SNSは“敵への攻撃”より“仲間との結束”で拡散する? 2024年米大統領選の衝撃事件が示した「ネット世論の意外な動き」

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SNS(ソーシャルメディア)と聞くと、過激な意見や対立相手への攻撃、いわゆる「炎上」が注目を集めやすい場所、というイメージが強いかもしれません。これまでの多くの研究も、政治的に対立が激しい環境では、敵対的な投稿ほど「いいね」やシェアが集まりやすいことを示してきました。

しかし、2024年のアメリカ大統領選挙中に起きた衝撃的な出来事を分析した最新の研究が、この常識を覆すかもしれない、非常に興味深い結果を報告しました。

ケンブリッジ大学の研究者らが主導したこの研究によると、自らが支持するグループが大きな危機に直面した時、人々は「敵への攻撃」よりも「仲間との結束」を示す投稿に、より強く反応するというのです。

分析で判明した共和党・民主党支持者の“手のひら返し”

この研究では、2024年7月に起きた2つの大事件、①トランプ前大統領の銃撃事件 と ②バイデン大統領の選挙戦撤退 を挟む期間の、Facebook投稿約62,000件が分析されました。投稿は「仲間との連帯を示す内容」か「敵対グループへの攻撃的な内容」かに分類され、それぞれのエンゲージメント(反応)が比較されました。

その結果は、まさに「手のひら返し」と呼べるものでした。

平時(事件前):
共和党・民主党ともに、敵対グループを攻撃する投稿が最も高いエンゲージメントを得ていました。これは、従来の「炎上」が注目を集めるという通説通りの結果です。

トランプ氏銃撃事件後:
共和党支持者の間で、仲間との連帯を示す投稿への反応が急増。事件前と比べてエンゲージメントが36%増から53%増へと跳ね上がりました。一方で、民主党を攻撃する投稿への反応は低下しました。まさに「自分たちのリーダーが脅かされた」という危機感から、内側の結束が強まったのです。

バイデン氏の選挙戦撤退後:
今度は民主党支持者の間で、仲間との連帯を示す投稿へのエンゲージメントが爆発的に増加し、他の投稿に比べて91%増という驚異的な数字を記録しました。一方で、共和党支持者の間では、民主党への攻撃的な投稿への反応が51%増と急上昇。「敵の弱み」を好機と捉えたかのような動きが見られました。

この結果は、SNSでの人々の反応が、置かれた状況によって大きく変化することを示しています。自らのグループが脅威に晒された時には「結束」を求め、ライバルが危機に陥った時には「攻撃」に転じる、という複雑な心理が浮かび上がってきました。

日本社会への教訓― 大きな事件の時、ネットでは何が起きるか
この研究はアメリカの事例ですが、政治的な分断やSNSでの誹謗中傷が問題となっている日本社会にとっても、重要な示唆を与えてくれます。

記憶に新しい安倍元首相の銃撃事件の際、私たちの国のSNSでは何が起きていたでしょうか。多くの人々が追悼の意を示し、暴力に反対する声を上げる一方で、特定の団体や個人への攻撃、そして陰謀論といった、社会の分断を煽るような投稿もまた、凄まじい勢いで拡散されました。

今回の研究は、こうした大きな衝撃的事件が発生した際に、人々の心の中で「連帯を求める感情」と「敵意を煽る感情」が、いかに複雑に絡み合い、SNS上で増幅されていくかを理解するための一つのフレームワークを提供してくれます。

SNSは、常にネガティブな感情や対立を増幅させるだけの装置ではありません。共通の危機に直面した時には、人々が連帯し、支え合うための強力なツールにもなり得ます。

研究者も指摘するように、SNSでの人々の振る舞いは固定的なものではなく、歴史的な出来事と連動してダイナミックに変化します。私たちがどのような時に団結し、どのような時に互いを攻撃し合うのか。そのメカニズムを理解することは、分断が進む現代社会を乗り越えるための、重要な第一歩となるでしょう。

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