『週刊少年チャンピオン』2月9日号(秋田書店)よりはじまった青春フリースタイル・ラップ・ギャグ漫画『サウエとラップ〜自由系〜』(漫画・陸井栄史、監修・サイプレス上野)が大きな話題になっている。今までになかったジャンルの内容とギャグが、ウケにウケているのだ。
フリースタイルラップとは
TV番組『高校生ラップ選手権』『フリースタイルダンジョン』などにはじまり、10代の若者たちを中心にブームを巻き起こしているフリースタイル・ラップ。音楽のヒップホップカルチャーから生まれた「遊び」の一つで、曲にあわせて即興で自由にラップするというもの。最近では多くの中学や高校などでも、学生たちがフリースタイルしている姿が見られるほど。
ブームが漫画業界にも飛び火
アーティストごとに異なる世界観と言葉を即興で披露しあう姿には、若者だけではなく大人たちも熱狂。そういったブームを背景に、エンターテイメント業界各社でも、フリースタイル・ラップを扱った作品やメディアを作れという大号令がかかっていた。
K社ではラブコメ、S誌では魔法もの、グラビアに強いY誌ではアイドルもの、などのトンデモ企画が飛び出してはボツになったという噂も(某誌ではある超大物バトルもの作家による話が進んだが、大物氏がフリースタイルをスポーツ作品だと勘違いしていて頓挫したという怪情報まで)。
そんな各社膠着状態のなかで、飛び出したのが今回の「サウエとラップ〜自由系〜」だったのだ。
「高橋ヒロシ先生作品などで知られる秋田書店は、てっきり不良群像ものでくると思っていたのですが。まさかギャグ漫画とは…。たしかに『週刊少年チャンピオン』は板垣恵介先生の『グラップラー刃牙』のイメージが強いのですが、ギャグ漫画は少年誌ではピカイチなんです。今回のかなりのクオリティになると思いますね」(神保町系漫画誌編集者)
漫画家は“第二の久米田康治”
実際「週刊少年チャンピオン」は古くは『がきデカ』『ふたりと5人』や、長期連載『浦安鉄筋家族』シリーズ、最近でも『イカ娘』『みつどもえ』『吸血鬼すぐ死ぬ』『サナギさん』『木曜日のフルット』などの名作を世に送り出してきた、ギャグ漫画の名門誌。そして今回、漫画を担当する陸井栄史は怪作品「いきいきごんぼ(Z)」で知られる、実力派のギャグ漫画家だ。
ハードなシモネタが得意で、女性キャラが地味に可愛い、帯の著者近影ではほぼ全裸やオムツ姿で毎回登場することなどから“第二の久米田康治”と呼ばれるほど。(註 『かってに改蔵』や『さよなら絶望先生』で知られる久米田先生は、『行け!南国アイスホッケー部』時代の著者近影に、やけに裸が多かった)。
実力派ながら最近は作品をリリースしていなかっただけに、多くのファンが「復ッ活ッ!」「陸井復活ッッ! 陸井復活ッッ!」と喜びの声をあげている。
監修は実力派人気ラッパー
そしてフリースタイル・ラップの監修を担当するのは『サイプレス上野とロベルト吉野」のマイクロフォン担当、サイプレス上野。ラッパーとしての実力はもとより、フリースタイルの腕前も天下一品だ。また『とんかつDJ あげ太郎』での声優、アイドル東京女子流メンバーとのコラボレーション、TBSラジオ等でのDJなどなど、自由かつ多彩な才能で知られている。
「ラッパーはどうしても正統派の格好良さがあるじゃないですか。ですから、ちょっとくだけた感じもこなせるアーティストを探すのが難しかったんですよ。サイプレス上野さんなら、実力も人気もあるし面白い企画にものってくれるから、これはやられました…。うちでも岩谷テンホー先生か、みやすのんき先生とのコラボでも打診したいですね…」(九段下系漫画編集者)
名作か怪作か?
これまで、ラップやフリースタイルは漫画の中でも「チェケラッチョ」的な“ネタ”として扱われ、もしくはこの文化に明るくない作者による適当な言葉で描かれきた。しかし、本作は実力あるラッパーが監修を行い、ギャグではありながら“ネタ”ではなく描かれていることとから、音楽業界関係者からも「はじめての本格派」だと絶賛されている。また
「ヒップホップやフリースタイル・ラップって『格好いい』とか『クール』みたいな感じで、僕自身とっつきずらかったんですよね。でも、『サウエ』を読んで、こういうギャグとか青春方面とかに振るのもありなんだなって。ヒップホップって、もっと自由で深いんだなって、色々聴いてみようって思いましたね」(『ダンジョン』を観て以来ちょっとヒップホップを聴くようになったエンタメ誌編集者)
という、フリースタイル・ラップへの偏見をよりフリーにしてくれるという評価も。マンガ業界などでも熱い注目が集まる本作品、今後の展開にも注目だ! フリースタイル部分にはかぎらず、陸井先生のギャグもあいかわらずの冴え(『いきいきごんぼ』での名パンチライン「うらめしYA」を超えるものが期待されている)。
動画との連動企画もあり、第1回ゲストにはR-指定(Creepy Nuts)、2回にはCOMA-CHIが参戦。ロベルト吉野については連載第一回目を読んでみよう!
文/高野景子