日本生まれの炭酸飲料・サイダーの原点となるのが、昭和10年頃に発売された「三ツ矢シャンペンサイダー」を前身に持つ「三ツ矢サイダー」。何と今年で134歳になる古株どころではない老舗炭酸ドリンクだ。もちろん大方の飲料同様、時代とともに味も変わったが、今回限定発売となる『三ツ矢サイダー NIPPON』は昭和初期の味わいを再現した懐かしの味。現行「三ツ矢サイダー」と比較しつつ、楽しんでみる。
海外に行って「サイダー」と注文するとお酒が来てしまう!?
そもそもサイダーの語源はciderなのだが、これがイギリスではリンゴ酒をさす言葉。日本にそうしたリンゴ酒が入って来たときに、苦肉の策としてフランス風の発音で”シードル”と呼ぶことにしたという過去がある。日本のほかでは韓国くらいしか、こうした炭酸入りの甘いノンアルコールドリンクをサイダーとしか呼ばないので、ほぼ日本オリジナルといっても過言ではない存在だ。
そんな「三ツ矢サイダー」だが、134歳ともなるといろいろ昔とは変わっている。昭和に青春時代を送った人ならば、久々に飲んで、そのいつの間にかの味の変化に衝撃を受けた人も多いだろう。
そんな古き良き時代の味わいを復活させてくれたのが昭和初期レシピに沿って作られたアサヒ飲料『三ツ矢サイダー NIPPON』(500ml・希望小売価格 税抜140円・2017年8月8日発売)。瓶ではなくてボトル缶というところは新しいルックスだが、パッケージが赤いところがかっこいい。グリーン・イメージの現行品とは明らかに印象が違う。
そもそも記者はペットボトル入りのサイダーがあまり好きではない。炭酸をギリっと味わいたいタイプの人間なので硬質・厚手の素材を使っていても、缶素材にはかなわないと日頃から思っている。その点比較した現行品はすでにペットボトルなので不利ということを書いておきたい。
原材料名を比較してみるとわかるのだが、現行「三ツ矢サイダー」(500ml・希望小売価格 税抜140円・発売中)は先頭に「砂糖類(果糖ぶどう糖液糖、砂糖)」と書いてある一方、『三ツ矢サイダー NIPPON』は「砂糖類(砂糖、果糖ぶどう糖液糖)」となっているのが違い。成分の含有量の多い順に表記しなければならないという決まりがあるので、ここがはっきりとした違いだ。
ちなみに砂糖はいいとして、果糖ぶどう糖液糖というのは安価に大量生産可能で砂糖よりも甘みが強く炭酸飲料のほとんどに使われている現在のスタンダード甘味料。甘みが強すぎて単独で使われることは少なく、中和のための酸味料がほとんどの場合入ってくるのが特徴。
その違いは後味。砂糖は飲んだ後に特有の味を残す。これが”べタッとしている”と表現されることもある砂糖の特徴。一方果糖ぶどう糖液糖は酸味料とバランスをとると、すっきりしているけど甘いという味わいを実現できる。飲んだ感じでは砂糖の方が太りそうな味わいで、果糖ぶどう糖液糖の方が影響がなさそうなフィーリングなのだが、むしろ果糖ぶどう糖液糖の方がむしろ吸収が早く、血糖値を上げやすいので注意。
『三ツ矢サイダー NIPPON』は砂糖の味がしっかり浮かび上がる本来の砂糖水的な美味しさに溢れた逸品!
それでは飲んでみよう。キャップをひねると、ふんわりとした抑えめの爽やかな香り。確かに遠い昔に飲んだことのある香り。どこか駄菓子ふうで、綿菓子の美味しさに通じる香ばしい甘さも感じる。
一口飲んで、その違いに驚いた。砂糖の味がバシッと来る。同じ価格ということは、コストの高い砂糖を増やしたぶん、メーカーが頑張っているということか。ふわっとした平和、もしくは幸せな甘さ。何より喉を通っていった後も残る、後味の素敵さはもうたまらなく美味。たまに地サイダーなどでこの味にめぐり合うことがあるが、通常コンビニには並んでいないタイプの素敵な甘みの炭酸飲料だ。
現行「三ツ矢サイダー」はすっきりさが際立つ現代的な味わい!
実はカロリーはこちらの方が微妙な差だが、1kcal高い42kcal。なのに甘さは控えめで、喉に流し込むと炭酸の泡が主役に立ち、甘みは包み込むように広がるタイプ。まさにすっきり爽やか。シトラス系に近い香りが、キャップをひねった途端に派手に顔を出す。
こちらには郷愁感はなく、まさに今を生きるサイダーという印象だ。ただクセがないので指名買いする必要性は感じない。
昔のレシピは今後の炭酸飲料の進む方向を示唆する偉大なる砂糖ベースの真っ当な味わい。果糖ぶどう糖液糖全盛時代に一石を投じるか!?
記者としてはもう、問答無用に『三ツ矢サイダー NIPPON』に軍配をあげる。特別限定生産などと言わないで、価格が多少上がってもいいから残してもらいたいと思うくらいの理想的な甘口炭酸飲料の味わい。
酸っぱさに走るわけでなく、素直にピースフルな砂糖の甘みを前面に押し出したこの味は、今一度、全清涼飲料水メーカーが原点として感じ直すべき味だと感じた。