株を持つ意味が消えた日 米国株「リスクプレミアム消滅」の正体

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ウォール・ストリート・ジャーナルが2026年5月27日に「株式リスクプレミアム、米市場で消滅寸前」と報じた。専門用語が並ぶが、要点は単純だ。安全な米国債を持っても、値動きの激しい米国株を持っても、期待できるリターンがほぼ同じになってしまった、ということである。株を持つ意味が薄れているという、投資家にとっては不穏な指標だ。

そもそも何が消えたのか

株式リスクプレミアムとは、わざわざリスクの高い株を持つ見返りに、投資家が国債より上乗せして求める期待リターンを指す。計算は意外と素朴で、株価の「益回り」から国債利回りを引くだけだ。益回りはPER(株価収益率)の逆数にあたり、予想PERが20倍なら益回りは5パーセントになる。

いまS&P500の予想PERは21.48倍で、益回りに直すと約4.65パーセント。一方、10年物の米国債利回りは4.57パーセントまで上がった。差し引きはわずか0.08パーセントしかない。株を持つ上乗せ分がほぼゼロに沈んだ計算で、これはITバブル末期以来の異常な水準である。

なぜこうなったのか

背景には二つの力が同時に働いている。

一つは金利の急騰だ。2026年初頭に中東情勢が一気に悪化し、原油輸送の要衝ホルムズ海峡が封鎖される事態となった。原油価格は年初から6割も跳ね上がり、収まりかけていたインフレが再燃した。市場が織り込んでいたFRBの利下げ期待は吹き飛び、「金利は当面高いまま」という見方が主流に戻る。結果として国債利回りが押し上げられた。


もう一つは株高である。金利上昇は本来なら株の逆風だが、米国株はAIブームを追い風に史上最高値を更新し続けた。半導体や巨大IT企業に資金が集中し、株価が利益の伸び以上に膨らんでいる。益回りは下がり、国債利回りは上がる。両者が中央で出会い、プレミアムが消えた。

結局、何が問題なのか

危ういのは「暴落が近い」こと自体ではない。専門家の間でも、この指標が下落のタイミングを当てた実績はないと指摘されている。実際、ITバブル期にプレミアムがマイナスへ沈んだのは株価ピークの3年も前で、鵜呑みにして売っていれば歴史的な上昇相場をまるごと取り逃がしていた。

本当の問題は、市場から「余裕(クッション)」が消えたことだ。いまの株価は、インフレ沈静、地政学リスクの収束、AIの高成長という都合のよいシナリオを全部織り込んでいる。前提がわずかに崩れた瞬間、それを吸収する余白がないため急落につながりやすい。失敗が一切許されない、張り詰めた状態にあるわけだ。

ただし悲観一色でもない。1990年代のドットコム企業の多くが赤字だったのに対し、エヌビディアやマイクロソフトは巨額の利益を生む実体のある企業だ。将来の利益成長まで織り込めば、プレミアムはなお5パーセント前後あるとの試算もある。見方が割れているのはこのためである。

日本人として何を注視すべきか

第一に、時代の転換を意識したい。長らく「株しか選択肢がない(TINA)」と言われてきたが、いまは「国債という妥当な選択肢がある(TARA)」時代へ変わった。4.5パーセントを超える利回りが安全資産から得られるなら、高値の株に全力を張る理由は薄れる。株式と債券の分散が、改めて意味を持つ局面だ。


第二に、米国の金利と中東情勢は日本の家計に直結する。原油高と日米の金利差は、円安や輸入物価を通じて生活コストに跳ね返る。日銀も緩和縮小へ動き始め、世界的な金利「正常化」の流れの中に私たちはいる。

第三に、AIへの一極集中だ。米国株高の中身は一握りの巨大企業に偏っている。新NISAで米国株インデックスを持つ人も増えたが、それは実質的にAI数銘柄への集中投資に近い。自分の資産の値動きが何で決まっているのかは、知っておきたい。

消えかけたリスクプレミアムは、売りの号砲ではない。むしろ「いまの市場に失敗を許す余裕はない」という警告灯と読むのが妥当だ。過熱に煽られて高レバレッジへ走るより、債券を含めた分散で備える。地味だが、張り詰めた相場でこそ効く構えである。

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