コロナ禍を経て、日本の働き方は大きく変わりました。オフィス回帰の動きがある一方で、「テレワーク(在宅勤務)」を継続する企業も少なくありません。
「結局、出社と在宅、どっちがメンタルに良いの?」 「通勤時間がないのは楽だけど、孤独も感じる…」
そんな尽きない議論に、オーストラリアのメルボルン大学の研究チームが、16,000人分という膨大な長期データを用いて、一つの明確な答えを出しました。
結論から言えば、テレワークの効果には「明確な男女差」があり、さらに「誰が最も恩恵を受けるか」も決まっていたのです。
女性にとっての「ハイブリッドワーク」は“給料15%アップ”に匹敵?
この研究は、パンデミックの特殊な影響(2020〜2021年)を除外した、20年間にわたる追跡調査データを分析したものです。
その結果、女性のメンタルヘルスにとって、最も効果的なのは「ハイブリッドワーク」であることが判明しました。具体的には、「基本は在宅で、週に1〜2日オフィスに出社する」というスタイルです。
特に、もともとメンタルヘルスに不調を感じている女性の場合、この働き方による幸福度の向上は、なんと「世帯収入が15%アップした時の幸福感」に匹敵するという驚きの試算が出ました。
家事や育児と仕事の両立など、マルチタスクを求められがちな女性にとって、通勤時間を省きつつ、適度に社会との接点も持てるハイブリッドワークは、精神的な安定剤として機能しているようです。
男性は「在宅」の恩恵なし? 敵は“通勤時間”だった
一方で、男性の結果はシビアでした。
男性の場合、在宅勤務の日数を増やしても、メンタルヘルスへの統計的なプラス効果は「なし」。良くも悪くもならない、という結果でした。研究者は、男性の社会的ネットワークが職場に依存している傾向が強いため、在宅による孤立感がメリットを相殺している可能性を指摘しています。
しかし、男性にとっての明確な「敵」も判明しました。それは「通勤時間」です。
特にメンタルヘルスが不安定な男性の場合、片道の通勤時間が30分増えることは、「世帯収入が2%減った時のショック」と同じくらいの悪影響を精神に及ぼすことが分かりました。男性にとって、在宅勤務の最大のメリットは「家にいること」そのものではなく、「地獄の通勤から解放されること」にあるのかもしれません。
「メンタル強者」には関係ない? 柔軟性が本当に必要な人たち
この研究が突きつけたもう一つの重要な事実は、「働き方の柔軟性を最も必要としているのは、メンタルヘルスが不調な人たちだ」ということです。
精神的にタフな(メンタルヘルスが良好な)人々は、出社だろうが在宅だろうが、通勤が長かろうが、あまり影響を受けません。
しかし、メンタルに不調を抱える人々にとって、働き方の選択肢は死活問題です。 女性には「ハイブリッドワーク」という選択肢を、男性には「通勤時間の削減」を。それぞれの特性に合わせた柔軟な働き方を提供することは、単なる福利厚生ではなく、従業員の心を守るための「処方箋」と言えるでしょう。
一律の「オフィス回帰」は危険
企業が「原則出社」や「完全リモート」といった一律のルールを強いることは、誰かにとっての毒になりかねません。
研究チームは、企業に対し「画一的なオフィス回帰ポリシーを避けるべきだ」と提言しています。
女性には、適度な出社と在宅を組み合わせたハイブリッドな環境を。
男性には、通勤ストレスを軽減する配慮を。
従業員一人ひとりのメンタルヘルスの状態や性別、家庭環境に合わせた「オーダーメイドな働き方」こそが、組織全体の幸福度を高める鍵となるようです。