「預金=安全」は過去の話? 50代・60代から始めるインフレ時代の資産防衛術

2025年11月11日、東京都内で50代・60代を対象とした金融セミナー「いまから始める、老後の資産形成」(主催:東京国際金融機構 他)が開催されました。

登壇者は、元サッカー日本代表の前園真聖氏と、なかのアセットマネジメント株式会社代表取締役社長の中野晴啓氏。フリーアナウンサーの青木裕子氏による司会進行のもと、インフレ下における資産防衛策や新NISAの活用法について、白熱した議論が展開。

「預金は最強」時代の終焉と2025年の現実

セミナー冒頭のテーマは「2025年の経済現実」。物価上昇の実感について問われた前園氏は、「スーパーの野菜価格高騰など、実感としては5%以上上がっている感覚がある」と吐露。これに対し中野氏は、公式な消費者物価指数(CPI)は2〜3%程度であるものの、生活実感としての負担増はそれ以上であると指摘しました。

中野氏は、「かつてのデフレ時代、現金は『キング』であり預金こそが正解だった。しかしインフレ前提社会となった現在、預金は実質的な価値が目減りするため『最弱の運用』となり得る」と警鐘を鳴らしました。

「下りエスカレーター」を登るためのNISA活用

日本の経済状況について中野氏は、「エスカレーター」に例えて解説 。高度経済成長期のような「上りエスカレーター」は終わり、現在は横ばい、あるいは「下りエスカレーター」の時代にあると指摘する。何もしなければ生活水準が下がっていく、そんな中、自らの足で階段を登る手段として推奨されたのが「NISA(少額投資非課税制度)」の活用。

投資における重要事項として、同氏は以下の「投資行動三原則」を提示しました。

長期:時間を味方につけ、適正価格への収斂を待つ。

積立:毎月定額投資により、高値掴みを防ぎ購入単価を平準化する。

分散:投資対象を分け、リスクを低減させる。

50代からの資産形成、鍵は「本気度」

「50代からでも間に合うのか」という前園氏の懸念に対し、中野氏は「間に合わないわけがない」と断言。ただし、若年層に比べて残された時間が短い分、「本気度」を引き上げる必要があるとも強調しました。

具体策として、若年層が月1万円から始めるのに対し、ある程度の預貯金がある50代・60代は、月10万円、あるいは新NISAの非課税保有限度額(1800万円)を最短5年で埋めるような積極的な積立も視野に入れるべきだと提言。月5万円を年利7%で20年間運用した場合、元本1200万円が約2600万円になる試算を紹介し、長期投資の効果を訴えました。

投資は「推し活」? 新しいお金の価値観

セミナー後半では「投資の本質」について深掘りが行われ、興味深い内容となりまいた。中野氏は投資を単なるマネーゲームではなく「未来への意思表示」と定義。「良い仕事をしている企業にお金を託し、その成長を応援することは『推し活』と同じであり、社会参加の一形態だ」と説明。

この視点を受け、前園氏も「投資は怖いものだと思っていたが、社会参加や応援と捉えることでポジティブになれる」と意識の変化を語りました。

最大の敵は「人間の心理」

議論の結びとして、投資で最も重要なことは「タイミングを読むこと」や「商品選び」ではなく、「続けること」であると確認され 。中野氏は「悲観は気分であり、楽観は意志である」という哲学者の言葉を引用。市場の変動に一喜一憂せず、明るい未来を信じて淡々と積立を継続する姿勢こそが、資産形成成功の鍵であると締めくくりました。

本セミナーは、単なるテクニック論にとどまらず、「お金を通じた社会参加」という視点を提示した点で非常に示唆に富む内容となった。人生100年時代、50代・60代は守りに入るだけでなく、資産を育てながら活用する新たなフェーズへの転換期と言えそうです。

セミナーでは現在、投資をするうえで重要な金融犯罪についての注意喚起もなされた。
編集部: