「人生の幸福度は、U字カーブを描く」――。
若いうちは比較的に幸せで、キャリアや家庭の悩みがピークに達する中年期に幸福度が底を打ち(中年の危機)、そして引退後は再び上昇していく。これは、何十年にもわたって信じられてきた、人生における幸福度の定説でした。
しかし、この常識が、現代の若者たちによって完全に覆されようとしています。44カ国を対象とした最新のグローバル調査によって、観測史上初めて、若者(Z世代)の幸福度が中年層よりも低いという衝撃的な事実が明らかになったのです。
U字カーブが「スキー上級者コース並みの角度」に?若者の幸福度が急降下
かつての「U字カーブ」は、もはや存在しません。研究者の一人であるアレックス・ブライソン氏は、現代の幸福度グラフを「スキー上級者コース並みの角度のようだ」と表現します。つまり、若者時代が最も不幸で、年齢を重ねるにつれて、その不幸度が徐々に減少していくという、全く新しいパターンです。
この地殻変動は、中年層が幸せになったからではありません。ひとえに、Z世代のメンタルヘルスの急激な悪化が、グラフ全体の形を変えてしまったのです。
実際、2023年の米ギャラップ社の調査では、自身のメンタルヘルスが「素晴らしい」と回答したZ世代はわずか15%。これは、前の世代であるミレニアル世代が同年齢だった頃の52%という数字から、劇的に低下しています。
なぜZ世代はこれほどまでに追い詰められているのか?
Z世代は、他の世代とは異なる、いくつかのユニークな課題に直面してきました。
デジタル漬けの環境:
物心ついた時からスマートフォンやSNSに完全に囲まれて育った最初の世代。研究者は、この「スマホ漬け」の環境がメンタルヘルスに与える影響を、最も有力な原因の一つとして挙げています。
コロナ禍での孤立:
人格形成に重要な10代や大学時代の大半を、コロナ禍による自宅待機や孤立の中で過ごしました。
経済的な不安:
上の世代と比較して、最も多くの個人的な負債を抱えているというデータもあり、将来への経済的な不安も深刻です。
研究者のブライソン氏は、「スクリーンタイムとメンタルヘルスの悪化には、単なる相関関係だけでなく、因果関係を示す証拠も増えている」と指摘しています。
「これは世界的な危機だ」― 専門家が求める緊急対策とは
この憂慮すべき事態に対し、研究の著者の一人であるブランチフラワー教授は「これは世界的な危機だ」と断言し、すぐに行動を起こす必要があると訴えています。
彼らが提言するのは、学校でのスマートフォン使用の禁止や、若者たちが対面で交流する機会を増やすこと、そして、若者のメンタルヘルス問題に対する政策的な関心を高めることなど、具体的な対策です。
「幸せな老後」は当たり前ではない?私たちに突きつけられた課題
今回の研究は、私たちが当たり前だと思っていた「人生の幸福モデル」が、もはや通用しない可能性を示唆しています。中年期の苦労を乗り越えれば、やがて穏やかで幸せな老後が待っている――。そんな未来予想図は、Z世代にとっては幻想なのかもしれません。
人生のスタート地点における幸福度がこれほどまでに低い世代が、これからどのような未来を歩んでいくのでしょうか。これは単に「Z世代」だけの問題ではありません。若者たちが希望を持てる社会をどう再構築していくか、すべての世代に突きつけられた、重い課題と言えるでしょう。