2025年7月1日、私たちの太陽系に突如として現れた、謎の訪問者「3I/ATLAS」。時速20万キロメートル以上という猛スピードで太陽に向かうこの天体は、太陽系外からやってきた「恒星間天体」であることが確認され、世界中の天文学者を興奮させています。
観測によると、その正体は直径20キロメートルを超える巨大な彗星の可能性が高いと見られています。しかし、そんな中、ある著名な科学者を含む研究グループが、「これは地球を攻撃する目的を持った、敵対的なエイリアンの宇宙船かもしれない」とする、衝撃的な論文を発表し、大きな波紋を広げています。
ある科学者たちが唱える「エイリアンの偵察機」説
このセンセーショナルな説を提唱しているのは、ハーバード大学の著名な天体物理学者であるアヴィ・ローブ氏らの研究チームです。ローブ氏は以前にも、2017年に飛来した恒星間天体「オウムアムア」を「エイリアンの偵察機だ」と主張し、科学界で大きな議論を巻き起こしたことで知られています。
ローブ氏らが今回、3I/ATLASを「人工物」と考える根拠は、主に以下の3つです。
特異な軌道と速度:これまでの恒星間天体とは異なる角度で太陽系に侵入しており、その速度も非常に速い。これは「地球外生命体にとって様々な利点がある」と指摘しています。
惑星への接近:木星、火星、金星に接近する軌道をとっており、これは各惑星に密かにスパイ用の「ガジェット」を設置するためではないかと推測しています。
11月の「潜伏」:11月下旬に太陽に最も近づく際、地球からはその姿を観測できなくなります。ローブ氏は「最も明るく輝くこのタイミングで、地球からの詳細な観測を避けるため、意図的に隠れている可能性がある。その間、地球に向けて何らかの装置を送ってくるかもしれない」と警告しています。
もしこの仮説が正しければ、「人類にとって悲惨な結果をもたらす可能性がある」と論文は述べ、防衛的な措置が必要になるかもしれない、とまで示唆しています。
しかし、多くの専門家は懐疑的「単なる彗星である可能性が極めて高い」
この「エイリアン襲来説」に対し、他の多くの科学者たちは冷ややかな反応を示しています。
カナダの天文学者サマンサ・ローラー氏は、「全ての証拠は、これが他の恒星系から弾き出された、ごく普通の彗星であることを示している」と述べ、ローブ氏の説を一蹴。
また、オックスフォード大学の天文学者クリス・リントット氏は、この説を「馬鹿げた話」と断じ、「世界中の天文学者たちが、この貴重な訪問者について学ぼうと協力して研究している。それを人工物だとするいかなる主張も、この刺激的な研究に対する侮辱だ」と強く批判しています。
論文自体の注意点と、著者自身の言葉
実は、この論文には科学的な正当性を判断する上で、非常に重要な注意点があります。それは、専門家による審査(査読)を経ていない、プレプリント(査読前論文)の段階で公開されているという点です。
論文の著者たち自身も、「これは検証可能ではあるが、驚くべき仮説に基づいている。著者自身が必ずしもこの説を支持しているわけではないが、分析し報告する価値はある」と、その内容があくまで仮説の域を出ないことを認めています。
ローブ氏自身もブログで、「最も可能性が高いのは、3I/ATLASが完全に自然な天体、おそらくは彗星であるという結果だろう」と述べており、自説がSF的な空想に近いものであることを示唆しています。
太陽系にやってきた珍しい客人「3I/ATLAS」は、天文学的には非常にエキサイティングな研究対象です。その一方で、注目を集めたい一部の研究者によって、SFのような物語の主役にされてしまった、というのが今回の騒動の実態のようです。
今後、世界中の望遠鏡による観測で、この天体の正体はさらに詳しく明らかになっていくでしょう。私たちは、センセーショナルな見出しに惑わされることなく、科学的な発見の進展に注目していきたいですね。