「孫の声」はAIで作れる。ただし日本の詐欺1,423億円の主犯は、まだAIではない──数字で見るAI詐欺の現在地

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日本の特殊詐欺は2025年に過去最悪の1,423億円。米FBIは初めてAIの節を報告書に立てた。ただしAI関連の被害は全体の5%に満たない。

孫の声で電話がかかってくる。事故を起こした、示談金がいる、親には言わないでほしい。

その声が本物かどうかを、耳で判断するのはもう難しい。SNSに上げた動画、留守番電話の応答メッセージ。素材はどこにでもある。技術としては、すでにできる。

では、実際にどれくらい起きているのか。ここを数字で確かめておきたい。煽るためではなく、どこを警戒すべきかを間違えないためである。

日本の被害は、過去最悪になった

警察庁が2026年6月3日に公表した2025年の確定値は、かなり厳しい内容だった。

特殊詐欺の認知件数は27,832件。前年比32.3%増。被害額は1,423億1,000万円で、前年比98.0%増である。件数も金額も過去最悪となった。

被害額が1年で2倍になった、ということだ。

1日あたりに直すと約3億9,000万円。1件あたりの平均被害額は523万6,000円で、前年より173万円以上増えている。1件が重くなっている。

65歳以上の被害は14,273件で全体の51.3%。金額では842億円で、被害総額の59.2%を占めた。やはり高齢者に集中している。


ただし、増やしたのはAIではない

ここからが本題である。

手口別の内訳を見ると、増加を牽引したのは別のものだった。警察官などをかたる、いわゆるニセ警察詐欺だ。認知件数11,014件で前年比約2倍、被害額は約1,005億円にのぼる。特殊詐欺の被害額1,423億円のうち、7割がこの一手口である。

架空料金請求詐欺が5,706件、還付金詐欺が3,179件と続く。

そして興味深いのは、ニセ警察詐欺の年齢分布だ。認知件数が最も多いのは30代で2,239件。次が20代の1,718件である。高齢者を狙う詐欺という先入観からは外れる。ただし被害額が最も大きいのは70歳以上で、約274億円。若い世代は数で、高齢者は金額で被害を受けている。

別枠で集計されているSNS型投資・ロマンス詐欺も大きい。15,168件で前年比48.2%増、被害額は1,834億3,000万円。こちらは特殊詐欺全体より金額が大きい。

いずれの数字を見ても、「AIの音声クローンによって被害が倍増した」という説明は出てこない。急増の主犯は、警察官を名乗って口座を操作させる手口である。

米国では、FBIが初めてAIの節を立てた

では、AIはどこに現れているのか。米国の統計に手がかりがある。

FBIのIC3が公表した2025年の高齢者詐欺報告によれば、60歳以上の被害者は201,000人を超え、被害額は77億ドル超。2024年から37%増えた。被害者1人あたりの平均は38,000ドルを超えている。

そのなかでAIに言及した苦情は、3,100件超。被害額は3億5,200万ドル超だった。

そしてこの報告は、その歴史で初めてAIに関する独立した節を設けている。報告書の構成が変わったということは、統計を取る側がこれを恒常的な分類として扱い始めたという意味だ。

同報告が具体的に挙げているのは2つ。音声クローンによって祖父母詐欺が耳ではほとんど見抜けなくなったこと。そしてディープフェイク動画が、著名人による偽の投資推薦を可能にしたことである。


AIの被害は、まだ全体の5%に満たない

数字を並べてみる。60歳以上の被害総額は77億ドル。そのうちAIに言及されたのは3億5,200万ドル。割合にすると5%に届かない。

しかも「AIに言及した苦情」というのは、届出をした人がAIに触れたという意味であって、AIが実際に使われたことの証明ではない。過大に見えている可能性もあれば、逆に気づかれずに終わった分が抜けている可能性もある。

現時点で言えるのは、こういうことだ。AIを使った詐欺は確かに存在し、統計に独立した項目ができるところまで来た。だが被害の主戦場は、いまも人間が電話で人間をだます古典的な手口にある。

これは安心材料ではない。優先順位の話である。実家の親に伝えるべきことがあるとすれば、まずは「警察官を名乗る電話には応じない」であり、声の真贋を疑う訓練はその次に来る。

それでも、声だけは別の警戒がいる

とはいえ、音声クローンには他の手口と違う性質がある。

従来の詐欺は、話し方の不自然さや事実関係の矛盾から見抜くことができた。ところが声そのものが本物である場合、その最初の関門が消える。FBIの報告が「耳ではほとんど見抜けない」と表現しているのは、そういうことだ。

素材の入手も難しくない。詐欺師はSNSの投稿、留守番電話の応答メッセージ、動画などから音声を集め、AIに任意の内容を話させることができる。子どもの発表会の動画を公開の設定で上げていれば、それで足りる。

対策として広く共有されているのは、単純なものばかりだ。声で本人確認をしない。かかってきた番号にそのまま応じず、自分が知っている番号にかけ直す。家族のあいだで、他人が知りようのない合言葉を決めておく。金の話が出たら必ず一度切る。

どれも技術の話ではない。声を信じないという習慣の話である。

よくある質問

日本でAIによる詐欺被害はどれくらい起きているのか

日本の統計にAI詐欺という独立した分類はまだない。警察庁が2026年6月3日に公表した2025年の確定値では、特殊詐欺の認知件数は27,832件、被害額は1,423億1,000万円で過去最悪となったが、増加を牽引したのは警察官などをかたるニセ警察詐欺(11,014件・約1,005億円)である。AI音声が被害増の主因だという公的なデータは示されていない。

孫の声を装うAI詐欺は本当にあるのか

米国では統計に現れている。FBIのIC3が公表した2025年の高齢者詐欺報告では、60歳以上からAIに言及した苦情が3,100件超、被害額は3億5,200万ドル超だった。同報告は音声クローンによって祖父母詐欺が耳ではほとんど見抜けなくなったと記している。ただしこれは60歳以上の被害総額77億ドルの5%に満たない規模である。

音声クローン詐欺はどう防げばよいのか

広く共有されている対策は単純なものが多い。声だけで本人確認をしない。かかってきた番号にそのまま応じず、自分が知っている番号にかけ直す。家族のあいだで他人が知りようのない合言葉を決めておく。金銭の話が出たら一度電話を切る。SNSに上げる動画の公開範囲を見直すことも、素材を渡さないという意味で有効である。

いま日本で最も警戒すべき詐欺は何か

数字の上では、警察官などをかたるニセ警察詐欺である。2025年の認知件数は11,014件で前年比約2倍、被害額は約1,005億円と、特殊詐欺の被害額全体の7割を占めた。認知件数が最も多いのは30代(2,239件)で、20代(1,718件)が続く。高齢者だけの問題ではない。被害額では70歳以上が最も大きく、約274億円だった。

まとめ──怖がる順番を間違えない

AIで声を作れることと、AIで詐欺の被害が倍増したことは、別の話である。前者は事実で、後者はまだ数字が支持していない。

2025年に日本で被害を1,423億円まで押し上げたのは、警察官を名乗る電話だった。米国で高齢者から77億ドルを奪った手口の大半も、AIとは無関係である。統計に初めてAIの節ができたのは重要な変化だが、それは主役の交代ではなく、新しい登場人物の登録だ。

だから、実家に電話するときに伝える順番はこうなる。警察や役所を名乗る電話には応じないこと。そして、たとえ声が本人でも、金の話が出たら一度切ること。

2つ目の一文が必要になったという点だけが、今年新しくなったところである。

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