ペットは私たちを幸せにするのは嘘だった 常識を覆す研究結果 ただし、あなたの愛情は別問題

「ペットを飼うと生活が豊かになり、幸福感が増す」――これは多くの人が抱く共通のイメージかもしれません。しかし、その「ペット効果」に疑問を投げかける新たな研究結果が発表され、注目を集めています。ただし、この結果は、現在ペットと共に暮らし、深い愛情を注いでいる多くの人々の絆を否定するものでは決してありません。

この研究は、新型コロナウイルス(COVID-19)のパンデミックという、社会全体が極度の孤立を経験した特殊な状況下で行われました。その結果、ペットを新たに飼い始めたり、あるいは亡くしたりしても、人々の幸福度に統計的な変化は見られないことが明らかになりました。

パンデミックが浮き彫りにした、ペットとの意外な関係

「ペットを飼えば、孤独が癒やされ、もっと幸せになれるはず」。こうした期待感は、もはや社会の常識とさえ言えるかもしれません。しかし科学の世界では、ペットが飼い主の生活の質を向上させるという「ペット効果」を明確に証明することは、これまで困難でした。

今回、ハンガリーのエトヴェシュ・ロラーンド大学(ELTE)の研究チームは、パンデミックによるロックダウンが、人間と動物の絆の重要性を検証するためのまたとない機会だと考えました。約3000人を対象とした調査の結果は、私たちの思い込みとは少し異なるものでした。

幸福度は変わらず、孤独感も解消されなかった

調査結果は、私たちが抱くペットとの理想的な関係とは異なるものでした。

長期的な幸福度に変化なし: 犬を飼い始めた直後には一時的に「陽気さ」が向上したものの、長期的に見ると「落ち着き」「生活満足度」などには変化が見られませんでした。

ペットロスによる影響も限定的: 最も驚くべきことに、長年連れ添ったペットを亡くしたことさえも、元飼い主の幸福度に統計的な影響を与えていませんでした。

孤独感は解消されず、むしろ不安に?: 論文の筆頭著者の一人であるユディット・モコス氏は、「新しいペットが回答者の孤独感に何の効果ももたらさなかったことに最も驚きました」と語り、「犬が孤独感に対する万能の解決策になるわけではなく、むしろ新しい飼い主をより不安にさせる可能性」を示唆しました。

専門家の考察と、私たちが受け取るべきメッセージ

研究者は、今回の調査対象が「特にペット好きというわけではない一般の人々」を含んでいた点を指摘します。研究を主導したエニク・クビニ博士は、「熱心な動物愛好家など、特定のグループだけがペットから本当に恩恵を受けるのかもしれません」と述べています。

ここで重要なのは、この研究は、あなたが今共に暮らすペットへの愛情や、築き上げてきた絆の価値を測るものではない、ということです。あくまで、パンデミックという特殊な状況下で、「ペットを飼う」という行為そのものが、万人の幸福度を自動的に引き上げる魔法ではないことを統計的に示したに過ぎません。

むしろ、この研究結果は私たちに大切な教訓を与えてくれます。それは、「寂しいから」「幸せにしてくれそうだから」といった過度な期待だけで、安易にペットを家族に迎えるべきではない、という戒めです。ペットは癒やしを与えてくれる素晴らしい存在ですが、同時に食事や病気のケア、しつけなど、生涯にわたる責任が伴う「命」です。その覚悟なくして、本当の意味での豊かな関係を築くことは難しいのかもしれません。

この研究は、ペットを飼うことの価値を否定するものでは決してなく、その効果が誰にでも当てはまる普遍的なものではないことを示しています。私たちが信じる「ペットとの感動的な絆」とは、安易な期待から生まれるものではなく、日々の献身と深い愛情の中でこそ育まれる、かけがえのない宝物だと言えるでしょう。

出典:
Eötvös Loránd University
学術誌情報:
Mokos, J., et al. (2025). Short-term effects of pet acquisition and loss on well-being in an unbiased sample during the COVID-19 pandemic. Scientific Reports. doi.org/10.1038/s41598-025-06987-7.

編集部: