テクニクスを海外のブランドだと思っている人や、パナソニックのブランドだと知らない人が少なくない。発表に先立って開かれた新製品説明会で、パナソニックの担当者はそう明かした。60年以上の歴史を持つ国産オーディオブランドとしては、意外な現状だ。
そのテクニクスが、ワイヤレスヘッドホンの新たなフラッグシップ「EAH-A1000」を11月19日に発売する。イヤホンで培ってきた「磁性流体ドライバー」を、初めてヘッドホンに載せたモデルだ。価格はオープンで、市場想定価格は税込6万円前後となる。

若者の部屋とクラブにあった名前
テクニクスは1965年、松下電器産業(現パナソニック)のオーディオブランドとして誕生した。1981年には、ヘッドホンで音楽を聴く薬師丸ひろ子が涙をこぼすCMが話題を呼んでいる。ステレオが若者の部屋の主役だった時代だ。
90年代に入ると、その名はクラブで目にするものになった。ターンテーブル「SL-1200」シリーズがDJ機材の定番となり、国内外のクラブのDJブースに並んだ。
テクニクスは長らく日本の若者たちの心を震わせるアイコニックなブランドだったのだ。
潮目が変わったのは、音楽のデジタル化とブランド統一が進んだ時期である。2008年に社名とブランドをパナソニックへ一本化した同社は、2010年にSL-1200の生産を終え、テクニクスの名はいったん途絶えた。
復活したのは2014年。発表の舞台はドイツ・ベルリンの見本市で、最初の新製品を欧州で発売、大きな反響と共に迎えられた。製品にはパナソニックのロゴを入れず、テクニクスの名だけで展開している。国内で新製品が店頭に並んだのは、翌2015年のことだった。それから約10年――。
「知らなかった人たち」が買ったイヤホン
転機となったのは完全ワイヤレスイヤホンだ。2025年に発売した「EAH-AZ100」について、商品マーケティング課の古庄直幸課長は、購入者層の広がりを説明した。テクニクスの名をよく知る50〜60代に加え、20〜40代からもまんべんなく支持を集めたという。
「その若い層は、テクニクスを今まで知らなかった人たち」であり、それでも、音を気に入ったという声はどの世代にも共通していた。古庄課長は「今までの筋を通したまま、新たなファンを新たなデバイスで獲得できている」と手応えを語る。

A1000が受け継いだもの
テクニクスが掲げるのは、低音を強調するような味付けをせず、アーティストが奏でた音をありのまま届ける音づくりだ。その中心にあるのが磁性流体ドライバーである。磁石に引き寄せられる液体状の素材をドライバーに使うことで、振動板の余計なブレを抑え、音の歪みを減らす。2019年の有線イヤホン「EAH-TZ700」、AZ100に続き、今回はヘッドホン用に口径40mmまで大型化した。

大型化は一筋縄ではいかなかった。ハード設計部の武田理玖氏によると、イヤホンで実績のある磁性流体をそのまま使っても「目指す音には到達していませんでした」。口径が大きくなると、必要な流体の量も、流体が振動に与える影響も増える。そのため、ヘッドホン向けに材料と構造の最適化をやり直したという。完成した音について、武田氏は「私がこれまで聞いてきたワイヤレスヘッドホンとは明らかに違う音だと感じました」と振り返る。

デザインにも、イヤホンで出会った層を意識した工夫がある。ハウジングには、AZ100と共通の同心円状の細かな溝を刻んだ「サーキュラー加工」を施した。デザイン担当の工藤帆夏氏は、手に取った瞬間や身につけた瞬間にテクニクスだと感じられるデザインを目指したと話す。新色のプラチナグレージュは、従来の冷たい印象のシルバーに少し温かみを加えた色だ。AZ100で広がったユーザー層に向けて、性別を問わない色として開発した。カラーはこのほかにブラックを用意する。

機能面では、周囲の騒音と装着状態に合わせて効き方を自動で調整するノイズキャンセリングを備える。同社はこれを業界最高クラス(同社調べ)としている。連続再生は最大45時間で、3台マルチポイント接続にも対応した。着信に応答すれば、切り替え操作なしで自動的に切り替わる。

2026年10月10日から12月20日まで、ハイレゾ音源配信サービスQobuzの音源でA1000を試聴できる体験会を全国で開催する。


