「貧乏だと猛暑でイライラしやすい 」最新研究がSNS投稿12億件から解き明かす“気温と気分の関係”

うだるような暑さが続く真夏日。毎年やってくる「猛暑」に、なんとなく気分が落ち込んだり、普段よりイライラしやすくなったり…。多くの人が経験するこの感覚、実は単なる「気のせい」や「夏バテ」ではなかったようです。

マサチューセッツ工科大学(MIT)などが参加した国際研究チームが、世界157カ国のSNS投稿を分析した結果、気温の上昇が人々の気分を悪化させるという、科学的な裏付けが示されました。

12億件のSNS投稿が語る「暑さと不機嫌」のリアル

この大規模な研究では、Twitter(現X)やWeiboといったSNS上の12億件もの投稿が分析対象となりました。研究チームはAIによる自然言語処理技術を使い、65の言語で書かれた投稿の「感情」を、ポジティブかネガティブかで点数化。その点数と、投稿された地域の気象データを照合しました。

その結果、気温が摂氏35度(華氏95度)を超えると、人々の投稿内容は明らかにネガティブな方向へ傾くことが判明したのです。

研究の共同著者であるMITのシチー・ジェン教授は、「気温の上昇は、私たちの身体の健康や経済だけでなく、世界中の人々の『日々の感情』にも影響を与えているのです」と語ります。極端な暑さは、私たちの心を直接攻撃する「感情のストレス」とも言えるのかもしれません。

経済格差が心の余裕を奪う?浮き彫りになった「不平等」

さらに興味深いのは、この「暑さによる不機嫌」に、経済的な格差が大きく影響している点です。

分析の結果、比較的所得の低い国々では、高所得国に比べて、猛暑による気分の落ち込みが約3倍も大きいことが分かりました。

これは、エアコンの普及率や住宅環境、労働条件の違いなどが背景にあると考えられます。猛暑という同じ気候ストレスに晒されても、それを乗り切るための「心の余裕」や「物理的な備え」に差があるという、気候変動における不平等な現実が浮き彫りになりました。

2100年の未来予測と、私たちが向き合うべき課題

研究チームは、この結果を基に、地球温暖化が進行した場合の長期的な影響も予測しています。それによると、2100年までには、気温の上昇という要因だけで、人々の感情的な幸福度は現在より2.3%悪化する可能性があるとしています。

もちろん、SNSユーザーが必ずしも社会全体の縮図ではない、といった研究の限界もあります。しかし研究チームは、SNSの利用が少ない幼児や高齢者こそが暑さに対して特に脆弱であるため、実際の影響は今回の分析結果よりもさらに大きい可能性があると指摘しています。

この研究は、地球温暖化対策が、単に環境や経済の問題だけではないことを教えてくれます。私たちが毎年経験する「猛暑日のイライラ」は、気候変動がもたらす世界共通の現象であり、私たちの「心の健康」を守るという観点からも、この問題への適応策を考えていく必要がありそうです。

編集部: