音声AI採用ソフトのRibbonが扱う面接の24%は、午後10時から午前2時のあいだに行われている。相手が人間ではないからだ。
夜9時半、居間を片付けて録画面接が始まった
米ジョージア州アトランタに住むTim Millardが広報職の面接についてのメールを受け取ったのは、2026年1月のことだった。求職を始めて半年が経っていた。人間と話すものだと思っていた。指示されたのは、カメラに向かって質問に答える自分の姿を録画することだった。
またか、と思った。それでも彼は応じた。「この仕事の選考に残りたいなら、やるしかないと思った」
メールには面接の時刻が書かれていなかった。いつ受けてもいい。だからその日の夜、Millardは居間を片付け、ノートパソコンを立ち上げた。「夜の9時半に、ほかに何をしろっていうんだ」
質問はその職種として標準的なものだった。メディアにどう企画を売り込むか。地元の記者とどう関係を築くか。画面に質問が表示されると、考える時間はおよそ30秒。「30秒が過ぎると、チン! さあ2分で答えを録画してください、と。この世のものとは思えなかった」
3月、不採用の連絡が来た。自動送信だった。
深夜に面接を受けているのは誰か
Millardが踏み込んだのは、いま求職の現場で起きている変化の入口である。音声AIの採用ソフトを手がけるRibbonの共同創業者Arsham Ghahramaniによれば、同社が扱うAI面接の24%が現地時間の午後10時から午前2時に行われている。Ribbonを使う500社超のデータにもとづく数字だ。製造業の顧客に限れば、その比率は35%に上がる。
工場と厨房である。
Ghahramaniの説明はこうだ。子どものいる親の多くは、夜10時を過ぎるまで30分をひねり出せない。時給で働く人も、騒がしい工場や厨房で今の仕事に縛られている人も同じだ。「いつ面接を受けられるか、どうやって受けられるか、その選択肢がとても限られている人たちがいる」。この現象はRibbonだけのものではない。採用プラットフォームのGreenhouseでも、音声エージェントが面接した応募者のおよそ15%から20%が夜間に予約を入れている。
つまり深夜の面接は、これまで面接にたどり着けなかった人が、はじめて土俵に上がった記録でもある。Ghahramaniはそこを強調する。「人間を取り除く技術だと最初は見える。応募者にとって不利になりそうに見える。ところが実際には、逆のほうに転ぶんだ」「これまで面接を受けることすらできなかった応募者が、いま面接を受けられている。これは大きなアクセシビリティだ」
採用の現場にいる人たちも同じ方向を見ている。ベテランのリクルーターでHRUTech.comのCEOを務めるTim Sackettは、この仕組みが包括的な採用にとって「史上最高の出来事」になりうると言う。「史上はじめて、応募者の100%が面接を受けて、その仕事に対する自分の価値を示せるようになっている」。HR Technology Conference共同議長のSteve Boeseは、24時間365日いつでも受けられるなら「必要から、あるいは自分の選択で午前1時や2時に面接を受ける応募者にとって、障壁はひとつ取り除かれたことになる」と述べる。Boeseは後戻りもないと見ている。「多くの人が電話での一次面接や対面の面接、個別のフィードバックといった『昔のやり方』を懐かしんでいる。だが、あの規模には二度と戻らない」
それでも38%が、AIに面接されるくらいならと降りている
ところが応募者の側から見た景色は、これとかなり違う。
Greenhouseが2026年5月に発表した調査では、求職者の3分の2近くがすでにAIエージェントによる面接を受けていた。半年で13ポイントの上昇である。同じ調査で、米国の応募者の38%が「AIに面接されるくらいなら」と選考を途中で降りた経験があると答えた。さらに12%が、AI面接が必須なら降りると答えている。
このデメリットの中身は、便利さの裏返しというより、見えなさの問題だ。録画した映像がどう使われるのか、応募者には説明されない。特定の言葉を言わなかったというだけで落とされることがあるのかどうかも分からない。同じ調査では36%が「AIによる面接でも人間による面接でも、年齢によって評価が違うと感じた」と答え、27%が人種や民族について同じことを感じたと答えている。面接官を機械に替えても、この感覚は消えていない。
採点は職種ごとの評価表に沿って行われる。Ribbonの面接なら、溶接工には特定の技能や資格が問われ、営業職には「熱意」の点数が含まれることがある。AIが映像を解析して評価表への合致度を採点し、その点数が映像とともに採用担当者へ渡る。ただし現実には、多くの面接は人間に見られないまま終わる。
誰も見ていない。夜10時に居間を片付けて、「熱意」を採点されるために2分間しゃべった映像を、である。
この仕組みを売っている側も、そこは分かっている。Greenhouseの音声AI部門を率いるOphir Samsonは、人工知能が人間の面接を置き換えるべきだとは考えていないと明言する。彼が説明するのは「履歴書の付け足し」としての役割だ。大量の応募に埋もれて見つからなかったはずの高評価の応募者を、拾い上げる道具。人間かロボットかの選択ではなく、音信不通にされるか、次の面接で人間と話せる可能性が上がるかの選択なのだと。そのうえでSamsonはこう言う。「応募者でいるのが最悪な時代だ。履歴書はブラックホールに吸い込まれていく。何千人もの応募者と競争していて、その全員がAIに履歴書を書かせている。だから、いい応募者が目立てない」
日本の求職者は、まだそこまで怒っていない
深夜の面接が解こうとしている問題は、日本にも同じ形で存在する。レバレジーズが2026年6月に直近3年以内の転職活動経験者515人に聞いた調査では、約3割が「面接の日程が合わずにその企業の選考を辞退した経験がある」と答えた。3人に1人が、落ちたのではなく、時間が合わずに諦めている。
ただし日本の反応は米国と対照的だ。一次面接のAI化について「ポジティブ」と答えた人が約3割で、「ネガティブ」の18.2%を上回った。理由として挙がったのは「面接官の態度や相性に左右されず、公平に評価される」という点である。38%が降りた米国とは、同じ技術に対する温度がまるで違う。
企業側はもっと前のめりだ。同社が2026年2月に企業担当者1,625人に聞いた調査では、約9割にあたる86.7%がAI面接の導入に満足していると答えた。導入効果の1位は「従来の書類選考基準であれば不合格にしていた層から、優秀な人材を採用できた」で62.4%。2位が「選考にかかる時間・工数を削減できた」の52.8%、3位が「面接官との相性に左右されない公平な評価ができるようになった」の37.6%だった。1位の回答は、Samsonが語った「埋もれた応募者を拾い上げる道具」という説明とほとんど同じことを言っている。
日米で決定的に違うのは、その先だ。同じ調査で6割を超える企業が、AIのスコアだけで決めずに人間が最終確認する「ハイブリッド判定」を採っていた。高評価と低評価はAIスコアで判断し、迷うボーダーライン層は人間が動画を見て決めるという企業が36.7%。スコアは参考にとどめ、応募者全員の動画を人間が確認するという企業が21.6%ある。
見ているか、見ていないか。深夜1時に録画された2分間の価値は、そこで分かれる。
Millardは職を失って1年が経ったいまも職を探している。この経験があまりにこたえたため、彼は一人芝居を書いた。題は『After Careful Consideration』、慎重に検討した結果、という意味だ。不採用通知の定型句である。2026年5月、アトランタ・フリンジ・フェスティバルで初演された。
「いまの就職市場では、叫ぶとしても虚空に向かって叫ぶようなものだ。誰にも聞こえていない」
AI面接のデメリットは何ですか
録画した映像がどう使われるか説明されず、何を評価されているのかが応募者に見えないことが最も大きい。採点は職種ごとの評価表に沿って行われ、営業職なら「熱意」の点数が含まれることもある。しかもAIが採点した映像の多くは、人間に見られないまま終わる。時間の制約がなくなった結果、面接が深夜に行われるようになっている点も、便利さと表裏である。
AI面接では何を評価されているのですか
職種ごとに異なる評価表にもとづいて採点される。溶接工なら特定の技能や資格、営業職なら「熱意」といった項目が含まれることがある。AIが映像を解析して評価表への合致度を点数化し、その点数が映像とともに採用担当者へ渡される仕組みだ。
AI面接を断って選考を続けることはできますか
制度としての可否は調査に示されていないが、実際に降りている人は多い。Greenhouseの2026年5月の調査では、米国の応募者の38%が「AIに面接されるくらいなら」と選考を途中で降りた経験があると答えた。さらに12%が、AI面接が必須なら降りると回答している。