生命の誕生は「数学的にあり得ない」? “奇跡の確率”を最新研究が解き明かす

「私たちは、どこから来たのか?」――これは、古くから人類が問い続けてきた、最も根源的な謎の一つです。地球上の無機物から、どのようにして最初の生命が生まれたのか。この「生命の起源」について、ロンドン大学インペリアル・カレッジの研究者が、数学的なアプローチから衝撃的な結論を導き出しました。

その結論とは、「偶然だけを頼りに生命が自然発生する確率は、天文学的に低く、ほとんど奇跡に近い」というものです。

これは、ランダムにキーボードを叩いて、偶然にも完璧な記事が出来上がるのを期待するようなもの。生命に必要な情報や構造が複雑になればなるほど、その成功確率はゼロに近づいていく、と研究は指摘しています。

生命誕生を阻む「情報」と「秩序」という巨大な壁

この研究の核心は、「情報理論」と「アルゴリズム的複雑性」という数学的な手法を用いて、生命誕生のハードルを数値化した点にあります。

自然界の法則では、物事は通常、「秩序ある状態」から「無秩序な状態」へと向かいます(エントロピーの増大)。しかし、生命はその法則に逆らうかのように、極めて精巧な「秩序」と、DNAに代表される膨大な「情報」を持っています。

研究を主導したロバート・G・エンドレス氏は、最初の生命体とされる「原始細胞」が、単純な化学物質から自然に組み上がるプロセスがいかに困難であるかを数学的にモデル化。偶然の化学反応だけで、この巨大な「情報と秩序の壁」を乗り越えるのは、極めて難しいことを明らかにしました。

では、どうやって?「未知の物理法則」と「宇宙人飛来説」

では、この「あり得ない」はずの生命は、どのようにして生まれたのでしょうか。研究は、私たちの現在の科学知識がまだ不完全である可能性を示唆し、いくつかの仮説に言及しています。

可能性①:未知の物理法則の存在
まだ私たちが発見していないだけで、生命のような秩序ある構造を生み出しやすくする、未知の物理法則やメカニズムが存在するのかもしれない。これは、今後の科学が探求すべき最大の課題の一つです。

可能性②:パンスペルミア説
論文は、SFのような仮説にも、論理的な可能性として言及しています。それは、ノーベル賞受賞者であるフランシス・クリックも提唱した「パンスペルミア説」。つまり、「地球の生命は、高度な地球外生命体によって意図的に“種まき”されたのかもしれない」という考え方です。もちろん、これは非常に思弁的なアイデアであり、よりシンプルな説明を好む科学の原則(オッカムの剃刀)には反する、とも注記されています。

数学が解き明かす「存在の謎」― 旅はまだ始まったばかり

この研究は、「生命の自然発生は不可能だ」と断定するものではありません。むしろ、この長年の謎をより厳密に科学的に検証するための、重要な一歩と言えるでしょう。

それは、私たちが自身の存在の奇跡を再認識する機会を与えてくれます。数学という最も精密なツールを用いることで、「生命の起源」という壮大な謎は、さらにその深淵さを私たちに見せてくれます。

私たちはどこから来て、どこへ行くのか。その答えを探す人類の旅は、まだ始まったばかりなのです。

編集部: