Tinderの内側がAIで作り替えられている。新規コードの9割超はAIが書き、新機能は許可を得てカメラロールを読む。
1 作っている側が、すでに別物になっている
TinderのCTOヴィナイ・クルヴィラは、同社のエンジニアリングとAI、製品開発を統括し、親会社Match Groupの中央AIチームも率いている。Amazon、Venmo、Brightwheelを経た20年の経歴を持つ人物だ。
その口から出てきた数字が生々しい。
Tinderで書かれる新しいコードの9割以上が、いまAIによって生成されている。人間のエンジニアは書く側ではなく、出てきたものを検証する側に回った。AIが生成したコードの提出は、必ず2人のエンジニアがレビューする体制になっている。
結果として、製品を出す速度は1年前の2倍になった。
使う側からは見えないが、マッチングアプリはすでに「AIが作ったソフトウェア」である。
2 利用者に届く機能のほうも、AIだらけになる
2026年の戦略として掲げられているのは、大きく3つだ。
プロフィールをより充実したものにする補助。共通の興味をもとに会話のきっかけを作る機能。そして、メッセージの礼儀の水準を引き上げる仕組みである。
3つ目は地味に見えて重要だ。マッチングアプリの離脱要因として、不快なメッセージの存在は繰り返し指摘されてきた。ここに機械的な介入を入れるという判断は、体験の質に直結する。
3 問題は「Chemistry」である
いま注目されている機能がChemistryだ。
仕組みはこうである。まずAIが利用者に質問を投げる。そして利用者の許可を得たうえで、スマートフォンのカメラロールにアクセスし、そこから興味や性格を学び取る。
プロフィール欄に自分で書いた自己紹介より、日々撮っている写真のほうが、その人を正確に表している。これは直感的に正しい。旅行の頻度も、食の好みも、飼っている動物も、一緒に写る人の傾向も、写真フォルダには嘘がない。
だから精度は上がる。上がるからこそ、渡すものの重さを考える必要がある。
カメラロールは、自己紹介文とは質が違う
プロフィールに何を書くかは、書く本人が選べる。見せたくないものは書かなければいい。
カメラロールにはその選択がない。マッチングのために撮った写真だけが入っているわけではないからだ。仕事の資料、領収書、家族、体調に関するもの、他人が写っているもの。許可した瞬間に、選別していない自分がまるごと相手に渡る。
しかも写っているのは自分だけではない。同意していない他人が、自分のアカウントの分析材料として使われる可能性がある。
判断は「オンかオフか」ではなく「どのアルバムか」
現実的な対処は、全面拒否でも全面許可でもない。多くのスマートフォンは、写真へのアクセスを全件許可ではなく、選択した写真だけに限定できる。
Chemistryのような機能を使ってみたいなら、公開してよい写真だけを別のアルバムにまとめ、そこだけを渡す。精度は落ちるが、渡す範囲を自分で決められる。これは他のアプリにもそのまま使える考え方だ。
4 使う側の「使い方」はどう変わるか
プロフィール作成の負担は確実に下がる。何を書けばいいか分からない、写真をどれにすればいいか決められない、という詰まり方は、AIの補助で解消されやすい。
会話の出だしも同じだ。共通点を見つけて最初の一言を作る作業は、多くの人にとって最大の障壁だった。ここが自動化されれば、やり取りの数自体は増える。
ただし、増えるのは接点であって関係ではない。プロフィールも、最初のメッセージも、機械の補助で整えられた状態で始まる以上、そこから先に人間が出てくるまでの距離はむしろ長くなる。相手のプロフィールがうまく書けていることは、その人がうまく書ける人である証拠にはならなくなった。
5 いちばん実用的な結論
TinderがAIに投資するのは、利用者を幸せにするためだけではない。滞在時間と課金が増えるからである。目的が完全に一致することはない。
そのうえで、使う側にできることは3つある。
プロフィールと会話の補助は遠慮なく使う。ここは負担が減るだけで、失うものが少ない。
カメラロールの許可は、アルバムを絞って渡す。全件許可を求められたら、いったん断って様子を見る。
そして、相手の文章がうまいことを、相手の人柄の証拠として数えない。文章を書いたのが誰なのか、もう誰にも分からないからだ。
よくある質問
TinderのAI化はどこまで進んでいるのか?
利用者に見える機能だけでなく、開発の内側まで及んでいる。CTOのヴィナイ・クルヴィラによれば、Tinderで書かれる新規コードの9割以上がAIによって生成されており、AIが生成したコードの提出は必ず2人のエンジニアがレビューする体制を取っている。製品を出す速度は1年前の2倍になったという。
「Chemistry」とはどんな機能か?
AIが利用者に質問を投げ、さらに利用者の許可を得たうえでスマートフォンのカメラロールにアクセスし、そこから興味や性格を学び取る機能である。自己申告のプロフィールより実態に近い情報が得られるため精度は上がるが、選別していない写真をまとめて渡すことになる点が論点になる。
カメラロールへのアクセスを許可しても大丈夫か?
全件を許可する必要はない。多くのスマートフォンでは、写真へのアクセスを選択した写真だけに限定できる。公開してよい写真を別のアルバムにまとめ、その範囲だけを渡せば、精度と引き換えに開示範囲を自分で管理できる。カメラロールには自分以外が写った写真も含まれるため、他人の情報を渡すことになる点も考慮したい。
AI機能が増えると、マッチングアプリの使い方はどう変わるのか?
プロフィールの作成や最初のメッセージといった、詰まりやすい部分の負担は下がり、やり取りの総量は増える見込みである。一方で、プロフィールも会話の出だしもAIの補助を受けた状態で始まるため、文章の巧拙が相手の人柄を表す手がかりにはなりにくくなる。