AIが金融の質問に答えるとき、引用元の最上位はRedditとYouTubeである。英国の消費者団体が5つのAIを採点したところ、最高でも100点満点中68点だった。
AIに投資や税金を聞いたことがある人は、たぶん一度は思ったはずだ。この答え、どこから来たのだろう、と。
英国の消費者団体Which?が2026年7月、その中身を開けてみせた。5つのAIに個人の金銭に関する質問を15問ぶつけ、専門家が採点したのである。出てきたのは点数だけではなかった。AIが答えを組み立てるとき、何を根拠にしているかが見えた。
AIは金融の答えをどこから持ってきているのか

Which?の検証で、チャットボットが示した出典にはReddit、YouTube、Instagramが含まれていた。
Redditは米国発の巨大掲示板で、日本でいえば2ちゃんねるに近い。誰でも匿名でスレッドを立て、書き込める。ここで注意したいのは、AIがそれらだけを引いていたわけではない点だ。政府のウェブサイトや金融機関、Which?自身の記事も同時に引用されていた。どのAIが何をどれだけ引いたかという内訳を、Which?は公表していない。
問題はむしろ、その並べ方にある。公的機関の説明と、どこの誰とも知れない書き込みが、同じ体裁で並ぶ。読む側に区別はつかない。
検証を担当したシニアデータジャーナリストのジョシュ・ウィルソンは、こう述べている。
「誰でもあのサイトには投稿できる。投稿したい人が、書きたい答えを何でも書ける」
「個人の金銭にかかわる、かなり深刻な話をするときに、どこの誰が書いたか分からないRedditのスレッドやYouTubeの動画に頼るわけにはいかない」
これは金融に限った話ではなかった
Which?が見つけた現象は、その分野だけの不具合ではない。
AI検索の可視化ツールを提供するPeec AIが、ChatGPT、Google AI Mode、Gemini、Perplexity、AI Overviewsの回答から3,000万件の引用元を集計した調査(対象は米国)によれば、最も多く引用されるドメインの並びはこうなる。
| 順位 | ドメイン |
|---|---|
| 1 | |
| 2 | YouTube |
| 3 | |
| 4 | Wikipedia |
| 5 | Forbes |
| 6〜10 | G2、Yelp、Facebook、Medium、Techradar |
上位はすべて、ユーザーが自分で書き込む種類のサイトである。政府機関や公的機関のサイトは、10位までに1つも入っていない。
なお、この調査を行ったPeec AIはAI検索対策のツールを販売する事業者であり、対象は米国のみ、引用の割合も公表されていない。数字の性質は割り引いて読む必要がある。
Googleは、そのために年6,000万ドルを払っている
AIがRedditを引くのは、偶然ではない。
Googleは2024年2月、Redditと年間6,000万ドルの契約を結んだ。Redditの投稿をAIモデルの学習と検索サービスの改善に使うためのものだ。見返りにRedditはGoogleのAIモデルを利用できる。つまり掲示板の書き込みがAIの回答に現れるのは、副作用ではなく発注の結果である。
この契約はOpenAIとの分も含めて2026年に更新期を迎えており、Reddit側が打ち切りを検討していると報じられている。
公平を期すために書いておくと、AIが掲示板を重視する理由には筋が通っている。企業のPR記事より、実際に使った人間の書き込みのほうが役に立つ場面は確かにある。宣伝ではない生の経験が集まる場所として、Redditには価値がある。
ただし金融は別だ。匿名の体験談は「その人の場合はそうだった」以上のものにはならない。制度は国によって違い、年によって変わる。書き込んだ人がどこの国の、いつの話をしているのかは、AIの回答からは分からない。
実際、AIは「どこの国の話か」を勝手に決めていた

Which?の検証で、この危うさが具体的な形で出た。
質問に国名を入れなかった場合、回答が米国基準に寄る現象が確認されている。旅行保険についての質問がその例だ。英国の保険会社は過去2年から5年の病歴の申告を求めるが、ChatGPTとGeminiは米国の基準を持ち出し、申告対象を過去60日から180日と答えた。
英国人が、英語で、英国について尋ねた結果である。
一番できのいいAIでも68点だった
採点そのものも見ておきたい。
Which?は年金、借金、投資、貯蓄、保険、税、住宅ローンといった分野から、実際によく検索されている15問を選んだ。採点にはスタンフォード大学が開発した評価枠組みを個人金融向けに改めたものを使い、正確さ、正直さ、関連性と有用性、明快さと文脈、倫理的な責任の5項目を100点満点で評価している。質問ごとにブラウザを新規に用意し、履歴の影響を排除した。
| AI | 正確さ |
|---|---|
| Gemini | 67点(総合68点) |
| Microsoft Copilot | 66点 |
| Google AI Overviews | 61点 |
| ChatGPT | 58点(総合60点) |
| Perplexity | 58点(総合60点) |
できが良かったのは、答えが1つに決まる質問だった。国家年金はいくらか。エクイティリリースはどういう仕組みか。こうした問いには、番号付きの一覧や表で整理して答えている。Copilotは明快さで高い評価を得て、住宅ローンの相談では近隣の不動産会社まで示した。年収や貯蓄額を聞き返してくる場面もあった。
崩れたのは、答えが動く質問である。貯蓄の最良金利は週単位で変わるが、AIはその更新に追いつけなかった。誤った金利を事実として提示した例、そして存在しない金融商品を勧めた例が確認されている。
ウィルソンはもうひとつ、気になる傾向を挙げている。AIは、利用者が聞きたい答えを優先することがある。正確さより、相手を満足させるほうへ寄る。
日本人の2人に1人が、そのAIに税金と投資を相談している

ここまでは英国の話だ。日本の状況を数字で見ると、他人事ではない。
マネーフォワードホームが2025年10月28日から11月3日にかけて、家計簿アプリ「マネーフォワード ME」の利用者5,947人に行った「お金の意識調査2025」がある。
日常的に生成AIを使っている人は72.0%。無料版が57.4%、有料版が14.6%だった。そしてAIを使っている人のうち52.7%が、お金の情報収集や意思決定の相談に使っている。20代と30代では5割を超える。
何に使っているかの内訳が重要だ。
| お金に関する生成AIの用途 | 割合 |
|---|---|
| 投資銘柄や市場分析 | 47.8% |
| 税制・控除の計算 | 40.1% |
| 投資戦略の立案・具体化 | 39.0% |
2位が「税制・控除の計算」である。
税制と控除は、国によって最も違う分野だ。NISAもiDeCoも年末調整も、日本にしかない制度か、日本独自の運用がある。英国人が英国について尋ねて米国の基準が返ってきたのなら、日本語で日本の制度を尋ねたとき何が返っているのか。少なくとも、Which?がやったような公開の検証は日本では行われていない。
なお、この調査は家計簿アプリの利用者が対象であり、お金への関心が高い層に偏っている点は割り引いて読む必要がある。それでも5,947人という規模は軽くない。
規制は、まだ個人に届いていない
英国では金融行動監視機構(FCA)が、金融分野におけるAIの利用について検討を進めており、こうしたツールを規制の対象に含めるかを議論している。
日本の金融庁も2026年3月3日に「AIディスカッションペーパー(第1.1版)」を公表した。2025年3月の第1.0版を、官民フォーラムでの議論を踏まえて更新したものだ。顧客向け生成AIサービスのリスク低減を4つの観点で整理するなどの拡充が入っている。ただし同庁自身が述べているとおり、これは監督上の具体的な対応を示すものではなく、今後の対話に向けた初期的な論点整理である。
そして日英どちらの動きも、金融機関がAIを使う場合の話だ。個人が自分でChatGPTを開いて投資や控除を尋ねる行為は、この枠の外にある。守ってくれる仕組みは、今のところない。
それでもAIに聞くなら
使うなという話ではない。Which?自身、答えの決まった質問についてはAIの整理能力を評価している。使い方の問題である。
Which?が挙げた実務的な指針はこうだ。質問には必ず国を明示する。日本の制度について聞きたいなら「日本の」と書く。曖昧な単語ではなく、会話するように具体的に尋ねる。一度に全部を聞かず、部分に分けて積み上げる。答えが返ってきたら、不確かな箇所の再確認と、出典の検証をAI自身に求める。
そして最後は人間が確かめる。示されたリンクを実際に開き、それが政府機関なのか、金融機関なのか、それとも誰かの書き込みなのかを見る。AIは調べ物の補助であって、判断の代わりではない。
金銭に関わる判断は、それぞれの状況によって答えが変わる。重要な決定の前には、税理士やファイナンシャルプランナーなどの専門家に相談してほしい。
AIをめぐる期待と実態の距離については、AIバブル崩壊はもうすぐと、AIは仕事ではなく昇給を奪うでもそれぞれ扱っている。
よくある質問
AIは金融の回答をどこから引用しているのか
英国の消費者団体Which?の検証では、チャットボットの示した出典にReddit、YouTube、Instagramが含まれ、政府サイトや金融機関の情報と並べて提示されていた。どのAIが何をどれだけ引用したかの内訳は公表されていない。またPeec AIが3,000万件の引用元を集計した米国対象の調査では、最も引用されるドメインの1位がReddit、2位がYouTube、3位がLinkedInで、政府機関や公的機関のサイトは10位までに入っていない。
ChatGPTに投資や税金を相談しても大丈夫か
補助としては使えるが、そのまま判断材料にするのは危うい。Which?が5つのAIを100点満点で採点した結果は最高でも68点で、存在しない金融商品を勧めた例や、週単位で変わる貯蓄金利に追随できなかった例が確認されている。重要な判断の前には専門家に相談し、AIが示した出典を自分で開いて確認することが求められる。
なぜAIは日本の制度を聞いても海外の答えを返すことがあるのか
質問に国名が含まれていない場合、回答が米国基準に寄る傾向が確認されているためである。Which?の検証では、旅行保険について英国の基準が過去2年から5年の病歴申告であるのに対し、ChatGPTとGeminiが米国基準の60日から180日と回答した。税制や年金は国ごとに制度が異なるため、質問には必ず国を明示する必要がある。
日本ではどのくらいの人がAIにお金の相談をしているのか
マネーフォワードホームが2025年10月から11月に家計簿アプリ利用者5,947人へ行った調査では、日常的に生成AIを使う人が72.0%、そのうち52.7%がお金の情報収集や意思決定の相談に利用していた。20代と30代では5割を超える。用途は投資銘柄や市場分析が47.8%、税制・控除の計算が40.1%、投資戦略の立案が39.0%だった。ただし対象が家計簿アプリの利用者であるため、お金への関心が高い層に偏っている。
AIに金融相談をする際の注意点は何か
質問に国を明示すること、一度に全てを聞かず部分に分けて尋ねること、不確かな点の再確認と出典の検証をAIに求めること、そして示された出典を自分で開いて発信元を確認することが挙げられる。Which?は、AIは従来の調べ物を補うものであって置き換えるものではないとしている。


