世界的な問題である肥満を治療するための、病院で医師がおこなう新しい手法が話題になっている。この方法ならば手術による胃の切除や脂肪吸引といった外科手術や抗肥満薬が必要なしで、患者にダイエットをさせることが可能なのだ。
その方法とは(一見ギョッとするが)、胃の中に風船状の器具を入れて、水でふくらませるというものだ。すると患者は食欲が減少、実際に食べられる量も減るために、即効で痩せていくという。これまでのデータでは、多くの患者は3ヶ月〜4ヶ月で7kg〜10kgものダイエットに成功しいているという。
胃の中の風船で、食欲を抑える
この器具・手法は「Elipse Balloon」(エリプス・バルーン)と呼ばれており、楕円の風船の意だ。主導したのはローマ大学のロベルタ・イエンカ博士(Dr.Roberta Ienca)。
イエンカ博士によれば、「患者さんたちの反応は信じられないほどですね。彼らはこの器具でのダイエットの成功に満足しておられます」という。
「Elipse Balloon」ははじめ、チューブのついたカプセルのような状態で、それを肥満治療を必要とする患者が飲み込む。医者は胃の中に入ったことを確認すると、チューブから水をいれていき、適度なサイズになったら水を止めて、チューブを取り除く。4ヶ月後には自然にこの風船が破裂し、排泄されて終了するということだ。
4ヶ月で15kgのダイエットに成功も
ポルトガルで行われた欧州肥満会議(the European Congress on Obesity)では、男性29人、女性13人の42人を対象にした研究が発表。ほとんどの人が多く体重を減らす中、もっとも典型的だった例では、BMI値39で、体重が120kg近くあった男性が、16週間で15kg程のダイエットに成功している。
現在複数の国の肥満外来病院などで、医師の管理のもと、この器具を使用することができる。ただし費用は48万円相当と高額だ(他の手術や入院費用の総額よりは安いかもしれないが)。
欧州肥満学会会員で、リバプール大学のジェイソン・ハルフォード教授は、これは大掛かりな手術を希望しない肥満患者にとっては有効な方法だと指摘。また肥満手術後の合併症のリスクもなく、抗肥満薬を使う必要がなくなることを、長所だとしている。
風船排泄後、食欲回復も?
だが、全員が両手をあげて賛成しているわけではなく、インペリアルカレッジロンドンのサイモン・コルク博士は、風船が取り除かれた後は、患者の食欲が回復してしまい、体重を回復する危険性があると指摘。
アジア人以外の多くの人種では、膵臓のβ細胞が分泌するインスリンが高く、その結果日本人などでは考えられないほど太ることができる(なかなか糖尿病にならないため健康問題化しづらい※)。その分、肥満が医療費を圧迫するなど大きな社会問題となっているなか、一つの光明として注目されている。
(※内臓脂肪が増えると、アディポカインというホルモン様物質を生産、それによりインスリン抵抗性が誘導される。その結果、糖が肝臓や筋肉で上手く使われなかったり、インスリンが上手く分泌されなくなり、血糖が上昇し糖尿病を招く。アジア人はインスリンの分泌能力が低いために上記の状態が、早く起きやすい)
参照・https://www.ncbi.nlm.nih.gov/pubmed/26253980