「年を取ると、新しいことへの興味が薄れていく」――そんなふうに感じて、少し寂しくなったことはありませんか?
しかし、それはあなたの脳が衰えたからではなく、むしろ「賢い進化」を遂げた証かもしれません。
UCLA(カリフォルニア大学ロサンゼルス校)などの国際研究チームが発表した最新の研究は、これまで心理学の世界で信じられてきた「加齢とともに好奇心は衰える」という定説を覆しました。実は、ある特定の種類の好奇心は、老年期に入っても上昇し続けることが判明したのです。そしてこの「好奇心」こそが、アルツハイマー病などの認知症を防ぐ、最強のワクチンのような役割を果たす可能性があります。
「好奇心」には2つの種類がある? 最新研究が暴いた真実
これまで心理学の教科書では、年齢とともに好奇心は低下するとされてきました。しかし、研究チームはこの定説に違和感を抱いていました。なぜなら、実験に参加する高齢者たちは、自分の興味がある分野(例えば記憶の仕組みなど)に対して、非常に熱心に目を輝かせていたからです。
そこで研究チームは、好奇心をあえて2つのタイプに分けて調査を行いました。
- 「特性好奇心(Trait curiosity)」: 生まれつきの性格としての、全般的な好奇心の強さ。
- 「状態好奇心(State curiosity)」: 特定のトピックや趣味に対して、「もっと知りたい!」と沸き起こる瞬間的な好奇心。
20歳から84歳までの参加者を対象に調査を行ったところ、「全般的な好奇心」は確かに年齢とともに低下していました。しかし、「特定のクイズの答えを知りたがる」といった「状態好奇心」は、中年期を底に、老年期に向けてV字回復し、上昇し続けることが分かったのです。
なぜ中年期に好奇心は「底」を打つのか?
研究データによると、この好奇心の変化は、人生における「幸福度」のカーブ(中年期に下がり、晩年に上がるU字型)と似た動きを見せました。
研究者は、この現象を次のように分析しています。
- 若年〜中年期: 学校や仕事での成功、住宅ローンの支払い、子育てなど、生き抜くために必要な知識を幅広く吸収しなければならない時期です。そのため、ストレスも多く、純粋な好奇心を発揮する余裕がなくなります。
- 老年期: 子育てや仕事のプレッシャーから解放され、リソースに余裕が生まれます。その結果、自分の本当に好きなこと、興味のあることだけに没頭できるようになり、「純粋な知りたい欲求」が再び高まるのです。
つまり、年を取って「最近の流行に興味がなくなった」としても、それは好奇心が枯れたわけではありません。自分にとって重要なことだけを選び取る「選択と集中」ができるようになった、というポジティブな変化なのです。
「推し活」や「趣味」が脳を守る? 認知症予防の新たな視点
この研究の最も重要なメッセージは、「好奇心を持ち続けることが、脳を老化から守る」という点です。
研究を主導したアラン・カステル教授は、「認知症の初期段階にある人々は、かつて楽しんでいたことに対して無関心になる傾向がある」と指摘しています。逆に言えば、特定の趣味や学習に対して「知りたい!」「楽しい!」という感情(状態好奇心)を持ち続けることは、脳を鋭敏に保つための強力な武器になります。
- 「選択的」でOK: 無理に全てを知ろうとする必要はありません。バードウォッチングでも、歴史の勉強でも、アイドルの応援でも、自分が「好きだ」と思える特定の分野を深めることが重要です。
- 「忘れる」ことも能力: 年を取ると関係のない情報を忘れやすくなりますが、これは脳が「重要なことに集中しよう」としている証拠です。
- 「無関心」は危険信号: 逆に、何に対しても興味が湧かなくなった時こそ、認知機能低下のサインかもしれません。
「もう年だから」と新しいことを諦める必要はありません。むしろ、年を重ねた今こそ、雑音に惑わされず、自分の好きな世界の探求に没頭できる「好奇心の黄金期」なのかもしれません。


