「恋は盲目」という言葉があるように、恋愛は時に私たちの心を完全に支配し、他のことが手につかなくなるほどの力を持っています。しかし、その強すぎる想いが、実は私たちの脳の働きに、予期せぬ影響を与えているかもしれない――。
イタリアの研究者たちによる最新の研究が、パートナーへの過度な執着、いわゆる「恋愛依存」の状態が、ブレインフォグ(思考力の低下)や記憶力の問題、集中力の欠如といった認知機能の低下と関連していることを示唆し、注目を集めています。
研究が示す「恋愛依存」と脳の働きの関係
学術誌『Behavioural Brain Research』に掲載されたこの研究は、イタリアの成人600人を対象に行われました。参加者には、恋愛への執着度、不安や抑うつのレベル、記憶力や注意力、そしてSNSの利用状況などに関するアンケートに回答してもらいました。
その結果、そこには明確なパターンが見えてきました。
パートナーへの執着度が強い人ほど、注意力散漫になり、集中力が低下する傾向があった。
「恋愛依存」のスコアが高い人は、不安や抑うつ、精神的な疲労感も強く報告していた。
つまり、「好きでたまらない」という気持ちが行き過ぎると、私たちの脳は文字通り疲弊し、普段通りのパフォーマンスを発揮できなくなってしまう可能性があるのです。
なぜ? SNSが症状を悪化させる理由
さらに、この研究では、InstagramやTikTokといったSNSの頻繁な利用が、これらの症状を悪化させることも明らかになりました。
専門家は、その理由を次のように分析しています。
「SNSは、パートナーの生活を24時間いつでも覗き見できてしまう『窓』のようなものです。この手軽さが、相手のオンライン活動を常にチェックする『ネットストーキング』行為に繋がりやすいのです」
相手の投稿や「いいね!」、交友関係を常に監視してしまうことで、嫉妬心や不安が煽られ、強迫的な思考に陥ります。その結果、仕事や勉強など、本来集中すべきことに手がつかなくなり、日常生活に支障をきたしてしまうのです。
専門家が解説する「心の浮気」と脳の仕組み
ある心理療法士は、この状態を「感情的なセックス」あるいは「心の浮気」と表現します。自分の感情や希望、欲望のほとんどを相手一人に向けてしまうことで、まるで恋愛ドラマのような高揚感を覚える一方で、本来の自分の価値観や判断力を見失ってしまうのです。
この「会いたい」という切望から、「誰といるの?」という嫉妬、そして連絡が取れない時の禁断症状まで、感情のジェットコースターは、脳の報酬系(快感を感じる回路)を混乱させます。専門家によると、これは他の依存症と似たメカニズムであり、気分の浮き沈みや強迫観念、そして精神的な燃え尽きを引き起こす可能性があるといいます。
現在、「恋愛依存症」は正式な病名ではありません。しかし、臨床の現場では、「恋愛感情や性的な衝動が自分ではコントロールできない」「恋心に自分が支配されている」と感じ、深く苦しんでいる人々が実際に存在します。
恋愛のドキドキやワクワクは、人生を豊かにする素晴らしいスパイスです。しかし、その想いが「執着」に変わり、SNSによって増幅されるとき、私たちの心と脳は、知らず知らずのうちに疲弊してしまうのかもしれません。
大切なのは、相手を想う気持ちと、自分自身の心の健康とのバランス。この研究は、テクノロジー時代の新しい恋愛の形と、その向き合い方を考える上で、重要なヒントを与えてくれています。