SDGs(持続可能な開発目標)の目標6「安全な水とトイレを世界中に」は、すべての人々が安全な水と衛生施設を利用できる世界を目指している。しかし、この目標達成への道のりは険しく、先進国である日本においても、PFAS(有機フッ素化合物)による水質汚染という深刻な問題が浮上中だ。
PFASは、その耐熱性、撥水性、化学的安定性などの特性から、私たちの生活に欠かせない様々な製品に使用されています。フライパンの焦げ付き防止コーティング、レインコートの撥水加工、泡消火剤、さらには半導体や化粧品にも含まれています。しかし、この便利な物質は、自然界でほとんど分解されず、体内に蓄積しやすいため、「永遠の化学物質」と呼ばれているほど。そして、近年、PFASが人体や環境に及ぼす悪影響が次々と明らかになり、世界中で規制強化の動きが広がっている。
日本でも、各地でPFASによる水質汚染が報告されており、静岡市では、国の暫定目標値を大幅に超えるPFASが清水区三保の化学工場の周辺から検出。工場前の三保雨水ポンプ場の排水からは一リットルあたり、最大2万1千ナノグラムが排出されており、排水管の補修や活性炭による除去をしても3千~4千ナノグラム。その影響が懸念されている。
しかし、自治体は手をこまねいているわけではない。静岡市は、山梨県の企業「Aホールディングス」と包括連携協定を締結し、市議会の承認を経て、10月に設立する新会社に共同出資する方針だという。この新会社では、PFAS除去技術の開発と実用化に積極的に取り組んでいく。
天然水の販売や浄水装置の開発を手掛けているAホールディングス。同社が開発した「亜臨界水総合システム」は、超微細気泡(ナノバブル)と薬剤を用いてPFASを水から分離し、高温高圧の水(亜臨界水)で無害化する技術だ。従来の活性炭処理などでは除去が困難だった高濃度のPFASにも対応できる点が特徴となっている。
静岡市とAホールディングスは、この技術の実用化に向けて共同出資会社を設立し、2024年1月には具体的な事業計画を発表する予定だ。この取り組みは、PFAS汚染という社会問題の解決だけでなく、新たな産業創出や雇用促進にもつながることが期待できるだろう。
調印式で、Aホールディングスの粟井社長は、「社会問題の解決に向け、共に世界に挑戦していきたい」と力強くコメント。静岡市の取り組みは、SDGs目標6達成に向けた大きな一歩となるだけでなく、日本発の技術が世界の水問題解決に貢献する可能性もあるだろう。