一色萌のアイドル、色々。第6回 「アイドルと”夢眠ねむ”」


朝、目を開けると鈍い頭痛を伴って、天井がゆっくりと時計回りに回転していました。わかりやすく体調が悪い。
今日は一日寝ていようと心に決めて、17時。子供たちの帰宅を促す町内放送のチャイムを聴きながら、私は何度目かわからない眠りにつきました。

もしこの時すぐ眠気が来なくて枕元のiPhoneに手を伸ばしていたら、何かが変わっただろうか、とふと考えましたが、どう考えても何も変わらないなという結論にしかたどり着きませんでした。

こんにちは。プログレアイドル・xoxo(Kiss&Hug) EXTREME(キスアンドハグ エクストリーム。通称・キスエク)の一色萌(ひいろ・もえ)です。

2018年10月13日、でんぱ組.incのミントグリーン色担当の夢眠ねむさんが、2019年1月に開催予定の武道館公演をもってグループを卒業すること、そして2ヶ月後の3月には芸能活動を終了することを発表しました。

ねむさんが現在のアイドルシーンで当たり前のように信じられている価値観や文化の形成に大きく影響を及ぼした存在であり、テン年代アイドル界を代表する一人であることは改めて私が言うまでもなく、多くの人の認めるところかと思います。

しかしそれでも今回この話題に触れることにしたのは、単純に発表があってから夢眠ねむさんのことしか考えられなくなってしまったからです。
それまで書いていた原稿の続きが書けなくなってしまったのです。

というわけで今回は一ファンとして、夢眠ねむさんについて書いていきたいと思います。

夢眠ねむさんを「推し」ている方も、そうでない方も、しばしお付き合いいただけますと幸いです。

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わたしはでんぱ組さんのファンであり、夢眠ねむさん推しであることを公言していたので、ライブに遊びに来てくださった皆さんやメンバーから「大丈夫?」とお気遣いいただきました。

もちろん大好きなアイドルさんがステージから去ってしまうことは寂しいことで、少なからずショックなことですが、今回の発表は来るべき時が来たものとして、思いの外すんなりと受け入れることができているような気がしています。

それはねむさんがアイドルとして、いつか必ず来るその時を迎えた時に自分のファンが必要以上に傷ついたり混乱したりしてしまわないように導いてきたからだな、と現実になった今実感しました。

【参考リンク】でんぱ組.inc「WWDBEST」MV

−−−−会えなくなって初めて気付くような 想い出なんて 欲しくないんだ−−−−

この曲を初めて聴いた時にこの歌詞が頭にずっと残りました。
当時はベスト盤を出したタイミングということで解散説などがまことしやかにささかれていた時期で、グループの今までとこれからをつなぐこの楽曲の歌詞には多くのファンが元気づけられたことと思います。

実際にはメンバーの最上もがさんが翌夏に脱退することとなってしまいましたが、この曲があったからこそ、もがさんが脱退報告のブログに記した「悔しい」という気持ちがよりリアルに伝わったように感じました。

いままでわたしはこの歌詞を、「会えなくなって初めて気付くような想い出なんて欲しくない」から「会えなくなることはない」と受け取っていました。
しかし、ねむさんの引退発表を受けてから改めてこの曲を聴いた時、その想い出の大切さに「会えなくなって初めて気付く」ことがないように、ねむさんは要所要所で“その気配”を忍ばせてくれていたのかもしれないな、と思い至りました。
ゆっくりと時間をかけて様々な表現で繰り返し、置き去りにされる人がいないように気を配っていたように思います。

ふつう、アイドルはアイドルとして活動している時に、「わたしはいつかここからいなくなりますよ」なんて気配は見せません。しかし”夢眠ねむ”は言ってしまいます。アイドルにしては人間味がありすぎて、一人一人のファンに対して愛情深すぎる、ねむさんらしい優しさでした。

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わたしがライブアイドルの世界を知り、ライブ会場に足を踏み入れるようになったのは2013年の初め頃です。
「萌」という名前だから”萌え文化”について知らなくてはいけないような気がして、秋葉原で人気のあるメイドカフェやアイドルについて調べていた時に、でんぱ組.incに出会いました。

それまで見てきたハロー!プロジェクトのアイドルとは全く異なり、アニメのような高い声にダンスというよりも演劇のような振り付け、年齢不詳のビジュアルにおもしろい響きの名前……何もかもが新鮮で、ただただ呆然としたことを覚えています。
すぐにその魅力に夢中になりましたが、それは「アイドルを推す」というよりも、もっと別次元の、言うなれば、アニメを見ている時の感じや、小さい頃に憧れた戦隊もののヒーローを応援する気持ちに似た感覚でした。

そうして視野を広げて様々なアイドルを見ていくうちに、学生だったわたしは「アイドルの研究がしたい」と思うようになります。
けれどアイドルの研究者ってどこにいるの?どの学校に行けばそんな研究ができるの?そんな悩みを抱えつつ、学校よりも熱心にアイドル現場へ足を運ぶようになりました。

ほどなくしてその悩みに対する一つの答えを、夢眠ねむさんから得ることになります。

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ねむさんは美大生だった頃に学校で行き詰まり、美術の視点から研究目的でメイドカフェで働き始めます。そして2008年からアイドルライブ&バー「秋葉原ディアステージ」に所属し、2009年にでんぱ組.incに加入しました。

もともと美術系のアーティスト志望でアイドルを志してはいなかった彼女は、ディアステージに入る際、調理担当を希望して面接を受けたそうです。

成り行きでアイドルになったねむさんですが、今や日本を代表するアイドルグループ“でんぱ組.inc”の一員です。
それでも最後まで「自分はアイドルに向いていない」と言い続けてきました。
そして、アイドルは本来「アイドルをやるために生まれてきたような人」がやるものだ、という主張も一貫しています。

また、ねむさんはしばしば自身は”夢眠ねむ”という「作品」であり、“中の人”がアイドルの形を借りて表現しているものだ、と語ります。

これは美術大学に通い、裏方の仕事の方が肌に合っているという実感をもちながらも表現方法の一つとしてアイドルを選んだ彼女らしい言葉で、それ以前のアイドルには見受けられないスタンスでした。
そしてそのことを明け透けに公言してしまう潔さもまた、彼女の存在感を際立たせていました。

“夢眠ねむ”そして“でんぱ組.inc”が萌え文化とアイドルカルチャーの融合に成功し、芸術の分野とも文脈を共有し始めて以降、アイドルと芸術の距離は確実に近くなりました。

また「向いていない」という意識をもちながら自己プロデュースと努力でアイドルとして大成功していく様子は痛快で、アイドルに密かに憧れていた多くの女の子や男の子が勇気をもらったことと思います。

「アイドルに向いてない」ことを自覚していても、アイドルをやっていい。
「アイドルを研究したい」という目的でアイドルになってもいい。わたしもまた、“夢眠ねむ”に大きく影響を受けた一人です。

しかしながら、生身の人間でありながら自己プロデュースによって自身をポップアイコンとして偶像化するということは、簡単に成し遂げられることではありません。

アイドルはしばしば、誰かの理想の依り代になります。
見ている人の夢や理想を体現するものとして存在することで、癒しや楽しみを提供します。
その姿勢は基本的には受け身で、アイドルの方から自身の見方やあり方を解説したりすることはあまりありませんでした。

しかしねむさんは、自分の意図しない受け取り方や良しとしない理想を押し付ける人に出会った時、反論することがあります。一般的な人と人がコミュニケーションをとる時と同じように、反論してしまいます。

それはおそらく彼女がアイドルでありながらもアーティストとして、彼女の作品である彼女自身が見る人にどう受け取られ、消化されていくのか、という部分にまで関心があるからでしょう。

その職人気質とも言える自分の作品に対するこだわりは、そのまま彼女の「作品」に対する信頼にも繋がっているように思います。
たまに中の人が暴走したこともあったような気がするけれど、それもご愛嬌です。
普段、徹底した自己プロデュースでやりすぎなくらいの全力でアイドルをしているからこそ、時々顔を出すメタな視点が小気味よいのです。

ねむさんの今までを知れば知るほど、“夢眠ねむ”の卒業、そして引退には意味があり、彼女はである最後の瞬間まで“夢眠ねむ”を全うするだろうな、という確信めいた気持ちが強くなります。
熱心なファンであるほど「やめないで!」と言えない状況は、ねむさんは意図したものだったのでしょうか。

−−−−わがままだけどそうそれも全て夢眠ねむだもの!−−−−

はぁ、そうなんだよなぁ。
いつか可愛く歌ってみせたその歌詞に説得されるように、きっとみんなすべてを受け入れてしまうのです。

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ねむさんは、2011年に美術家・会田誠さんの展覧会「美術であろうとなかろうと」(東京ワンダーサイト本郷)に参加し、《ねむの方舟》というインスタレーションを発表しています。

“夢眠ねむ”も“でんぱ組.inc”も現在のような知名度はなかった頃に製作された作品ですが、この作品が予言したかのように、その後ねむさんはアイドルを通してたくさんの人を救いました。

ミントグリーンの方舟に、ふわふわきらきらしたものをたくさん乗せて、かよわい少女の姿でオールを握っていた2011年。
もし彼女が今同じものを作ったら、その舟には何が乗っているのでしょう。

3月以降のことを思うとさみしくなってしまうけれど、今は彼女が10年という長い月日をかけて作ってきた作品の完成までの道のりを、どきどきわくわくしながら最後まで応援し続けたいと思います。

そして卒業、そして引退の後、彼女が何を乗せてどこへ行くのか、気になるけれど、その先はどこでもいいような気がしています。
だってそれも全て、夢眠ねむなんだもの。

【プロフィール】
一色 萌(ひいろ もえ)

ニックネーム:萌ちゃん、萌氏、誕生日:5月27日、出身:東京都、血液型:A型、趣味:アイドル研究、特技、アイドルについて話すこと
WALLOP放送局「キスエクのギュッと!プログレッシヴ!」レギュラー出演中(2018.4〜)

<一色公式Twitter> https://twitter.com/hiiro_moe
<公式Twitter> https://twitter.com/xoxo_extreme
<取材・オファー等> Email : contact@twelve-notes.com

【グループプロフィール】
xoxo(Kiss&Hug) EXTREME(キス・アンド・ハグ・エクストリーム 通称:キスエク)
楠 芽瑠・一色 萌・小日向 まお・小嶋 りんの4名からなる、プログレッシヴロック(略:プログレ)の楽曲を中心にパフォーマンスしているアイドル。プログレとは、曲調がよく変わる・曲が長い・変拍子…等が特徴の楽曲です。

2017年に、発売したシングル「えれFunと”女子”TALK〜笑う夜には象来る〜」に対して(キング・クリムゾン「エレファント・トーク」オマージュ)元キング・クリムゾンのエイドリアン・ブリューがその動画に「I like it!」とコメントで絶賛。

ライブ活動の他、ディスクユニオン新宿プログレ館で一日店員を務めたり、プログレファンの聖地である吉祥寺シルバーエレファントに、アイドルとして初出演。

2018年にフランスを代表するプログレバンドMAGMA公認カヴァー曲の「The Last Seven Minutes」を初披露。その動画がyoutubeにアップされると、カヴァーを公認したMAGMAが、公式Facebookで紹介したこともあり、一日で2000以上の再生数を得て話題になる。

同年2月4日に記念すべき初のワンマンライヴを鹿鳴館にて開催。プログレッシヴロックを知っている人も知らない人も楽しめるLIVEと評判。