『シベリア』という羊羹をカステラではさんだ、懐かしいお菓子が流行している。宮崎駿の最新映画にして長編引退作となってしまった『風立ちぬ』に登場したことで注目を集めたためだ。
「ある食べ物をタイアップで劇中に登場させる、というのはみなさんご存知の通りよくあることです。ただ最近は作品そのものの評価を落とすとして嫌がる監督も多い。それに視聴者も敏感になってきているので、売れるどころかバッシングの対象にすらなることもある。宮崎監督が『シベリア』を劇中に出したのは、おそらくヒットさせたいなどという「不純な」動機ではなかったでしょうから、わざとらしさがない。ヒットしたのはそのためでしょうね」(コピーライター)
『シベリア』を扱う店からすれば棚ボタのヒットというわけだが、露骨なタイアップの効果が薄れ気味の今、今回のような自然な形での「便乗ヒット」を狙う作戦が巧妙化しつつある。
「最近は景気も上向き気味でも、まだまだ広告費は渋りがち。少ない予算で大ヒットを狙うために、制作現場で自社の食べ物を、自然な形でヒットさせるための「工作」が行われています」(食品業界に詳しいライター)
正式にタイアップを申し込むと予算もバカにならないし、劇中に出すにしてもわざとらしさがどうしても出てしまう。そこで、監督などの責任ある立場の人が、あくまで「自発的に」自社の食べ物を気に入るための「工作」を仕掛けているというのだ。
「ただ、当然そういう働きかけも昔からある。突然のお中元とか差し入れとかですよね。監督も慣れっこなのですぐに気づきます、なのでダイレクトに権力のある人のところには持っていかない。そこで狙われるのが、末端のADやアニメーターというわけです」(同)
末端のアニメーターが、「好物なんですよー」なんて言いつつ、差し入れと称して他のスタッフに配ったり、ADが弁当にさりげなく添えたり。いつしかファンが増え、次第に上の方まで流行が波及。最終的に作品の内容に大きく関わる人にまで広がっていけば、作品に登場させる可能性も出てくるというわけだ。しかもその取り上げられ方はあくまで自然で、仕掛けられたものとはなかなか気づかれにくい。
「彼らは収入が少ないので、報酬も安くすむ。100円ぐらいの菓子を1年分なんて謝礼でも協力してくれたりしますよ。トータルで数万円なのに(苦笑)」(同)
しかしこの『わらしべ長者』のようなまどろっこしいヒット大作戦で、本当に便乗ブレイクなど望めるのだろうか?
「例えば、これは映画ではないですが、体操の内村航平が好物と公言してブレイクした『ブラックサンダー』なんて、このおかげで工場が建った。要はあの出来事を意図的に起こそう、というわけです。工場一つ増やせるぐらいなので、数年先のたった一言に賭ける草の根活動もバカにはできませんよ」(同)
数年後には「偶然のヒット」が頻発するかもしれない。
(文/林田卓夫)