日本は2040年頃には年間死亡者数が160万人を超える「超多死社会」を迎えると予測されており、火葬場の処理能力不足や環境負荷の増大が懸念されています。このような状況下で、火葬場の排熱を有効活用することは、エネルギーの効率的な利用と環境負荷の低減につながるだけでなく、持続可能な社会の実現にも貢献すると考えられています。
日本国外、特にヨーロッパでは、環境問題への意識の高まりから、火葬場における排熱利用が積極的に進められています。その主な利用方法は以下の通りです。
1. 施設内の暖房
火葬炉から発生する排熱を回収し、熱交換器などを利用して温水や温風に変換し、火葬場内の暖房に利用します。これにより、冬季の暖房費を大幅に削減することができます。
オランダのデルフトにあるイーペンホフ火葬場では、このシステムを導入しており、真冬でも暖かく快適な環境を保っています。
2. 近隣施設への熱供給
火葬場の排熱を近隣の住宅や公共施設などに供給し、暖房や給湯に利用します。
スウェーデンのストックホルムにあるエンシェーピング火葬場では、近隣の住宅約60世帯に暖房用の温水を供給しています。
デンマークのフレデンスボー市では、火葬場の排熱を地域熱供給システムに組み込み、近隣の住宅や学校などに熱を供給しています。
3. 温水プールや温室の加熱
排熱を利用して温水プールや温室を加熱し、地域住民のレクリエーションや植物栽培に役立てています。
イギリスのレッドディッチにある火葬場では、近隣のレジャーセンターの温水プールを加熱するために排熱を利用しています。
4. 電力への変換
排熱を電力に変換する発電システムを導入し、火葬場内の電力の一部を自給したり、余剰電力を電力会社に売電したりする試みも始まっています。
これらの取り組みは、環境負荷の低減だけでなく、エネルギーコストの削減や地域社会への貢献にもつながっています。
イギリスにおける事例と課題:心情的な反対
しかし、排熱利用の取り組みが必ずしもスムーズに進むとは限りません。イギリスのレッドディッチでは、火葬場の廃熱を隣接するレジャーセンターの温水プールに再利用する計画が持ち上がりましたが、労働組合などから「悪趣味」「侮辱的で無神経だ」との批判が上がり、計画は中止されました。年間1万4000ポンド(約186万円)を節約できるというメリットがあっても、心情的な反対が起きる可能性があることを示しています。
日本の事例:東京博善株式会社の取り組み
日本においても、環境問題への関心の高まりやエネルギー価格の高騰などを背景に、火葬場における排熱利用への関心が高まってきています。東京博善株式会社は、国連の持続可能な開発目標(SDGs)に賛同し、四ツ木斎場の火葬炉において、日本で初めて火葬炉余熱による発電を実現しました。このシステムは、従来型火葬炉システムに比べ大幅に排気ガス量を抑え、二酸化炭素やダイオキシンなどの有害物質を低減しており、環境への配慮がなされています。
超多死社会を迎える日本において、火葬場における排熱利用は、持続可能な社会の実現に向けた重要な取り組みの一つです。海外の事例を参考に、排熱利用技術の導入や地域との連携などを進めることで、より環境に優しく、地域社会に貢献できる火葬場運営が実現されることが期待されます。
しかし、イギリスの事例が示すように、排熱利用には心情的な抵抗感が伴う可能性もあります。そのため、導入にあたっては、地域住民への丁寧な説明や合意形成が不可欠です。技術的な側面だけでなく、倫理的な側面にも配慮しながら、持続可能な火葬場運営を目指していく必要があるようです。