今や、新しい出会いの手段として当たり前になった「マッチングアプリ」。日本でも「アプリ婚」は珍しくありません。無限に広がる候補者の中から、AIがおすすめする「理想の相手」を見つけられる――。それは、効率的で素晴らしいことのように思えます。
しかし、オーストラリア国立大学や英スターリング大学などの国際研究チームが発表した大規模な調査結果は、そんなデジタル時代の恋愛に冷や水を浴びせるような事実を突きつけました。
なんと、オンラインで出会ったカップルは、職場や友人の紹介など「リアル(オフライン)」で出会ったカップルに比べて、結婚生活の満足度が低く、愛情の強さも低い傾向があるというのです。
「愛の強さ」が足りない? 6,000人調査の衝撃
この研究は、世界50カ国の6,646人を対象に行われました。参加者のうち、全体の約16%(2010年以降に関係を始めた人では21%)がオンラインでパートナーと出会っていました。
調査の結果、オンラインで出会ったグループは、リアルで出会ったグループと比較して、以下の項目でスコアが低いことが判明しました。
関係への満足度
経験する愛の強さ(親密さ、情熱、コミットメント)
なぜ、デジタルの海で「運命の相手」を選び抜いたはずなのに、満足度が低くなってしまうのでしょうか? 研究者たちは、いくつかの興味深い理由を挙げています。
原因①:「選択肢が多すぎる」という罠
アプリを開けば、指先一つで次から次へと異性が表示されます。この「無限の出会い」こそが、実は落とし穴です。
研究者はこれを「選択のオーバーロード(選択肢過多)」と呼びます。候補者が多すぎると、人は「もっといい人がいるかもしれない」という迷いを捨てきれず、目の前のパートナーに満足しにくくなるのです。
原因②:共通点が少ない「他人」同士
リアルな出会い(職場、学校、友人の紹介など)の場合、二人は最初から似たような社会的背景や価値観、共通の知人を持っていることが多いです(同類婚)。これが、関係の安定や周囲からのサポートに繋がります。
一方、アプリでの出会いは、全く接点のない「完全な他人」同士であることが多く、価値観のすり合わせや信頼関係の構築に、より多くのエネルギーが必要になるのです。
原因③:「スワイプ文化」と見逃される赤信号
現代のアプリ特有の「スワイプ文化」も影響しています。外見や条件だけで瞬時に「アリ・ナシ」を判断する習慣は、長期的な関係よりも、短期的な快楽やステータスを優先させがちです。
また、画面越しのやり取りでは、リアルならすぐに気づくはずの「レッドフラグ(危険信号)」――性格の不一致や問題行動の兆候――が見過ごされやすく、付き合ってから「こんなはずじゃなかった」と後悔するリスクが高まると指摘されています。
アプリ婚は「呪い」ではないけれど…
もちろん、研究者も「オンラインで出会ったカップルが必ず不幸になるわけではない」と強調しています。あくまで統計的な「傾向」です。
また、かつて言われていた「田舎で出会いがないからネットを使う」「若者だけが使う」といった定説は、今回の調査で否定されました。地域や年齢に関係なく、誰もがアプリを使う時代になっています。
重要なのは、出会い方がどうあれ、関係を維持するには努力が必要だということです。
アプリでの出会いは、手軽で便利です。しかし、そこには「もっといい人がいるかも」という幻想や、「共通基盤のなさ」といったデジタル特有のハードルがあることを自覚し、リアルな出会い以上に、相手と向き合う丁寧なコミュニケーションが求められているのかもしれません。