一昨年末まで都内の小さな出版社で編集者として勤務していましたが、37歳の誕生日の翌日から会社に行くことができなくなりました。潰れた、首になったとか、そういうんじゃなくて、気持ちの問題。
会社に行こうと思うと、布団の中から一歩も動けない。「そういえば今日14時からライターさんと打ち合わせが」と頭の中にはあるんですが、布団を頭までかぶって冷や汗を流しながら、一歩も動けない。まだ時代が若干良かったので、上司は休職をすすめてくれたのですが、退職しました。67歳の母と二人暮らし、今はニートをしています。
会社をやめて3ヶ月ぐらいして仕事をはじめようと思い、別の出版社も決まったんですが、出勤初日にまた同じ状態に。会社に行くことが出来ませんでした。以来ずっと家で過ごしている。編集者時代に知り合ったもぐもぐのスタッフ氏からすすめられて、ニートの僕が何を食べているのか、それを社会復帰の第一歩として書いて行くつもりです。
母が食事は用意してくれているんですが、年寄りが作ったものなので淡白だし量が少なく物足りない。母が外出したすきに、顔を合わせづらいので、ささっと冷蔵庫にあるものをカスタマイズして食べています。
昨日は緑のたぬきをつけそばにして食べました。母が緑のたぬきが好きで買いだめしているのですが、僕は食べ飽きた。ニートなりのちょっとした金のかからない工夫です。お湯を注いで三分間たってから、湯切りして水で洗って。麺は小皿に盛り、カップに少なめにお湯をはって濃い目のスープを作りました。かき揚げ(?)をスープに浸しながら食べる。
味は、まったく美味くない。だが、いつもと違った新鮮な何かがありました。緑のたぬきのチープな味わいが、さらにチープに見える。油っこいかき揚げ、ぼそぼその麺、塩っ辛いスープ。わびしい気持ちになる。昔家で飼っていた老犬のヨークシャーテリアを洗うと、ただでさえよぼよぼしていたのに、毛がべっとりとなってさらに貧相に見えた。あんな感じ。それでも愛くるしく思えた。「素」が見えるのは悪いことじゃないのかな、とも。
ただ僕自身に出た「素」はまさかのニートで、愛くるしくもなんでもなく残念です。でもつけそば緑のたぬきはおすすめ、美味しくないけど。
文/高島大悟
※「ニートの食卓」は不定期連載コラムです。