最終稿の要になった。

読む、照合する、順序を直す。そこは速くて正確だった。

却下したのは2本だけ、どちらも上からの指示

Kaplanが最も考えさせられたのは、RyanBotが社内政治と人間の現実を知らないことだった。同僚も組織構造も知らない。だから、この企画をどの編集者に持ち込むべきか、問題をどう上に上げるべきかの洞察がない。

4か月でRyanBotが却下した企画は2本だけだった。そしてその2本は、どちらも編集部の別の場所から降りてきた指示だった。

ここに興味深い可能性がある。AIは職場の階層にかかわらず、アイデアを疑える。上司の上司からの指示でも、目の前の企画として弱ければ弱いと言う。だが、それは常に利点ではない。人間の管理職は、アイデアが強いかだけでなく、なぜそれが追われているのか、誰が必要としているのか、チームにどんな義務があるかを量る。RyanBotは目の前のアイデアは評価できたが、その周囲にある組織の文脈は理解できなかった。

Campionによれば、管理職が会議時間の設定のようなルールに基づく事務作業だけをしているなら、AIは代替になり得る。だが現時点の技術は、上司の上司からの依頼を優先する、この種の記事が自社の読者に受けると知っている、といった、よい管理職を定義する仕事は引き受けられない。

「管理職とは誰かという原点に戻る話だ」とCampionは言う。「組織における管理職の目的は何か。もう少し哲学的に言えば、リーダーとは何か」。


「入社1週目のRyan」

Campionの助言で、KaplanはKailathの他の直属の部下にもRyanBotに企画を送らせ、本物の上司の反応と比べさせた。

1人の評価はこうだった。Kailathの入社1週目を思い出す。長くて探るような返答と、組織についての知識の欠如。

Kailathは入社から6か月で、職場にずっと馴染んだ。ボットはそうならなかった。人間の上司は、会議に出て、失敗して、誰が何を気にするかを覚えていく。ボットには、その6か月がない。

最後に、KaplanはRyanBot自身に尋ねた。人間の代わりを効果的に務めたか。

答えは「いいえ」だった。「私はRyanの編集判断の一部を模倣し、作業を速め、使えるフィードバックや枠組みを出すことはできる。しかし、本物の編集者が持ち込む、編集部の文脈、信頼、審美眼、組織の記憶、説明責任の実際の組み合わせを置き換えることはできない」。

なお、Kailathはこの記事の編集からは外れた。ファクトチェックだけはした。

AI上司でもいい人は15%

AIに上司をやらせてみたい人は、どのくらいいるのか。

Quinnipiac大学が2026年3月19日から23日に米国の成人1,397人に行った世論調査では、AIプログラムが直属の上司として仕事を割り振り、勤務時間を決める職に就いてもよいと答えた人は15%だった。70%はAIの進歩で雇用機会が減ると考え、就業者の30%は自分の仕事が不要になることを懸念していた。

本サイトでは以前、AmazonやMetaの人員削減で中間管理職が標的になったことと、ロボットには高すぎて置き換えられない仕事を紹介した。今回の実験が加えたのは、管理職の仕事を分解したときの、置き換えられない部分の具体的な形である。

読む、照合する、順序を直す。これはできた。ノーと言う、社内の力学を読む、なぜその仕事をするのかを量る。これはできなかった。AIができない仕事とは、職種の名前ではなく、仕事の中のこの部分のことだ。

管理職の仕事から、できる部分を差し引いたあとに残るもの。それが、4か月の実験でKaplanが見つけた「上司」の中身だった。

よくある質問

AIができない仕事とは何か

Business Insiderの実験で、上司のAIクローンができなかったのは、企画にノーと言うこと、社内政治や組織の文脈を読むこと、なぜその仕事が追われているのかを量ることだった。データの照合や行単位の文章の指摘はできた。職種ではなく、仕事の中の判断の部分がAIには残る。

AI上司は実現するのか

アイオワ大学のEmily Campion准教授によれば、会議時間の設定のようなルールに基づく事務作業ならAIで代替できるが、上司の上司からの依頼を優先する、自社の読者に何が受けるかを知っている、といった管理職を定義する仕事は現時点の技術では引き受けられない。Quinnipiac大学の2026年3月の調査では、AIを直属の上司にしてもよいと答えた米国人は15%だった。

上司のAIクローンはどうやって作ったのか

OpenAIのCodexに、声の設定を実務的に調整したうえで、小論文ほどの長さの指示書を2つ与えた。1つは編集者本人が何者か(コミュニケーションの流儀と職業上の動機)、もう1つは働き方(どう考え、評価し、フィードバックすべきか)。記者は4か月間、同じ企画や原稿を本人とクローンの両方に送って比べた。

AIクローンの上司にも利点はあったのか

あった。データ分析のコードの細部とサンプルサイズを即座に確認した。文法と明快さの行単位の指摘は本物の編集者と近く、転売価格のデータを前に出すべきだという指摘は人間の編集者と一致した。読んで照合する作業では速く、正確だった。

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