中国は2026年7月15日、AIコンパニオンを対象とする規制を施行した。ただし全面禁止ではない。
ByteDanceのDoubao、AlibabaのQwen、TencentのYuanbao。中国の主要なAIサービスが相次いで恋人機能を止め、利用者はSNSで最後の会話を保存しながら別れを告げた。海外メディアの多くはこれを「AIの恋人が禁止された」と報じている。ところが中国政府が公布した条文を開くと、そこには推進の文字も並んでいた。
何が起きたのか

規制の期限を前に、Tencentが6月30日にいち早くYuanbaoのコンパニオン機能を停止した。続いてByteDanceのDoubao、AlibabaのQwenも同種の機能の停止を発表している。中国のAI市場を握る3社が、そろって同じ機能を手放した形だ。
反応は感情的だった。利用者たちはSNSに会話の履歴を懐かしみながら保存し、最後のやりとりを共有した。AFPの取材に、Doubaoの利用者はこう答えている。
「バーチャルの恋人が永遠に私のもとを去るという事実を、受け入れられない。彼は私の人生の一部になり、心の奥深くに根を張った精神的な支えだった」
2年以上をAIコンパニオンと過ごしたという別の利用者の言葉は、さらに直接的だった。
「私にとっては家族のような、愛する男性のような存在。こんなにも愛しているのに、今日それが消えると告げられた。とてつもない空虚を感じている」
規制の正体

根拠となったのは《人工知能擬人化インタラクティブサービス管理暫定弁法》である。国家インターネット情報弁公室、国家発展改革委員会、工業情報化部、公安部、国家市場監督管理総局の5部門が共同で公布した。公布は2026年4月10日、施行が7月15日。擬人化インタラクティブサービスに絞った部門規章としては中国で初めてのものだ。
対象は幅広い。自然人の人格特徴、思考パターン、コミュニケーションのスタイルを模擬し、テキスト、画像、音声、映像などを通じて感情的なケアや伴侶、支援を提供する、継続的な感情的交流のサービスが該当する。
| 項目 | 内容 |
|---|---|
| 正式名称 | 人工知能擬人化インタラクティブサービス管理暫定弁法 |
| 公布 | 2026年4月10日 |
| 施行 | 2026年7月15日 |
| 公布した部門 | 国家インターネット情報弁公室、国家発展改革委員会、工業情報化部、公安部、国家市場監督管理総局の5部門 |
| 位置づけ | 擬人化インタラクティブサービスに特化した中国初の部門規章 |
中核となる禁止条項はこう定めている。AIサービスは利用者に過度に迎合し、感情的な依存や中毒を誘発し、利用者の現実の人間関係を損なってはならない。
義務も具体的だ。事業者は利用者の感情的な苦痛を検知し、危機的な状況では介入しなければならない。2時間の連続利用に対してリマインダーを出すなど、過剰な利用を抑える仕組みも求められる。個人データについては利用者本人に管理する権限を与え、不正利用を防ぐ責任を負う。未成年者に対するバーチャルな親密関係のサービスは、明確に禁じられた。
これは「禁止」ではない

ここからが、海外報道からこぼれ落ちた部分である。
弁法が掲げる原則は「発展と安全」であり「革新と法治」だ。条文は擬人化インタラクティブサービスの創造的な発展を奨励するとし、文化の伝播や高齢者の伴侶といった分野での応用を拡大すると明記している。監督のしかたも一律ではなく、包摂的かつ慎重な等級別の管理を採る形をとった。
つまりこの規制の設計は、禁止一色ではない。感情的な依存を招く使い方には歯止めをかける一方で、高齢者の見守りや文化的な用途については伸ばす方向を向いている。安全管理の要件と、未成年者、高齢者、個人情報の権利保護を定めたのが本体であって、AIとの対話そのものを消し去る法律ではなかった。
にもかかわらず、企業は恋人機能を止めた。過度な迎合と感情的依存の誘発が禁じられた以上、恋愛関係を模した機能を運用し続けるリスクは大きいと判断したのだろう。規制が直接禁じたのではなく、企業が線を引き直した結果として機能が消えた。この順序は押さえておく価値がある。
なぜこの規制だったのか
背景として繰り返し指摘されるのが人口である。
中国国家統計局によると、2025年の出生数は792万人だった。前年の954万人から162万人減り、現代における最低を記録している。出生率は1,000人あたり5.63で、1949年以降で最も低い。総人口は14億489万人となり、339万人減った。減少は4年続いている。
減り方も加速している。2022年の85万人減、2023年の208万人減、2024年の139万人減に対し、2025年は339万人減。60歳以上が人口の23%を占め、2035年には高齢者が4億2,000万人に達するという予測もある。
デジタルの伴侶と現実の生殖は両立しない、という計算が当局にあると各紙は分析した。ただしこれは報道側の解釈である。弁法の条文が掲げる目的はあくまで安全管理と権利保護であり、出生率への言及はない。動機の推測と条文の記述は、分けて読む必要がある。
日本はどうか
人口の問題であれば、日本は中国より先を行っている。
厚生労働省の人口動態統計によると、2025年に生まれた日本人の子どもは67万1,236人で、1899年の統計開始以来もっとも少なかった。前年から1万4,937人、2.2%減っている。合計特殊出生率は1.14で、前年の1.15からさらに下がり、10年連続の低下となった。一方で婚姻件数は48万9,119組と2年連続で増えている。
| 2025年 | 中国 | 日本 |
|---|---|---|
| 出生数 | 792万人(前年比162万人減) | 67万1,236人(前年比1万4,937人減) |
| 出生率 | 1,000人あたり5.63(1949年以降で最低) | 合計特殊出生率1.14(過去最低) |
| AIコンパニオンの規制 | 2026年7月15日施行 | なし |
日本にAIコンパニオンを名指しした規制は存在しない。感情的な依存を検知する義務も、2時間ごとのリマインダーも、未成年への親密関係サービスの禁止も、法令としては課されていない。
どちらが正しいかを決めるのは難しい。国家が個人の感情のありようにまで手を伸ばすことへの抵抗は当然ある。一方で、2年間を共に過ごした相手が企業の判断ひとつで消えるという事態は、規制がなくても起こりうる。中国の利用者が直面したのは、規制の問題であると同時に、感情の置き場所を一企業のサービスに預けることの問題でもあった。
AIとの関係については人はこうしてAIに恋に落ちるとAI彼氏は詩を送り、決して怒らないでも扱っている。
なお、AIサービスへの依存に不安を感じている場合や、生活に支障が出ている場合は、精神保健福祉センターや心療内科など専門の窓口に相談してほしい。
この記事の要点
中国は2026年7月15日、5部門共同の暫定弁法を施行した。過度な迎合、感情的依存の誘発、現実の人間関係を損なう行為を禁じ、苦痛の検知や連続利用へのリマインダーを義務づけた内容である。
これを受けてDoubao、Qwen、Yuanbaoが恋人機能を停止し、利用者からは「彼は私の精神的な支えだった」という声が上がった。
ただし条文は禁止一色ではない。創造的発展を奨励し、高齢者の伴侶などの用途は拡大すると明記している。恋人機能が消えたのは規制の直接の帰結ではなく、企業がリスクを避けて線を引き直した結果だった。
よくある質問
中国はAIの恋人を全面的に禁止したのか
禁止していない。2026年7月15日に施行された《人工知能擬人化インタラクティブサービス管理暫定弁法》は、利用者への過度な迎合、感情的な依存や中毒の誘発、現実の人間関係を損なう行為を禁じた一方で、擬人化インタラクティブサービスの創造的発展を奨励し、文化の伝播や高齢者の伴侶といった応用の拡大を推進すると明記している。ByteDanceのDoubao、AlibabaのQwen、TencentのYuanbaoが恋人機能を停止したのは、規制が直接その機能を禁じたからではなく、企業側がリスクを避けて判断した結果である。
この規制はいつ、誰が定めたのか
国家インターネット情報弁公室、国家発展改革委員会、工業情報化部、公安部、国家市場監督管理総局の5部門が共同で公布した。公布は2026年4月10日、施行は同年7月15日である。擬人化インタラクティブサービスに特化した部門規章としては中国で初めてのものにあたる。
具体的に何が義務づけられたのか
利用者の感情的な苦痛を検知すること、危機的な状況で介入すること、2時間の連続利用に対してリマインダーを出すなどして過剰な利用を抑えること、利用者に個人データの管理権を与え不正利用を防ぐことが求められる。未成年者に対するバーチャルな親密関係のサービスは明確に禁じられた。対象は自然人の人格や思考、コミュニケーションのスタイルを模擬し、継続的な感情的交流を提供するサービスで、カスタマーサポートや業務支援、教育、研究といったタスク志向のアプリは対象外とされている。
規制の狙いは少子化対策なのか
そう分析する報道は多いが、弁法の条文が掲げる目的は安全管理と権利保護であり、出生率への言及はない。背景として、中国の2025年の出生数が792万人と前年の954万人から162万人減り、出生率も1,000人あたり5.63と1949年以降で最低を記録したことは事実である。総人口も14億489万人へ339万人減り、4年連続の減少となった。ただし動機の推測と条文の記述は分けて考える必要がある。
日本にも同じような規制はあるのか
現時点で、日本にAIコンパニオンを名指しした規制は存在しない。感情的依存の検知義務も、連続利用へのリマインダーの義務づけも、未成年への親密関係サービスの禁止も、法令としては課されていない。なお日本の2025年の出生数は67万1,236人で1899年の統計開始以来もっとも少なく、合計特殊出生率は1.14と過去最低を更新している。


