近年、SDGsなど持続可能な社会が注目され、NPOの数は毎年右肩上がりで増加している。しかしながら、NPOの半数以上は収益が1,000万円以下など、資金不足が問題となっているという。そこで寄附や社会的投資など、社会課題を解決する資金調達(ファンドレイジング)において、国内外の最新事例や革新的なソリューションを紹介する、アジア最大のカンファレンスイベント「ファンドレイジング・日本2019」が、2019年9月14日、15日の2日間、駒澤大学駒沢キャンパスで開催された。
国内外の企業、NGOなど各分野のトップや専門家130名が登壇。最新のテクノロジーやノウハウなど、実践的で最新の事例の紹介やサービスの展示・デモが行われた。また「ファンドレイジング」やその調達を行う専門家「ファンドレイザー」への注目もあり、1600人以上もの来場者で賑わい、関心の高まりをうかがわせた。
会期中のプログラムから、9月15日に開かれた「課題解決先進国を目指す日本が世界に示す解決モデル」と題したセッションをレポートする。
NPOの役割は問題の社会化・事業化・制度化
同プログラムに登壇したのは、博報堂DYホールディングスCSRグループ推進担当部長の川廷昌弘氏、NPO法人トイボックス代表理事の白井智子氏、一般財団法人日本民間公益活動連携機構事務局次長の鈴木均氏、一般社団法人RCF代表理事の藤沢烈氏、そして、ファシリテーターとして合同会社喜代七代表の山元圭太氏の5名。日曜の朝にもかかわらず、会場は高校生から年配者まで多くの参加者が集まった。
大阪と福島で不登校、引きこもり、発達障害など、行き場がない子どもの支援を行っている白井氏は、自身の経験から、「社会課題解決は、やり続けることが重要」と語る。
東日本大震災復興、熊本地震、西日本豪雨の復興にも取り組んでいる藤沢氏は、避難者の定義を広めて避難所に来ない人にも手を広げ、災害後に亡くなる方(災害関連死)をゼロに近づけることを目標に、日夜研究をしている。
「NPOの役割には3つある」という藤沢氏は、「まず社会的弱者の定義を一般世論や政府に理解してもらい、社会問題にする『社会化』。次に民間の手を借りて『事業化』。そして、防災の取り組みに関して、国が仕組み化する『制度化』。社会化と事業化は、この10年進んできたが、最後は制度にすることがNPOにとって課題だ」と述べた。
SDGs(持続可能な開発目標)のアイコンの日本語化に携わった川廷氏は、「SDGsは、国連では1972年から続いてきた議論で新しい課題ではなく、コミュニケーションツールだ」と話す。
「自分たちの問題意識を共有し、いろんな人と共同することで新しいステップに進めるかもしれない。一緒に取り組んでいけるよう共有してもらう努力をしている」と、企業、NPO、自治体を繋げる共通言語としてのSDGsの可能性について示唆した。
「きれいごと」を実現する社会を作る
鈴木氏は、今年から始まった休眠預金制度でNPOなど社会起業家に資金分配をする司令塔・日本民間公益活動連携機構(JANPIA)に勤務。「休眠預金制度をフルに活躍して社会課題を解決し、持続可能な社会づくりに貢献したい」という鈴木氏は、「子供若者支援、社会的困難をかかえる人、社会的困難を抱える地域という3つの課題を設定している。社会課題に直面し、イノベーティブな方法で解決していく若者が出てくることが、未来につながっていくと思う」と述べ、若い世代への期待を込めた。
川廷氏によると、SDGsを中核とする国連の採択文書に書かれた言葉「transforming our world」は、「改善」ではなく「変革(transforming)」。「SDGsに書かれていることは全部きれいごとだが、これからはきれいごとを揶揄するのではなく、実際にやっていくことが大事だ。次世代への責任として、「きれいごと」で勝負できる社会を作る」と強調。企業のトップも責任感や意識と持ち始めていることを語った。
白井氏も、「戦争・貧困・差別がない社会を残していく方法を考えながら活動を続けていると、法律が変わり、システムができて、いつの間にか社会が変わっていくという実感があった。皆さんと連携して綺麗事を実現する社会を作りたい」と、共感を示す。
民間とソーシャルセクターの協力は益々必要
さらに鈴木氏は「グローバルな視点、海外でいろんな経験を積んで、その上で日本の課題解決を」と訴える。
「日本だけにいると多様性という視点がなくなる可能性がある。世界にはいろんな人がいることが必要だ。みんなが楽しく過ごせる社会を作っていくことが大事。年代を超えてコラボレーションすることで実現することができる。実は若い世代の発言から大人たちが学ぶことは多い」
藤沢氏は、NPOに入った方が大手企業、政治の世界とつながることができたといい、社会からの期待は大きいと感じている。「行政・政治は、営利企業の人と接するのは難しい。公益のために仕事をしているNPOという存在は重要だ。社会に対して発信し、仲間を広げていかないといけない」と話す。
最後にファシリテーターの山元氏は、「課題解決先進国を目指して、“アクティブホープ”=絶望的な中でも希望を持って進む、という言葉からスタートして、一歩ずつ進んでいく人が一人でも増えることが、社会の力になる。自分たちがこのフレーズに何をつなげていけるかを考えてほしい」と訴えて会を締めた。
今回のプログラムから、社会課題の解決に向けて、民間とソーシャルセクターの垣根を越えた協力やアプローチの必要性はますます高まっていくことがうかがえた。その上で重要な資金調達をする「ファンドレイザー」という仕事は、今後さらに活躍が期待される職業となりそうだ。
取材・執筆 あわいこゆき