ジンバブエと日本の意外な接点
浅草観光でおなじみ、アサヒビールのアサヒグループ本社ビル隣に建つスーパードライホール。フランスのデザイナー、フィリップ・スタルクによって設計された金色の雲のような「炎のオブジェ」はあまりにも有名ですが、その土台部分となっている建物の黒く輝く壁が「ジンバブエブラック」という石でできているのをご存知でしょうか?
ジンバブエブラックは建築用黒御影石の代表的石種のひとつで、模様のほぼない真っ黒な石。重厚で高級なイメージを出すことができるのが特徴です。そのジンバブエブラックの産地であるアフリカ南部・ジンバブエ共和国(Republic of Zimbabwe)の「ジンバブエ」は現地ショナ語で「石の家」という意味。実際、巨石遺跡の「グレート・ジンバブエ(大ジンバブエ遺跡)」や奇岩が並ぶ「マトボ・ヒルズ(マトボの丘群)」といった世界遺産が有名な観光地となっています。
ジンバブエの遺跡は神秘ただよう美しさ
首都ハラレから南へ約300km、マシンゴ市の郊外に位置するグレート・ジンバブエ(Great Zimbabwe)は、エジプトのピラミッドについで世界で2番目に大きい石造建築の遺跡。国旗にデザインされている紋章の「ジンバブエの鳥」はジンバブエ遺跡の彫刻を表しています。13世紀から15世紀にかけて興隆したショナ人による王国のものと推測されており、巨大な天然岩の石積みで造られた王宮を中心に町が形成され、最盛期には6000以上もの住居が立ち並んでいたといわれています。
遺跡は主として北側の「アクロポリス」、南側の「グレートエンクロージャー」、その中間に位置する「谷の遺跡」の3つに分けられます。中でもグレートエンクロージャーは外壁の周囲の長さが244m、高さ11m、外壁の基部の厚さが6mと巨大で、高い技術によって建設されたと考えられています。その建築様式は、モルタルなどを一切使わず、同じ大きさに切り出された花崗岩のブロックをただ積み上げているだけという世界的にも珍しいもの。あまりにスケールが大きいため、巨石の数々は宇宙人が運んできたとの説もあるとか。いずれにせよ、神秘を感じさせる美しい遺跡は必見です。
観光で絶対行くべきマトボ・ヒルズ
2003年に世界文化遺産に登録されたマトボ・ヒルズ(Matobo Hills)は、ジンバブエ第2の都市ブラワヨの南部に広がる丘。「マトボ」は「はげ頭」を意味しており、まるではげ頭のように見える丸く削られた花崗岩質の小丘群と渓谷からなるジンバブエ最古の国立公園です。奇岩が点在し、中にはちょっと押したら崩れてしまいそうな奇跡的なバランスで重なっている大きな岩(バランシング・ロック)も見られます。洞窟では、約1万3000年前にサン族が描いた岩絵が3500点ほど見つかっており、岩絵からは当時の暮らしや豊かな伝統文化をうかがうことができます。公園内には、サイ、キリン、シマウマなどの野生動物も生息しています。
世界トップクラスのパワースポット・バランシング・ストーンが点在
マトボ・ヒルズで見られるバランシング・ロックやバランシング・ストーンといった大きな岩が重なる場所は、自然の不思議なエネルギーを感じられるパワースポット! 特に有名なのは、ハラレ郊外のエプワースにある自然公園の「チレンバ・バランシング・ロック」です。以前流通していたジンバブエ紙幣には、どのお札にも、絶妙なバランスを保って重なる3つの岩が描かれていましたが、その岩が同公園内にあります。マトボ・ヒルズやエプワース以外にも多くの場所に点在しているバランシング・ロックは信仰の対象にもなっていて、岩場で瞑想する人もいるそうです。ぜひ足を運んで、運気アップしたいものですね。
ビクトリアフォールズは月夜に滝に虹がかかる
パワースポットといえば、ジンバブエで最も人気のある観光地「ヴィクトリア・フォールズ(ヴィクトリアの滝、Victoria Falls)」もそうです。こちらも世界遺産に登録されていて、イグナス、ナイアガラと並ぶ世界三大瀑布のひとつ。1855年、イギリスの探検家リヴィングストンがヨーロッパ人として初めて滝を見つけ、イギリスのヴィクトリア女王にちなんで名前をつけました。ジンバブエとザンビアの国境を流れるザンベジ川の中流に位置し、長さ1688m、高さは100mあり、地元の人々は、「モシ・オ・トゥニャ (雷鳴轟く水煙、Mosi-oa-Tunya)」と呼んでいます。その名の通り、轟音と共に流れ落ちる滝と、雨のように頭上から降ってくる水煙の迫力を体感できます。満月の夜には、月の明るい光で滝に虹がかかる幻想的な現象「ルナ・レインボー」も見ることができるので、この時期に合わせて訪れる観光客も多いそうです。
雄大な自然と動物たちにふれあえる
ヴィクトリアの滝から車で約2時間の距離にある「ワンゲ国立公園(hwange national park)」は、約1万4,650㎢の面積を誇るジンバブエ最大の国立公園で一番古い動物保護区。ゾウ、キリン、シマウマ、ライオン、ヒョウなどのほか、100種を超える動物と約400種の鳥が生息しています。7万頭を超えるゾウが集まることもあるとか。公園内には人工の水場がいくつか設けられており、そこに水を飲みにくる動物を見ることができます。オープンサファリカーでアフリカのワイルドライフを存分に満喫できるので、動物好きにはたまりません。また、ワンゲ国立公園に隣接した私営動物保護区には、木の上に造られたユニークなロッジがあり、人気を集めているそうです。
ジンバブエといえば、かつて100兆ジンバブエドル札が登場するほどの天文学的なインフレに陥ったこともありましたが、現在はそれも落ち着いて、観光体制も整ってきているようです。ナショナルジオグラフィックに掲載された2019年の旅のトレンドに関する記事でも、アフリカ旅行を専門会社創設者のコメントとして、「ワンゲ国立公園、マナ・プールズ国立公園、カリバ湖などは、政治が安定したことで、サファリの中心地として今後、観光事業が盛んになっていく」と紹介しています。
世界の美術界も注目するジンバブエ・アート
遺跡や野生動物といったもの以外におすすめなのが、石の国が誇るコンテンポラリーアート、石の彫刻です。中でもジンバブエの民族の大半を占めるショナ族が作るショナ彫刻は、ジンバブエ文化のひとつの象徴でもあり、世界的に評価されています。その技法は、荒いナイフで整形していき、その後やすりで磨くというもので、色合いや磨く箇所でその石の特性をそのまま造形に活かす職人技が光る芸術です。
もともとショナ族には、1300年から1600年頃まで石を彫って鳥などの形を作る習慣がありました。宗教的な意味を持つこの習慣は一時途絶えていましたが、1957年頃から当時のナショナル・ギャラリー館長のフランク・マキューエン(Frank McEwen)が、宗教的意味を離れて自由な表現をする芸術運動として「ショナ運動」を奨励、展開させ、彫刻の習慣が再スタートすることになりました。
ジンバブエが誇るアーティスト、ヘンリー・ムンヤラジ
この運動の創設者のひとりである彫刻家ヘンリー・ムンヤラジ(Henry Munyaradzi)は、代表的なアーティスト。「精神的本質は物質の中に現れる」「魂は石において捉えられその姿を表わす」と考え、ショナの精神的、社会的価値観に深く根差しながら、自由な創作を基本として制作した作品は高く評価されています。実は日本でも、ムンヤラジの作品を見ることができるのです。東京・立川ビジネスセンタービル北側のギャラリーロードに、上に向かってとがってゆく不定型な石の表面に、人物像や鳥の形などが浮き彫りされた作品が設置されています。
ショナ彫刻については、ハラレの国立アート・ギャラリーにシルヴェスター・ムバヴィ(Sylvester Mubayi)をはじめとする著名アーティストたちの作品が多数展示されているほか、ショナ・スカルプチャー・ギャラリーも庭園の中で作品を鑑賞できる観光客に人気のスポットとなっています。また、チャプング・スカルプチャー・パークでは、彫刻家が実際に作品を掘る作業風景を見学することもできます。
音楽に興味があるなら、ショナ族の伝統楽器「ムビラ」を手に取ってみてはいかがでしょうか。ムビラは親指ピアノとも呼ばれ、鉄の棒を弾いて音を出す、カリンバに似た楽器です。オルゴールの原型になったともいわれています。マーケットや土産物店などで販売されています。世界遺産、パワースポット、コンテンポラリーアートなど、さまざまな魅力あふれるジンバブエ。次の旅行先として、検討してみてはいかがでしょうか。
■執筆・あわいこゆき
■記事協力・駐日ジンバブエ共和国大使館
◆オーガナイズ・NPO法人国際芸術家センター(International Artists Centre)