医療、介護業界を崩壊させる人材採用問題 野放しにされる人材紹介会社の「おとり求人」や高額手数料

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現在深刻な人手不足と資金不足にあえぐ医療、介護業界。全国54%の病院、32%の特別養護老人ホームが赤字経営に陥っている。

2019年秋からは、最低賃金の引上げ、消費増税、診療・介護報酬の改定などでさらに拍車がかかる。さらに2025年には、大きな人口をかかえる団塊世代が75歳以上の後期高齢者となり、社会保障費の増大する一方、生産年齢人口の減少が懸念される「2025年問題」も迫っている。

このままでは社会保障制度、そして医療や介護の現場が破綻しかねない状況だ。そして、この人手も金もたりない状況をさらに悪化させているのが人材採用費の問題。一体どういうことなのか?

医療・介護の人手不足は経営を圧迫する

セカンドラボ株式会社の代表取締役・巻幡和徳氏

問題に詳しい「コメディカルドットコム」を運営するセカンドラボ株式会社の代表取締役・巻幡和徳氏が9月24日にこの崩壊寸前の状況についてカンファレンスを行った。同サイトは医療・介護領域に特化した直接応募型の求人ポータルサイトで、人材紹介会社と比較して1/5〜1/10の低価格な採用費を売りにしている。

セカンドラボ社の調べによれば、2025年に介護職と看護師の必要とされる人数、その需要予測は介護職で244万人、推定34万人が不足すると観られている。看護士は206万人で約13万人が不足するという。現在ですら深刻な人手不足と言われる状況は、25年に向けてさらに悪化するということだ。

この人手不足は、医療と介護の現場の経営圧迫にもつながる。

というのも医療や介護は、厚生労働省より人員配置基準が厳格に定められており、収入のほとんどは公的資金によってまかなわれている。医療というと儲かるイメージもあるが、実際には公共サービスであるため、利益を出しづらい事業モデルなのだ。

利益を出すためには、つねに多くの患者を抱えている状態、病床稼働率が高い状態でなければならない。だが、人員配置基準が定められているため(1人のスタッフに対しては何人の患者まで、といった規定)、働き手が減れば稼働率は当然下がり、収益は下がる。そのため人手が不足すればするほど、経営も圧迫されてしまうのだ。

さらに経営が悪化すれば、職員の待遇も悪くなり、設備投資も低下する、そして医療・介護サービスの品質自体低下していくという負のスパイラルを引き起こす。

この原因となっている人手不足は、これらの業界自体の長時間労働、不規則な勤務などの過酷さ、一方での低賃金といった待遇による問題もある。本来、職員の待遇改善や設備投資に使われるべき費用が採用費として人材紹介会社に流れている。

人材紹介会社が看護士・介護士の年収35%分をとる場合も

人手を確保するために頼らざるをえないのが人材紹介会社だが、その採用費はきわめて高額。正社員採用の場合、看護師は1人あたり80~150万円、介護士は一人あたり70~100万円となっている。これまで看護師や介護士の紹介手数料は、採用者の想定年収の20%が相場だったが、最近では35%という業者まで現れている。深刻な人手不足から、人材紹介会社に足元を見られていると言えるだろう。

また過酷な環境であることに加え、専門職のためスキルを活かして他の施設でも即戦力となれる環境であることもあり、離職率や転職率が高い傾向にある。同じ地域で職員の循環が生まれると、人材の母数は増えないものの、人材紹介会社から紹介を受ければ受けるほど、負担が大きくなってしまう。

医療や看護の現場は社会保障の限られた原資で賄われているため、本来ならサービス向上やスタッフのために使われるべき金が、このように人材紹介会社に奪われている状況なのだ。

セカンドラボ株式会社の巻幡氏によれば、“おとり求人”といった悪質な手口も見られるという。

おとり求人とは、事業者に無断で求人が掲載されていたり、募集が終了しているがその後も掲載されていたりして求職者を集客するためのツールに使われ、応募してきた求職者を自社のクライアントに紹介し、手数料を稼ぐといった悪質なものだ。

職業安定法の第六十五条の八を見てみると、「虚偽の広告をなし、又は虚偽の条件を提示して、職業紹介、労働者の募集若しくは労働者の供給を行った者又はこれらに従事した者」として禁じられているが、野放しになっているのが現状だ。というのも、条文上の虚偽とは騙そうとする意思を持っていることを言うもので、そのような意志がなく事情が変わったと言えば、罰することができないからだ。

実際、セカンドラボのアンケート結果によれば、クライアントの過半数がおとり求人の被害に遭っていることが明らかになっている。同社は今後賛同者を募り、厚生労働省に対し紹介手数料、おとり求人の規制を提言する活動を予定しているという。またクライアントの署名を集めるなど、変革の気運を高めることも行う。

崩壊まで待ったなしの医療と介護の現場、今後一体どうなってしまうのだろうか。