居酒屋はなぜトイレに「道徳」を貼りたがるのか 余計なお世話? それとも親切?

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※某飲食チェーンのトイレはこのように。心に響くいい言葉ですね〜。
※某飲食チェーンのトイレはこのように。心に響くいい言葉ですね〜。

居酒屋のトイレにはいると、人生を説いたポスターが貼ってあるのを、見る機会が多い。某居酒屋ならば「親父の小言」。「朝きげんよくしろ、恩は遠くからかせ、人には馬鹿にされていろ〜」などと書かれたものだ。

トイレで気持よく用を足している時、なぜ、我々は道徳を説教されねばならないのだろうか。

■トイレのポスターは道徳、ジョーク、美化の3タイプ

「居酒屋などの飲食店のトイレのポスターは、トイレの美化をもとめるもの、ジョーク、それに道徳系の3つに分けられます。あとは世界一周かワーキングホリーデーのポスターですね。しかし圧倒的に印象に残るのは道徳系」(飲食コンサルタント)

■日めくりカレンダーの標語がルーツ?

この飲食店がトイレにこういった張り紙をするのが何時頃からはじまったのかは、定かではなく、おそらく日めくりカレンダーに書かれた標語などに連想し、開発されたものだと言われている。

日めくりカレンダー自体、標語がいつからつくようになったのかは不明。明治時代から流行した引札略歴(当時の広告「引札」に暦の「略歴」を合わせたもの)など、カレンダーが民間で発達していく中で生まれたとみられる。そんな歴史はさておき

■経営者の哲学の“にじみ”

「飲食店の経営者のみなさんを取材していると、やはり強烈な自我をもった、自身の哲学を持った方が多い。だいたいみなさん講演など話し好きで、自分のことを言いたいんですよね。とはいえ客席で自分の哲学をはるのもバツが悪い、そこでトイレに貼るのでは」(グルメ雑誌編集者)

そう言われれば、トイレではなくとも自分の苦労話や成功譚が書いてある店はある。ということはトイレに貼ってあるのはまだ“奥ゆかしい”方なのだろうか。また、道徳のポスターは客だけにむけたものではないという指摘も。

■客だけではなく従業員の教育効果も

「でも一番リラックスしているし、アルコールで酩酊している時が、もっとも価値観を刷り込みやすいと言いますからね(笑)。しかもトイレは従業員も使うわけですから“ハイという素直な心”といった標語は、社員やバイト教育としてもいい。トイレの道徳系張り紙は経営者たちのエゴと教育欲が、ついつい出ちゃったものなんでしょう。教育する技術がよくわかってますよね」(前出・コンサルタント)

実際に都内ローカルチェーンの居酒屋で、トイレにオーナーの直筆の「いい言葉」が書いてあるところがある。以前に取材をしたことがあるこのオーナーに話を聞いてみた

「いやいや、そんこと言われるまで気づきませんでしたよ(笑)。よその居酒屋チェーンなどで目にしますし、私なりにみなさんにいい人生を送ってもらいたいという気持ちから、私が書いた標語を、貼るようにしているだけなので」

たしかに“正しい言葉”を説かれるわけで、実際にそんなに影響を受けるわけではないのだから、そんなに気にすることではない!? 昨今の労働問題と合わせると、従業員側からは微妙な話かも知れないが。

文/原田大