1970年代に漫画『アストロ球団』で一世を風靡した漫画家の中島徳博さんが今月8月28日、大腸がんのため、64歳で亡くなった。遠崎史朗氏原作、中島さんが作画をつとめた同作品は野球漫画とは思えないダイナミックかつ奇想天外な内容で、当時の少年青年たちを熱狂させていた。
作品の内容は、ボール型のアザを持つ1954年(昭和29年)9月9日生まれの9人の超人が、打倒アメリカ大リーグの目標のもと「一試合完全燃焼」の信念で野球を戦う物語だ。時にメンバーが重傷を負い、死亡するという過激な内容はウケにウケた。
魔球や魔打法が多数存在し、衝撃的な技は今読んでも新鮮だ。たとえば、
殺人X打法…カミソリの竜こと高雄球六が会得している技で、百発百中のピッチャー返し。頭部を狙うことによって投手を打殺する。「殺人野球」をプレイするブラック球団の先鋒として恐れられた技である。
ビーンボール魔球…元特攻隊の生き残り、氏家慎次郎が死んだ仲間を弔うために会得した殺人魔球だ。特に主人公の球一との対決で見せたのは、人生で一度しか使えないものだった。スローボールなのだが、打つと球皮が剥がれて打者を襲う。だが投げた氏家は、投球直後に老化して廃人になってしまう。
殺人L字ボール…ブラック球団の無七志(む なし)が使用する殺人魔球。これも打ちごろのスローボールだが打った途端に打者の腕をかけのぼり、顔面ないし頭部を襲うというもの。アストロ球団の上野球二(初代)がこれが原因となり絶命。
人間ナイアガラ…アストロ球団選手・球三郎(一度死んだショックにより目が見えないという設定。ちなみに臨死などではなく完全に死んでから蘇った)がヒットを打って走塁する際に、ビクトリー球団の内野・外野手7人がハイジャンプして、まるで滝のように降ってくる(もちろん走塁妨害&殺害目的)というもの。
こんな技に、当時の少年達は夢中にもなったのだ。実際に真似をしようとして大怪我をした子どもたちも大勢いたという。
だが、これをとんでも漫画と一笑にふすのは早計だ。亡くなった中島先生は同作を、死に物狂いで戦う登場選手たちと“同化”して描き続けた。「アストロ球団」は全20巻の大作だが、その途中で先生は、心因性の奇病におそわれ、頭にコブが生じたり、手がグローブのように腫れあがってしまい休作したほど。アストロ選手たちと同じようなダメージを、みずからの身体に投影してしまったのかもしれない。凄まじすぎるエピソードだ。
登場人物たちの魔技の数々も、そこだけを抜き出せばネタのように見えてしまうが、作品の流れで読んでいく際にはどれも作品を盛り上げるエキサイティングな技にしか映らない(笑いはするが)。それは中島先生が、登場人物になりきって血反吐をはいて描いたことにより、圧倒的な作品の勢いを作ったからだ。
細かい理屈はそこにはない、だが、登場人物たちのどこまでも熱い闘いには、今読めば笑ってしまうところも多々あるにせよ、読破後には圧倒的な感動が待っている!
筆者が好きなセリフは「球三郎〜っ 死ぬんじゃねえぞ〜っ おまえのからだをかけめぐっているアストロの血をとめるんじゃねえぞ〜っ 足の一本 腕の一本 ヘシ折られても息のあるうちははいずっても帰ってこいよ〜」。いまも我々、元読者にも「アストロの血」がかけめぐっていたことを思い出し、身体が熱くなった次第。中島先生に合掌を。
文/原田大