GNオーディオジャパンは9月9日、Jabraブランドのプロフェッショナル向けヘッドセット「Evolve3」シリーズに「Evolve3 65 Flex」「Evolve3 65」「Evolve3 45」の3機種を追加し、同月中に販売を始めると発表した。3月に発売した上位機「Evolve3 85」「Evolve3 75」に続く第2弾で、ミドルレンジからエントリーまでを埋める。3機種ともワイヤレスで、公式サイトの税抜価格は65 Flexが5万1100円、65が4万400円、45が2万6600円(65と45は片耳モデル、いずれも充電台なし)。
働き方ごとに設計を分けた3機種
65 Flexはオフィス、自宅、外出先を行き来するハイブリッドワーカー向けだ。上位機と同じくマイクのブームアームを持たず、折りたたんで付属のケースに収まる。重さは143g。6基のマイクで声を拾い、周囲の騒音に応じて効き方を変えるアダプティブANC(アクティブノイズキャンセリング)と風切り音への対策を備える。連続通話は最長16時間、音楽再生は最長80時間で、ワイヤレス充電にも対応する。
65はオープンオフィス向けのブームアーム付きモデルだ。通話用の3マイクに加えてANC用に4マイクを搭載し、アダプティブANCが装着状態や騒音に合わせてノイズ低減を自動調整する。ブームは左右どちらの耳にも付け替えられ、跳ね上げるとミュート、下ろすと解除になる。連続通話は最長31時間、音楽再生は最長59時間。両耳と片耳の2タイプがある。
45はデスクワーク向けのエントリー機で、シリーズ最軽量の約100g。通話用に3マイクを備え、65と同じ跳ね上げ式のブームアームを採用した。ANCはオンとオフの切り替えのみとなる。連続通話は最長21時間、音楽再生は最長36時間で、こちらも両耳と片耳を用意。
3機種に共通するのは、話者の声を分離する「Jabra ClearVoice」、通話中も働くANC、Bluetooth Low Energy(BLE)接続、管理ツール「Jabra Plus」への対応だ。付属のUSBアダプターでPCとスマートフォンに同時接続でき、バッテリーとイヤークッションは交換できる。
ブームアームなしで距離を埋めるAI
ブームアームは、マイクを口に近づけて周囲の音との差をつけるためにある。それを外した65 Flexで同じことができる理由を、エンタープライズ営業部部長の藤由龍矢氏は学習の仕方の違いだと説明。従来は話し始めた本人の声をその場で学習して識別していた。65 Flexではそれに加え、人間の会話の音素をあらかじめ学習させたディープニューラルネットワーク(DNN)を載せた。「距離を伸ばすと、周りの音も拾わないんだけど、本人の声も消えちゃう」という課題を、この事前学習で乗り越えたという。
集音精度の数字も変わった。Evolve2は「計算すると94%が一番高い率だった」が、Evolve3はオフィスで99%、屋外を含むあらゆる環境で95%以上をうたう。風にも強く、藤由氏は「オフィスにある扇風機で実験したんですけど、大丈夫でした」と語った。
会場では銀座の路上で撮影したデモ映像が流れた。ノートPC内蔵マイク、一般的なイヤホン、65 Flexの順に切り替えると、車や通行人の音が最後には消え、話者の声だけが残った。AIによる文字起こしの比較でも、コンシューマー向けイヤホンはノートPCのマイクより結果が悪かったという。藤由氏はこれを「声を正確に届けるために設計していないということ」と評し、音声でAIを使う時代にはマイクの設計が結果を左右すると強調した。
ブームアームをなくした背景には、ある顧客からの「いつまでたってもJabraの社員以外、Jabraのヘッドセットを着けて街を歩いていないけど大丈夫?」という言葉があった。ブームがないとミュート状態が見た目で分かりにくくなるが、ワンプッシュのボタンで対応し、「デザインとのトレードオフ」と割り切ったという。
エントリー機までANC、ドングルなしの接続も
スピーカー側の進化はANCの裾野の広がりだ。今回発売したワイヤレスモデルには、ANCを持たない機種が1つもない。上位機ではサイドトーン(自分の声を耳に返す機能)の音量調整など細かな設定ができ、65 Flexと65は騒音の強弱に合わせて自動で効きを変える。45はオンとオフの2択にとどまるが、藤由氏は「ないよりはいい」として、価格との兼ね合いで選べるようにしたと話す。
接続面ではBLEに対応した。音楽用ヘッドホンでは一般的な方式だが、藤由氏によれば「ビジネス用ヘッドセットでこれでつないでいるものはない。うちが初めて」だという。付属のドングルを使わずにPC内蔵のBluetoothでも接続でき、LC3コーデックで音質も上がった。管理面では、クラウドで端末を一括管理するJabra Plusを無料で提供し、ファームウェア更新で機能を増やしていく方針だ。
聴覚保護の機能も全機種が備える。突発的な大きな音や常時発生する騒音を抑える仕組みで、藤由氏はコールセンターでJabraが使われ続けてきた最大の理由だと説明した。
本命は65、野村證券が9000台
藤由氏は3機種の売れ筋も予想した。企業が従業員向けに買うなら最も出るのは65とみる。Evolve2でもワイヤレスの最多は65だったからだ。45は2014年発売の「Evolve 65」の置き換えで、価格はほぼ変わらないまま「廉価版でも十分」と言える性能になった。全社員に配れる価格帯になったとして、会社としての購入を呼びかけた。
発売前には33社35人が65 Flexを試し、97%が満足、94%が継続利用を希望した。骨伝導イヤホンから乗り換えて周囲の音を指摘されなくなった、という声もあった。
導入企業として登壇したのは野村證券だ。ITインフラストラクチャー部オフィス基盤課長の佐藤悠吾氏によると、大手町から日本橋の新本社へ移る社員向けに65を約9000台一括で調達し、今年末から約1年かけて配る。片耳と両耳を半々で用意し、社員が選べるようにする。
決め手はマイク性能だった。新本社は1人当たりのスペースがやや限られ、自席からWeb会議に出る場面が増える。顧客から「隣の声が入っている」と指摘されることもあるといい、発売前に型番のない試作機を多数借りて部署に配り、試したうえで決めた。ワイヤレスを標準品にするのは同社で初めてで、サポートの負担を懸念したが、有線ケーブルでも使える点で「何とかなる」と判断した。
ヘッドセット単体で見れば高いという声は社内にもある。それでも佐藤氏は、1台200万円ほどのフォンブースやガラス張りの会議室と比べれば「全然安い」と話す。標準品を1機種に絞るのは、複数あると利用者もサポート側も混乱するからだ。社内で音声の相談を受けたときはJabra製品を渡して試してもらい、「両方使ってみてダメだったら、これより世の中にいいものはないので諦めてくれと」言えることが、選び続ける理由だという。