生成AIの勉強は、会社ではなく個人が進めている。米国の求職者1,000人調査では、AIを自習で学ぶ人が1年で22%から30%に増えた一方、雇用主の研修を受けた人は約6人に1人で横ばいだった。42%はAI研修を提供する会社のほうが魅力的だと答え、14%は研修と引き換えに給料が下がってもよいと答えている。
調査を公表したのは、採用管理プラットフォームのiCIMSである。2026年9月10日のプレスリリースで、自社が委託した調査と、自社プラットフォームのデータ、労働市場データ企業Lightcastの求人データを組み合わせた月次レポートとして出した。ベンダーの調査であることは踏まえて読む必要がある。それでも、数字の向きは一貫していた。
学ぶ人が増え、教える会社は増えない
求職者の47%が、過去6か月にAIスキルに取り組んだ。1年前は41%だった。
その中身が変わっている。自習で学ぶ人は22%から30%へ。一方、雇用主が提供する研修を受けた人は約6人に1人で、ほぼ動いていない。学ぶ人は増えたが、増えた分はほぼ全部、自分で学んだ人である。
背景には求人側の要求がある。求職者の45%は、検討している職種でAIスキルが要件として出てくると答えた。Lightcastの求人データでは、AI関連の求人が採用需要に占める割合は米国で4%、英国で2.7%、フランスで1.2%にとどまる。だが、AI専門職ではない一般の求人にもAIスキルの記述が入り始めていることを、45%という数字は示している。
iCIMSのHead of Talent Insights、Trent Cottonはこう述べた。
「正直に言うと、スキルベース採用は誇大宣伝だと思っていた。このデータが考えを変えた。労働者は雇用主の研修を追い越している。求人はその両方を追い越している。それが市場の声であり、私は数字が語ることを信じる」
労働者が研修を追い越し、求人が労働者を追い越す。3者の速度が違う。
42%と14%
会社が教えてくれないなら、教えてくれる会社に行く。調査はその動きを数字で示している。
求職者の42%は、AI研修を提供する雇用主のほうが、提供しない同等の雇用主より魅力的だと答えた。福利厚生や給与が同じなら、研修のある方を選ぶ。
さらに14%は、AI研修と引き換えに、低い給料を受け入れると答えた。
7人に1人が、金より研修を取る。研修が福利厚生ではなく、報酬の一部として見られ始めている。
ただし、準備ができているという自己評価と、実際のスキルには差がある。求職者の60%は職場でAIに適応する準備ができていると感じている。だが61%は、自分の習熟はChatGPT、Copilot、Geminiといった汎用ツールに限られると答えた。プロンプトエンジニアリングのスキルがあるのは18%、機械学習やモデル開発は17%にとどまる。
自習で身についているのは、入口までである。その先を会社が教えていない。
候補者は30人、充足まで40日
この調査が出た米国の求人市場は、締まっている。
2026年8月の求人は前月比1%増だが、採用は7月に3%減、8月に1%減と2か月連続で減った。求人は前年比13%増なのに、採用は2%増。求人1件あたりの応募者は30人、充足までの日数は40日である。
Cottonの見立てはこうだ。
「これが制約された人材市場の姿だ。需要は増え、供給は横ばいで、残された唯一のレバーは自社のプロセスの中でどれだけうまく実行するかだ。1つの職に候補者が30人しかいないなら、プロセスのあらゆる破綻が実際の採用を失わせている」
求人を出しても人が集まらない。集まった30人の中から選ぶ。その30人の42%が、AI研修のある会社を選ぶと言っている。研修を出さない会社は、30人の中の選択肢から外れていく。
日本は58.8%、企業の27%は「組織的な取組なし」
日本の状況を、総務省の令和8年版情報通信白書で確かめる。
業務や日常生活で何らかの生成AIサービスを使ったことがある人は、日本で58.8%。前年度調査の26.7%から1年で倍以上に増えた。同じ調査で米国は75.6%、ドイツは75.6%、中国は93.6%。日本はまだ低いが、増加幅では4か国で最大だった。
ただし使い方には差がある。生成AIを使っている人のうち「ほぼ毎日」使う割合は、日本で約3割。米国、ドイツ、中国では4割を超えている。
企業側はどうか。日本で何らかの業務に生成AIを利用している企業は86.4%。前年度から大幅に上がり、他の3か国との差も縮まった。使い方で最も多いのは議事録やメール作成の補助で約7割。営業・販売で約6割、社内ヘルプデスクで約5割と続く。
ところが、生成AIの活用による業務変革について「組織的な取組はない」と答えた企業が27.0%あった。約3割である。白書はこれを、米国、ドイツ、中国に比べて顕著に高いと書いている。中小企業で特に高い。
環境整備の設問で日本企業の回答が最も多かったのは「業務プロセスの見直しや生成AI活用検討に必要なスキルやノウハウを学ぶ環境がある」だった。学ぶ環境はある、と会社は答えている。だが他の3か国では「生成AIに社内データを学習させたり、参照可能なデータベースを構築したりしている」が5割を超え、日本を大幅に上回った。
日本の会社は「学ぶ環境」を用意し、他国の会社は「使う基盤」を作っている。米国の調査で会社の研修が6人に1人で止まっていたのと、形は違うが構造は同じだ。会社が用意するものと、個人が必要とするものが、ずれている。
会社を待たない、という選択
米国の求職者の3割は、もう会社を待っていない。自分で学び、学べる会社を選び、必要なら給料を削ってでも研修を取る。
日本の会社員に置き換えると、判断は2つある。
1つは、いま何を学ぶかだ。調査が示すとおり、汎用ツールの使い方は6割が自習で到達している。差がつくのはその先で、自分の業務の中でどう使うかである。白書が示す日本企業の用途、議事録とメール、営業、社内ヘルプデスクは、どれも今の仕事の延長にある。
もう1つは、会社を選ぶ基準にAI研修を入れるかどうかだ。42%が入れている。研修の有無は、その会社がAIを個人の努力に任せているか、組織として取り組んでいるかを映す。「組織的な取組はない」27%の会社に入るか、残りの会社に入るか。求人票の研修欄は、そこを読む手がかりになる。
会社が教えてくれるのを待つ人と、待たない人。iCIMSの数字は、待たない人が増えていることを示している。そして白書は、日本の会社の3割が、まだ教える体制を持っていないことを示している。
よくある質問
生成AIの勉強は独学でできるか
米国の求職者調査では、AIを自習で学ぶ人が1年で22%から30%に増え、60%が職場でAIに適応する準備ができていると答えた。ただし61%は習熟がChatGPTなどの汎用ツールに限られ、プロンプトエンジニアリング(18%)や機械学習(17%)は少数だった。入口までは独学で届くが、業務への応用は会社の環境に左右される。
AI研修がある会社は転職で有利か
iCIMSの調査では、求職者の42%がAI研修を提供する雇用主のほうが魅力的だと答え、14%は研修と引き換えに低い給料を受け入れると答えた。研修の有無は応募者を集める要素になっている。日本では総務省白書で、企業の27%が生成AI活用について「組織的な取組はない」と答えており、研修の有無は会社の取組姿勢を映す。
日本の生成AI利用率は他国と比べてどうか
総務省の令和8年版情報通信白書では、生成AIを使ったことがある人は日本で58.8%、米国75.6%、ドイツ75.6%、中国93.6%。日本は前年度の26.7%から最大の増加幅だったが、毎日使う人の割合は約3割で4か国中最も低い。
会社にAI研修を導入してもらうにはどうすればよいか
日本企業の86.4%はすでに何らかの業務で生成AIを使っている。白書では議事録・メール作成補助の活用が約7割で、効果を実感する割合も約7割と高い。すでに効果が出ている用途を起点に、業務プロセスの見直しと組み合わせて提案すると、経営層に届きやすい。