マイクロソフト本社社員が「某メーカーのヘッドフォンを使わなくなった」——Jabra Evolve3の実力

「某メーカーの人気ヘッドフォンをもう使わなくなりました。10日間一度も手に取っていません」。マイクロソフト本社(コーポレーション)で社内ITを統括するマイクロソフトデジタル本部の山口氏は、そう打ち明けた。彼が手放せなくなったのは、デンマーク発のオーディオブランドJabraが3月1日に発売したプロフェッショナルヘッドセット「Evolve3」シリーズだ。

ブームマイク廃止という「業界の壁」に挑んだEvolve3

Jabraを展開するGNオーディオジャパンは3月3日、渋谷のセルリアンタワー東急ホテルで製品発表会を開いた。Evolve3はオーバーイヤー型の「85」とオンイヤー型の「75」の2モデル構成で、公式サイトの税込価格は85が7万1280円、75が5万4780円。口元に伸びるブームマイクを持たない「ブームレス設計」が最大の特徴だ。

Evolveシリーズは2014年、オフィスの雑音環境向けに初代が登場した。2020年にはハイブリッドワーク対応の第2世代へ進化し、今回の第3世代はAI時代の音声入力を見据えた設計だと、GNオーディオジャパンの安藤靖社長は位置づける。開発の背景には切実な声があった。

営業部部長の藤由龍矢氏は「お客様に『街中でオーバーイヤーのヘッドセットをつけて会議しているのはジャブラの社員だけだね』と言われた」と苦笑交じりに明かす。ブームマイク付きの従来デザインでは、外出先で装着すること自体にためらいが生じる。過去には他社がブームレスに挑み、「スピーカーマイクなんじゃないか」と酷評されて撤退した例もあったという。

補聴器とゲーミング——GNグループの技術結集

Evolve3がブームレスでも通話品質を確保できた背景には、親会社GNグループ内の技術融合がある。

核となる「Jabra ClearVoice」は前世代から搭載されていたが、Evolve3ではディープニューラルネットワーク(DNN)技術を加え、6000万件の音声データで事前学習を施した。藤由氏によれば、学習対象は特定の言語や方言ではなく「人の声の特徴そのもの」だ。話者の声とノイズを高精度に分離する目的で、ブームマイクとイヤーパッドの間にある3〜4センチの距離を埋めるために欠かせなかった技術だという。

このDNN技術は、GNグループ傘下の補聴器メーカー「GNヒアリング」と共通基盤を持つ。補聴器でも背景騒音から目の前の人の声だけを抽出し、苦手な音域を補正する処理をリアルタイムでこなしている。イヤーパッドには、同じくグループ傘下のゲーミングブランド「スティールシリーズ」が長時間装着向けに研究してきたファブリック素材の通気性技術を採用した。補聴器の音声処理、ゲーミングの装着快適性、ビジネス通話のノウハウ——3つの領域が一つのヘッドセットに収斂した格好だ。

発表会では渋谷・国道246号線沿いの屋外にいる社員とのライブデモが披露された。PC内蔵マイクでは騒音にかき消されていた通話が、Evolve3への切り替えで一変する。リモート側の社員は「シュンと静かになって、一瞬ミュートにしたのかと思った」と驚いた。すぐ横で別の社員が大声で電話していたが、その声はまったく混入しなかった。

マイクロソフト本社社員が語った「フォーンブース不要論」

発表会後半では、マイクロソフト本社の社内IT部門から山口氏と久保田俊介氏が登壇し、約1〜2週間の試用体験を語った。

山口氏の第一印象は明快だった。「箱を開けた瞬間、失礼かもしれないけどジャブラさんの製品かなと思ったぐらいカッコいい。そして圧倒的に軽い」。音楽再生の品質にも衝撃を受けたといい、冒頭の「某メーカーの人気ヘッドフォンを使わなくなった」発言へつながる。「どこから聞こえているか分からないぐらい自然な音楽で、個人的には仕事よりも音楽に使いたい」とまで口にした。

IT管理者の久保田氏が注目したのは業務環境へのインパクトだ。マイクロソフト本社では出社率の上昇に伴い、個室ブース(フォーンブース)の不足が深刻化している。増設の要望がIT部門に押し寄せる中、久保田氏は「このヘッドセットがあれば自席から自由に会議に出られる。フォーンブースはいらないんじゃないか」と言い切った。

ゲスト講演に立った日本マイクロソフトの平井健裕氏は、音声入力がテキスト入力の約3倍速いというデータを示した上で、法人向け「Microsoft 365 Copilot」も音声対応したことを紹介。AIとの対話が日常業務に組み込まれる時代、ヘッドセットの音声品質が生産性を左右する——その文脈をはっきり示した。

今年後半にミドルレンジ投入へ

Evolve3 85は前世代比で35%スリム化・23%軽量化を果たし、重量220グラム。10分の充電で最大10時間使える急速充電に加え、バッテリー交換にも対応する。藤由氏は交換式バッテリーについて「メーカーとして正しいのかわからないけど、正しいんですよね」と笑いを誘った。

カラーは当初ブラックのみで、ウォームグレーはECサイトから販売を検討している。「見た目は素敵だと言われるのに買っていただけない色」「販売代理店も注文するとき手が震える」と藤由氏がぼやく一幕もあった。安藤社長は今年後半にミドルレンジモデルの投入も予告しており、Evolve3の技術をより手頃な価格帯へ広げる構えだ。

編集部: