freeeの取り組みに見るアクセシビリティー対応の今後 すべての人が利用できるサービス開発現場の生の声とは

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freeeエンジニアの中根雅文氏。
freeeエンジニアの中根雅文氏。

7月20日、東京都内で「Japan Accessibility Conference – digital information vol.2」が開催された。アクセシビリティーとは、高齢者や障害の有無などにかかわらず、すべての人が機器・サービスを円滑に利用でき、容易に開かれた情報通信の世界へアクセスできること。同カンファレンスは、アクセシビリティーに取り組む人のエンパワーメントを目的に企画され、「障害当事者と情報アクセシビリティー」のストーリーを理解するセッションなど、さまざまなセッションが行われた。

全盲エンジニアによる指摘

給与計算、人事などのクラウド会計ソフトを開発・提供するfreee株式会社は、提供する会計ソフトや人事労務ソフトについて、Web版だけでなくモバイルアプリでもアクセシビリティーを改善する取り組みを進めている。同社のエンジニアが参加したパネルセッション「全盲エンジニアがiOS/Android/WebUIエンジニアにダメ出しした結果」では、日々プロダクトのアクセシビリティー改善に取り組んでいる3名のエンジニアが、プロダクト開発の実際を紹介した。モデレーターは、同社の全盲のエンジニアで、会計freeeのユーザーとしての経験も長い中根雅文氏。

視覚障害者が使うスクリーンリーダー(音声読み上げソフト)はOSによって異なるが、それぞれウィンドウズはマイクロソフト標準のナレーターのほかサードパーティーによるソフト、MacおよびiOSはボイスオーバー、アンドロイドはトークバックとサードパーティーによるアプリがある。

中根氏は、入社前からfreeeに対してツイッターで建設的なフィードバックをしていた。視覚障害者当事者で実際に使ってる人でなければ発見できない問題も少なくないそうだ。

同社のUIエンジニア・ 山本伶氏によると、例えば、アイコンフォントで表示されているアイコンに代替テキストが入っていないとスクリーンリーダーで読み上げられないという。これを通称「虚空」(ブランク)と呼んでいるそうだ。また、チェックボックスの幅を0にすると、理論上はスクリーンリーダーで読めるはずが実際には読まないという。そのため、中根氏からすると、まるで存在していないもの=「真空」のようになっている。

iOSのボイスオーバー対応については、同社プロダクト開発iOSアプリエンジニア・阿部諒氏が、Appleの標準に沿って作っても、正しく満足いく形になるとは限らないと指摘した。

また、読み上げにかかる時間についても課題があるという。アンドロイドのアプリ開発を担当している松本康男氏は、「読み上げるまでに1秒くらいかかると、速いスピードで読み上げをしているスクリーンリーダーユーザーは、ないものと思って次に進んでしまう」と話した。中根氏によると、一度に読み上げる情報量が多いと、読み始めるまでに時間かかってしまうそうだ。

情報収集の難しさとコミュニケーションの重要性

こうした開発に関わる情報をどうやって集めるかについても、出席者は「難しい」と口を揃えた。山本氏は「狙った情報は基本的にない。中根さんに聞くか、あとは自分でとにかくできそうなやり方を試して、試行錯誤しているような感じです」と語った。阿部氏も、情報としてはアップルのリファレンスとWWDCの情報を参考に、とにかく試すという。松本氏も、Googleのリファレンスを元に、トライ&エラーを重ねていると話した。

最近の成果として、山本氏は、UIの配色でコントラストが足りないのではないかと気づき、ブランディングデザインチームが作ったカラーパレットのコントラスト比を計算するシートを作ったという。また阿部氏は、ボイスオーバーの便利さを強調した。健常者でも、歩きながらスマホの画面を見ずに記事が読み上げられるため、声を通じて文章が頭に入り、理解も捗るという。

松本氏は、デザイナーとの協調も課題だと話し、制作に携わるスタッフ全員がアクセシビリティーを意識することが難しい現状を明かしていた。その現場に対し、中根氏は、別のセッション「私たち障害当事者ですが質問あります? – Ask Us Anything」で、「技術を離れて、障害の有無にかかわらず、すべての人は人権がある存在だということ。その意識が欠けているからアクセシビリティーが進まない」と訴えた。

障害者差別解消法が施行されても、当事者からすると大きく変わったとは言えないのが現実のようだ。当事者のニーズや困りごとについては、直接聞いて解決しようとする、コミュニケーションの重要性がますます高まっているのではないだろうか。