LIXIL「トイレからのお便り」はAIで便を判定 高齢者施設での健康状態把握などに有効

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建築材料・住宅設備機器業界最大手の株式会社LIXILが発表した「トイレからのお便り」が大きな期待を集めている。この名前だけ聞いてもピンとは来ない。実はこれ、高齢者施設において排便管理を人工知能(AI)により自動で判定、記録、一元管理するトイレ機能の研究開発だ。

便は人間の健康状態を把握する上で重要な要素の一つ。たとえば高齢者の場合、液状のものが続いていれば脱水症状を起こしやすい、出ていない日が続けば腸閉塞の危険性も出てくる、といった重要な指針となる。その一方でプライベートかつデリケートな、人間の尊厳に関わる部分であるため、チェックする側、される側の両者にとって心理的抵抗があるものだ。

しかし便をAIによって判別させることは、こういった心理的抵抗を和らげる効果も得られる。また、記録を手書きから自動化することでの作業の軽減、口頭での確認がとりづらい認知症患者の排便状況の把握なども可能となる。



一見“色物”に思われてしまいそうな研究開発だが、高齢者施設などにおいて生活の質(QOL)向上に役立つことは間違いない。現時点で商品化は未定だが、2020年春頃から高齢者施設で実証実験を行い、技術確立を目指すという。

AIが1秒で便を判定

では実際、何がどのようにできるのか。

まず利用者が便座に腰掛けると、便座の裏にとりつけられたカメラと発光ダイオード(LED)がそれを感知。LEDが点灯し、排便後に便が撮影される。そしてAIが国際的に利用されている便の形状を示す指標「ブリストルスケール」に基づき、硬いコロコロとした便、液体状の便など7分類で判定を行う。時間にして1秒もかからないという。判定結果は、利用者ごとに整理された形で出力され、スタッフがパソコンやタブレットで確認・管理を行うことができる。

「トイレのお便り」便座裏のLEDとカメラ

先に述べたように、まだ技術確立はされていないが、それでも80%以上の精度まで高まっているという。想像していただければわかるように、実際のそれは単純なものではなく、形も様々、またAIの判定に影響を与える紙などの異物といった要素などもあるからだ。

社員より3000の画像を収集

LIXIL WATER TECHNOLOGY JAPAN デザイン・新技術統括部統括部長の白井康裕氏によれば「我々が知るところでは、このようなコンセプトは初めて」とのことで、他社でもこのような研究開発はまだ聞こえてきていないという。

斬新であるということは、逆に言えばデータが少ないということ。

AIが判別を行うためのアルゴリズムの構築には大量の画像データが必要だが、便の画像は非常に得にくいものだったという。そのためLIXILは、同社社員たちから協力をあおぎ約3000枚の画像の収集に成功。協力を得るための各部署に説明に行くと、はじめは「え!?」という反応も多かったというが、徐々に協力者が現れ大量の画像データを得ることができたのだ。

日本のIoT最大手となる可能性

LIXIL社は業界最大手として、AIとそれ利用したIoTへの取り組みを積極的に進めている印象がある。

「Technology Research 本部 人間科学研究所」ではAIによるユーザーの行動観察を行っているし、2017年には建材とAIスピーカーを連携させたIoTシステムを発表。またトイレ方面では、公衆トイレ用「センサー一体形ストール小便器(NEW PUBLIC TOILET HL)」等において「スーパーAI節水」機能により、AIによる水の使用量の削減に成功している。

「トイレからのお便り」も、建築材料・住宅設備機器業界最大手のLIXILのAIとそれを使ったIoTの取り組みとして見れば、壮大なプロジェクトの一環だ。IoT化が世界に比べて遅れている日本だけに、今後同社がその巻き返しの一翼を担うのではないか。今後の同社の研究開発や商品にはさらに注目していきたい。