亀には人間に近い「心」があるかもしれない-最新研究で判明

先日、11年間ともに暮らしてきた亀が、静かに旅立ちました。部屋の片隅にあった水槽は空になり、毎日当たり前のようにそこにあった小さな命の気配が消えた喪失感は、想像以上に大きなものでした。彼と過ごした長い月日を思い返し、「あの子は幸せだったのだろうか」「私の気持ちは、少しでも伝わっていたのだろうか」と、答えの出ない問いを繰り返す日々。

そんな悲しみの中にいた私の目に、英国から届いたある研究のニュースが飛び込んできました。それは、まるで旅立った彼が私に教えてくれているかのような、心を揺さぶる内容でした。

英国リンカーン大学の動物行動学と認知科学の専門家チームが発表したその研究は、「リクガメが私たち人間と同じように、長期的な気分の状態(ムード)を経験する」という画期的な発見を伝えていました。

これまで、爬虫類は本能で生きる、感情とは無縁の存在だと考えられがちでした。私も、彼が何を考えているのか、本当の意味で理解することはできないのかもしれないと、どこかで線引きをしていたように思います。しかし、この研究は、その長年の思い込みを覆すものでした。

研究チームは、15匹のアカアシガメを対象に「認知バイアステスト」という手法を用いました。これは、曖昧な状況に遭遇した際に、その個体が背景にある気分によって楽観的に判断するか、悲観的に判断するかを明らかにするテストです。

その結果、おもちゃを置いたり、隠れ家を設けたりといった「豊かな環境」で飼育されたカメは、曖昧な状況を楽観的に判断する傾向が強いことがわかったのです。これは、彼らがポジティブな「気分」にあったことを示唆しています。さらに、楽観的な判断をしたカメほど、新しい物や見慣れない環境に対する不安行動が少なかったことも確認されました。つまり、彼らの「気分」が行動に直接結びついていたのです。

この論文を読みながら、私は在りし日の彼の姿を思い出していました。天気の良い日に庭を散歩させたとき、好物の果物を差し出したとき、彼はいつもと少し違う、穏やかで満ち足りたような表情を見せてくれていたように感じます。それは、飼い主である私の勝手な思い込みではなかったのかもしれません。私が彼のためにと行ってきた一つひとつの小さな工夫が、彼の「気分」を良くし、彼なりの幸福感につながっていたのかもしれないのです。

リンカーン大学のアナ・ウィルキンソン教授は、「動物福祉への関心は、その種が感情的な状態を経験する能力を持つという証拠に依拠します。ペットとして爬虫類がますます一般的になるにつれて、彼らの気分や感情を研究し、飼育環境がどのように影響するかを理解することが不可欠です」と語っています。

英国では2022年に「動物福祉(感覚)法」が制定され、動物が感情を持つ存在であることが法的に認められています。今回の研究は、その対象が哺乳類や鳥類だけでなく、爬虫類にも及ぶべきだという科学的な裏付けとなるものです。

11年という歳月は、決して短くありません。言葉を交わすことはできなくても、そこには確かに、静かで穏やかな絆がありました。この研究は、私の悲しみを消し去るものではありません。しかし、彼がただ生きているだけでなく、豊かな感情の世界を持ち、日々の暮らしの中で「幸せ」という気分を感じてくれていたかもしれないという可能性を示してくれました。

私の腕の中で最期の時を迎えた彼。その穏やかだった表情を、今は少し違う意味で思い返すことができます。彼が経験したであろう感情の世界に思いを馳せながら、私たちの間に確かに存在した時間を、これからはより一層、愛おしく胸に抱いていこうと思います。

旅立った彼が、最後に教えてくれた大きな置き土産でした。

編集部: