通称「ムツゴロウさん」として知られる、ジャーナリストで動物愛好家の畑正憲さん(79歳)。彼には雀鬼であるなど知られざる側面があるのだが、中でもあまり知られていないのが、シェフ・ムツゴロウとしての顔。美食家で料理が上手いだけではなく、今までに誰も作ったことのない料理を編み出してきている。
そんな彼の、料理家&美食家としての側面が伺えるのが、昭和47年(1972年)に出版された『われら動物みな兄弟』(角川文庫)だ。この中では、ムツゴロウさんが学生時代や、会社勤めをしていた頃に、さまざまな動物を料理して食べたことが綴られている(「第三章 四季の海」)。
■“アメーバの刺し身”
「無味、無臭、無害。アメーバをゴマンと食べるも、量感なし」とのこと。調理方法は書いていないので、おそらく生。それにしても、もっともな感想!
■“サナダムシのあぶり”
「カイチュウ(無菌的にふやしたものですぞ)すこぶる美味。開きて、日に炙りたるもの」。いくら衛生的にオッケーでも、まさかの料理。
■“ゴカイの刺し身”
「釣りの餌なり。吾人食するにすこぶる美味。生がよし」ってすごい。ちなみに「イソメは不可。中毒の恐れあり」だそうですが、「自らは中毒せず。美味。」とムツゴロウさんの野生の胃袋の証明も。
■“ネズミ”
「イエネズミ、わなにかかりたる時は食すべし、牛肉より美味」この教え、いいね!
■“ヤマネコの刺し身”
「最上なり、刺し身が一番」。猫の刺し身、なんという探究心。
ほかにもハエのフライや、金魚の水槽の緑ににごった水でお茶を入れた話などが載っており、ムツゴロウさんの探究心はとどまることを知らない。ただ、ムツゴロウさんはただのゲテモノ料理人や、愛好家というわけではない。生物学を専攻していたムツゴロウさんは、動物実験に心をいためた結果。
「実験をすればするほど、動物を殺さなければならない。死体をほうり出すのは、なにかと不都合が起こってくる。材料を食べてしまえば、動物たちにしても、高貴な人間の血や肉になれて、満足することであろう。一念発起、供養のためにはじめたことなのである」(155頁)
からかいとかじゃなくて、あらゆる形から命を愛してみる、そんなムツゴロウさんのスタンスはやっぱりすてきなのだ!
文/関本尚子