この記事は「撮影現場のハラスメントは「個人のモラル」では防げない──佐藤二朗・橋本愛問題と、日米英コンプライアンスの構造比較」の読みやすいダイジェスト版です。じっくり読みたい方はロング版はこちら。
海外の撮影現場では、「演技だから」「熱意だから」はほとんど通用しません。同意・楽屋・第三者のルールが、法律や組合協定でガチガチに決められているからです。日本との差を、やさしくのぞいてみましょう。
楽屋に勝手に入る、は海外だと「重大アウト」
きっかけは、フジテレビ系ドラマ『夫婦別姓刑事』の撮影で起きたとされるトラブルです。報道によれば、佐藤二朗さんが橋本愛さんの楽屋に名乗らず入り、彼女を号泣させたと伝えられました(佐藤さん側は「ハラスメントに該当する行為はない」と反論しています)。
じつは海外では、俳優さんの楽屋、つまり控室やトレーラーは「絶対に侵してはいけない安全地帯」とされています。鍵の付いた個室を用意するのは雇用主の義務で、同意なく入る行為は、それだけで「安全な職場を壊す重大な違反」とみなされることもあるのです。
密着シーンは「48時間前に書面で合意」
アメリカでは、体が触れ合うシーンは撮影の48時間前までに、どこを見せて、どんな接触をするのかを細かく書いた書類(Rider)にサインをしてもらう決まりです。
しかもすごいのが「継続的同意」という考え方。サインしたあとでも、リハーサル中でも、本番の途中でも、俳優さんは「やっぱりやめます」といつでも言えるのです。だから、台本にない不意のキスや、役作りを口実にしたアドリブの接触は、それだけで契約違反&ハラスメント扱いになります。
「密着シーン専門のプロ」がいる
そこで活躍するのが、インティマシー・コーディネーター(IC)という専門家です。ヌードや性的なシーンで、俳優さんと監督のあいだに立ち、カメラの角度や動きを振り付け、前貼りなどの準備をし、必要なら撮影を止めて同意を確認します。2018年のドラマ『The Deuce』をきっかけに広まり、いまのハリウッドでは当たり前の存在になりました。
とはいえ万能ではありません。フローレンス・ピューさんら一部の俳優からは「演技が窮屈になる」という声もあり、賛否は分かれています。
「演技だった」は海外の裁判でも通用しかけた
じつはアメリカでも、よく似た争いが起きています。映画『It Ends With Us』で、主演のブレイク・ライブリーさんが共演者兼監督を訴えた裁判です。
裁判所は「ロマンチックなシーンの演技中なら、脚本の範囲である程度の即興が許される余地がある」と判断し、直接のセクハラ請求は退けました。「演技指導の延長だった」という言い分は、じつは海外でも線引きが難しいのですね。ただし、抗議したあとにPR会社を使って評判を落とす「報復」は、しっかり法廷で争えることになりました。
日本はこれからどうする?
海外と日本の決定的な違いは、それが「マナー」なのか、「破ればペナルティのある仕組み」なのか、という点にあります。事前の同意、楽屋の不可侵、第三者の常駐、そして報復の厳罰化。これらを本当の制度にできるかどうかが、これからの分かれ道になりそうです。
もし職場でつらい思いをしている人がいたら、どうか一人で抱え込まず、相談窓口や弁護士など専門の窓口に声を上げてくださいね。
よくある質問(FAQ)
「48時間ルール」ってなんですか?
アメリカで、ヌードや密着シーンを撮るとき、撮影の少なくとも48時間前までに、露出する部位や接触の内容を書いた書面(Rider)で俳優の合意を得る決まりのことです。サイン後でも同意はいつでも撤回できます。
インティマシー・コーディネーターとは?
ヌードや性的なシーンで、俳優と監督のあいだに立つ専門家です。動きの振り付けや物理的な保護、同意の確認までを担います。2018年ごろから広まり、いまのハリウッドでは標準になっています。
楽屋に勝手に入るのは、なぜそんなに問題なの?
海外では俳優の楽屋は不可侵の「安全地帯」とされ、プライバシーの確保は雇用主の義務だからです。同意なく入る行為は、安全な職場を提供する義務を壊す重大な違反とみなされることがあります。