最近ネットでは「つけ麺はスープがどんどん冷たくなるからマズい」「料理として未完成すぎる」など、つけ麺批判が聞こえてくる機会が増えてきた。たしかにつけ麺は、よく考えれば、水でしめた麺を熱々スープに入れて食うという、熱いのか冷たいのかナゾの料理だ。
しかし、最近の「つけ麺は冷たくなるからマズい」という意見に、つけ麺を生んだとされる人物が反論している。それが東池袋大勝軒の元店長の山岸一雄氏だ。ラーメン界のゴッドファーザーとも称され、現在は氏の人生を追ったドキュメント映画『ラーメンより大切なもの』が公開されている。そんなつけ麺ブームを作った人の話しならば、それは聞いてみたいところ。
ラーメンの鬼との対談
氏による異議が語られているのは『佐野実のラーメン革命』(09年、朝日新聞出版)。ラーメンの鬼・佐野氏と山岸氏が対談している同書73頁によれば「2、3回食べたらスープが冷めるから嫌い、という意見があるけど、これは全然わかっていないね。私に言わせれば、冷めていく過程でさらに味わっていく、これが上手な食べ方。冷めるほどにうまさが出てくる。薄くなる時にさらに真の味が出てくるんだよ。スープ割りというのもあるけど、うちではやらない。スープを新しく入れるとまた味がたっちゃう。」
スープが冷める味わいの中に、また妙味があるというのだ。
続けて「つけ麺の汁に水なりお湯を入れて薄めて飲む。栄養があるしうまい。麺もぎゅーっと絞って一滴も水を残さないというのもあるけど、下に少し水が残るくらいあると麺もくっつかないし、最後にあまった水を汁に入れて飲める。これが理想の食べ方。」
はじめて聞くことばかり。この食べ方、言うなればザルそばの底にたまった水で、つけ汁を割るというワイルドな感じ。
佐野実が微妙な反応を…
「生卵を入れたら、また最高。私は白身のなめらかさでどんどん食べて、黄身を最後に食べる。私のこだわりはそれで、卵を入れて黄身が崩れるともうひとつ、なんてね(笑)。」
それに対して佐野実氏が「山岸さんのつけ麺へのこだわりを感じますね。」と、山岸流の本来の食べ方での、味については言及していないのが興味深い。まさかゴッドファーザーの食い方を、佐野氏は「…微妙」とか思ってるんじゃないでしょうね?
そんなゴッドの食い方を真似して食べてみたんですが、極楽浄土というよりは異次元に引きこまれるようなすごい味わいでした! 卵を入れたら特に。いや、この食べ方がということではなく、熱いのか冷たいのかわからないつけ麺という料理は本来、次元の狭間からやってきた物体Xのなのかも、と思わされた次第。つけ麺のポテンシャルを引き出し、そこまで慈しめる山岸氏は、やっぱり高次の存在なんでしょうか。すごい人です、本当に!
文/槇本誠一
山岸さんの現在のつけ麺ブーム批判など、面白い一冊です!