駅員さんやお掃除のおばちゃんにたずねてみても「知らないですねえ」と言われてしまうほど、知られてない、新宿駅のひそかな名物がある。それが中央線ホームのキオスクのような店、田中屋で販売されている「リンゴパン」(150円)。真っ赤っ赤で、遠目に見ると本物のよう。家でお皿に置いておいたら、母が「ずいぶん薄いリンゴねえ」と言っていた。
見ようによっては、ちょっと臓物のような濃い赤さをしている。看護師をしている友達におみやげで持っていったら「ん、心臓パン」とも言われた。というのは置いておいても、ちょっとチープで赤いこのパン、とっても美味しい。中には煮たリンゴがみしっと入っていて、割ったところはマーブル模様。白、茶、赤がまざっている。中身も外見もとってもかわいいパンなのだ。
新宿駅中央線ホームにある田中屋をのぞくとすぐわかる、他のパンは茶っこい色をしているけれど、これだけが、真っ赤に輝いているのだ。それだけ目立つ、けど、ちょっとギョッとするところもあるので、一瞬買って良いのかも迷う。こんなに赤くて大きい食べ物、リンゴの外には見たことがないから。
これを教えてくれたのは、西東京にすんでいる会社の古参のおばあちゃんな先輩だ。この人が中央線で毎日2時間ぐらいかけて通っているのだが、帰りにお腹がすくので、ここでパンを買っている。その時に見つけものだ。牛乳がとっても合うとも教えてくれた。この人のまわりの同年代の友達にも、このリンゴパンは人気だそうで、最近は多めに買ってかえるそう。
袋にはいっていてもほのかに甘い香りがしてきて、かじるとちょっと甘くて、リンゴの香料が鼻にふんわり抜ける。おばあちゃん先輩たちばっかり、こんな美味しいものを食べていてずるいなと、食べながら思った次第です。
文/高野景子