「日本の食物はほとんどが化学調味料まみれですよ。日本人は化学調味料中毒になっていて、舌がしびれるくらいに入っているとかえって喜んだりするんだから、情けない限りです」(『美味しんぼ』第38集 ラーメン戦争編より)
料理・グルメ漫画のなかで「悪」としてつねに語られてきたのが化学調味料、通称“化調”だ。
たとえば漫画の『美味しんぼ』(1983年より連載 原作・雁屋哲、画・花咲アキラ)はアンチ化調の急先鋒で、先のようなセリフがあるし、『包丁人味平』(1973年〜77年 原作・牛次郎、画・ビッグ錠)のラーメン編でも、化調を使った店が勝負に負けている。
その功罪はさておき、それら金字塔作品による影響か、化調がネガティブにしか捉えてこられなかったことは確か。化学調味料と切っても切り離せないラーメン漫画などでもそうだった(漫画『ラーメン発見伝』、後作『ラーメン才遊記』ではちゃんと化調について議論されている)。
しかし、グルメ漫画のなかでも名作と言われる『ミスター味っ子』の続編、『ミスター味っ子Ⅱ』では、化学調味料が活躍するというとんでもないシーンが登場し、グルメ漫画界を震撼させた。
それは同作品3巻の第30話「中江VS.新味皇」。主人公・ミスター味っ子こと味吉陽一に、少年料理人としては唯一勝っている“素材の魔術師”と呼ばれるキャラクター中江兵太が、新味皇・葛葉保名に敗れるという。中江は素材の持味を活かした料理が得意なのだが、新味皇は、化学調味料とコンビニの豆腐などで勝ってしまうのだ!
この時の、新味皇の言葉が凄い。
「旨味調味料は科学的に合成された分雑味が少ない、用量さえ間違えなければ素人が本物の食材を使うより安心なのさ おっと…勘違いするなよ 僕が本物の素材を使えばこの何倍もの旨い料理が作れるんだ これは遊びさ 君程度のやつが相手だったら科学調味料で十分だよこれが味皇GPの三回連続優勝者? ”素材の魔術師”が聞いてあきれるね」と言い放ったのだ。
新味皇は遊びとはいえ“化学調味料の魔術師”であったのだ。実際には、他人が食べたいものがわかるというのが、真の能力だったので、化調使いすらもひとつの技術にすぎない。
この化調で相手を破るという展開自体、グルメ漫画で悪とされている化学調味料のポジションを表したものである。
最後の戦いでは化調も真の能力も封印するという展開なのだが、もしも化調を使っていたら勝っていた可能性も。昏迷していた旧・味皇が「これは」と目を開いた可能性もあったのでは?
『ミスター味っ子』という偉大な作品が化学調味料を俎上に載せたのは興味深いが、その後化学調味料を相対的に取り上げている作品もないのが残念。ぜひとも『トリコ』あたりで、究極の化学調味料を出してもらいたいもの!
文/原田大